log:21-仮説-
同時刻の早朝。
コテージエリア内の湖畔で、ルカは一人でローチェアに腰掛けていた。
今日は朝から気温が高く、ルカはアイスティー片手に、視線を湖の更に奥へ向けていた。
奥にそびえる大きな山脈の間から、静かに登る朝日。
「綺麗だなぁ〜…。」
一気に周囲が明るくなる様子を、ルカは微笑みながら、気持ち良さそうに浸っていた。
「さてとぉ!お水あげに行かなきゃねぇ。」
ルカは立ち上がり、ラウンジ本館へ向けて歩き出した。
程なくして、ルカはラウンジのテラス側から入室した。
「ふんふん〜。……あれぇ?」
鼻歌混じりにキッチンへ向かったルカは、無造作にあけられたままの無数の棚を見つけた。
周辺をよく見ると、ソファエリアのテーブル上も、物が散乱している。
ルカは顎に指を当てて首を傾げた。
「誰か、探し物でもしてたのかな?」
特に気に留めることはせず、ルカは「仕方ないなあ〜」と軽いため息をつきながら、部屋を片付け始めた。
「よしっ!」
室内を元の綺麗な形状に整えたルカは、満足気に一息ついてから、如雨露に水を溜め始めた。
水が満杯に入った如雨露を手に持ち、窓辺横のプランターエリアへ歩く。
すると、床に倒されたひとつの植木鉢が目に止まった。
「あららぁ、転がっちゃってる。」
ルカは傍のローテーブルに如雨露を置くと、丁寧に植木鉢を起こした。
ふと、散乱した土の中が一瞬光る。
ルカは「なんだろう?」と考えながら、ゆっくりしゃがみ込む。
土の中に埋まっている、黒い小さな鍵を手に取る。
よく見ると、鍵の側面に“cottage”の文字が掘られている。
「えっ…これって……。」
その瞬間、ルカの表情は血の気が引いたように、険しく変わった。
ルカは咄嗟に立ち上がると、急いでテラスの扉を開けて飛び出した。
ラウンジ室内用のスリッパのまま、土の上を走る。
息を荒らげながら向かった先は、ソルのコテージ。
「ソルちゃん!ソルちゃん!!」
扉を強く叩きながら、ソルの名を何度も呼ぶ。
しかし、扉の中からの返答は無い。
諦めずに扉を叩き続けたが、結果は変わらなかった。
ソルも居ない。
ルカはそう考えた途端、恐怖感で身体が震えはじめた。
ルカは涙目になりながら、震えた声で「ソルちゃん…。」と漏らした。
その場に膝をつき、扉に腕を押したままうなだれる。
でも、このままじゃダメだよ。
ルカは心の中で自分に言い聞かせると、涙を手で拭って再び立ち上がった。
スリッパを脱ぎ、裸足になって歩き出す。
「すぅ…、ソルちゃーん!!」
大きく息を吸い、大声で叫ぶ。
周囲にルカの声が響き渡る。
「…うん?」
ちょうど湖畔に到着したソルが、微かに聞こえてきた声に反応した。
背負っていたリュックを地面に置いてから、コテージのある林の方へ視線を向けた。
じっと立ったまま、音に集中する。
もう一度、遠くから何度も名を呼ぶ声に、ソルは確信した。
今、ただ事では無い何かが起きている。
「……ルカ!」
ソルは声の方向へと走り出した。
林の中に入ると、その声はすぐ側まで近づいていた。
「はぁ、はぁ…居た。」
遠くの方に、裸足で立つルカの姿を確認し、ソルは息を切らしながら駆け寄る。
「けほっ…ソルちゃーん…!」
喉が枯れるほど叫んでいたルカは、何度も咳払いをしていた。
ソルはルカの背中を優しくさすりながら「もう大丈夫」と言ってなだめる。
安心したのか、ルカはその場に崩れ落ちた。
「どうしたの、ルカ。何があった?」
「……これ。」
ソルはルカの視線に合わせてしゃがみ、問いかける。
ルカは震えた手で大事に抱えていた黒い鍵を、ソルに渡す。
「……まずい事になった。」
鍵を確認したソルの目が大きく開く。
「ラウンジに戻る。ルカはここに居て。」
「嫌!!私も行くよっ。」
ルカの強い意志に気圧されながらも、ソルは土まみれの素足を心配そうに見つめた。
そして、自分の履いていたシューズをルカへ渡す。
ルカは「えっ」と驚いた様子で靴を受け取る。
「ありがとね…。」
「一緒に戻ろうか。」
ソルは靴下のまま立ち上がり、靴を履いたルカの手を引いた。
ラウンジへ戻った二人。
ソルは真っ先にモニターエリアを確認した。
ルカもソルの隣から、一緒に画面を見つめる。
「やっぱりおかしい。」
ソルは画面を操作しながら、眉をひそめた。
ラウンジの室内監視カメラは、ソルの不在時は必ず自動でラウンジの映像を記録しているはずなのだが、昨晩から朝方にかけての記録がごっそり抜けている。
また、警告通知設定がオフに変わっていた。
その為、ラウンジからの通知はソルには全く届いていなかった。
続けて、管理者権限の内部警告履歴を開く。
「……そんな。」
「嘘っ…。」
二人は思わず声を漏らした。
表示された大量の不正アクセス警告通知。
更に、これら全てが外部干渉により、非通知処理されていた。
「気づけなかった…いや、気づかれないようにされていたんだ…。」
そして、警告通知の後に残された、ラウンジ防衛システム起動履歴を見たソルが、ついに確信した。
この部屋で一体何が起きていたのか。
「もしかして…。」
ソルはある物を探す為、部屋の中を見渡した。
イヴの定位置であるカウンターエリアの椅子の下に、それは残されていた。
「あった…。」
同時に、ソルの頭の中で全てが繋がった。
できれば勘違いであってほしい仮説が、成立してしまった証拠品。
ソルはイヴの黒いチョーカーを拾いあげると、強く握りしめた。




