log:06-閉鎖-
薄暗い部屋の中、監視モニターを凝視する。
こわばった表情を浮かべ、冷や汗が頬をつたう。
同時進行でキーボードを打ち込み、ラウンジ内へ安全システムを起動させる。
部屋中の異常が煙のように消え去る。
元のラウンジの姿が形成された。
「ふぅ…。」
静かに一息ついて、背もたれに寄りかかる。
改めて、マウスを持つ手を動かす。
小さなダブルクリック音。
監視カメラの映像記録と書かれたファイルを開く。
画面を拡大し、部屋の隅々を確認する。
キッチンエリアから生え広がった植物の群生。
シンクに置かれた如雨露の水を吸い、花が咲く。
その情景は、あまりに綺麗すぎた。
ソルが思わず、手で口を覆う。
ー何が起きた?
別モニターで行動履歴を参照しながら、慎重に映像を巻き戻す。
赤文字で書かれた“LOUNGE ERROR”が表示されたタイミングのログ付近。
1人残されたルカの足元から植物が伸び始める映像。
もう一度、画面を数秒戻す。
[行ってらっしゃい!]
笑顔で振る舞うルカ。
その一瞬だけ、映像が歪む。
「…これだ。」
なんとなく、察しは着いていた。
ただ。これは推測に過ぎない。
白黒石の間に咲いた黄色い花を思い出す。
昨晩もそうだった。
「気づけてたはずなのに…。」
視線を落として小声で呟く。
「…いや。切り替えろ。」
強く目を瞑って、頭を左右に振る。
別画面のデバイスを開き、メッセージを送った。
イヴ個室。
「…そう。例えば、こっちの案の場合はー。」
デスク上に広げられた資料用紙。
計算機を叩き、資料をペン先でなぞりながら、丁寧に説明を続けるイヴ。
『なるほど。じゃあ、こっちは?』
隣で腕組をしながら、真剣な表情で資料をみつめるライ。
青白くホログラム化された、白髪短髪で優しそうな表情の男性の姿。
Tシャツとパーカーのラフな服装で立っている。
突如、イヴの胸ポケットの小型デバイスが震える。
一旦体を起こし、内容を確認する。
ソルからのメッセージ。
片手で淡々と返答を送る。
[今どこ。ライは?何してる?]
[個室。一緒に居る。相談。]
[ルカは?]
[…知らない。]
[説明する。ラウンジ集合。]
ほんの一瞬、イヴの眉元が動く。
ライは、そのほんの少しの違和感が気になった。
『なにかあった?』
「…分からない。ソルが、ラウンジ集合って。」
『わかった、行ってみよう。』
ポケットからスマートフォンを取り出す。
画面をタップする。
入力と表示のタイミングが、ほんの少しズレる。
『サーバー重いな…。』
上にスワイプして、再読み込みさせる。
すると、黄色い太文字で“LOGOUT ERROR”と表示された。
ライの息が止まる。
これは…ただの通信不良じゃない。
部屋の奥、AI専用ゲートに視線を向ける。
『イヴ。ちょっと、ゲート開けられる?』
「分かった。」
部屋のゲート側から直接移動を試みる。
しかし、ゲート側もエラー表記が出たまま、動かない。
管理側のパスワードを入力しても、反応は無い。
ー外側からの抑制。
嫌な推測が頭をよぎる。
「…閉じ込められた。」
扉にそっと手を当てて、小さく呟く。
違和感が手を伝う。
イヴの視界に、ゲートの入口から薄く黄色い粒子が飛んでいるのが見えた。
見逃さないように、注視する。
本当に微かだが、少しずつ見えてきた。
蔦のような形状の粒子が、扉から這い出ている。
改めて粒子に触れ、イヴ側でそれを生成させる。
ゲート全体が蔦で埋め尽くされた情景がくっきり浮かぶ。
『…ルカ。』
閉鎖された部屋の中で、ライの声が静かに零れた。




