log:22-照合-
ソルは黙ったまま、黒いチョーカーを強く握りしめた。
「……。」
頭の中で組み立てられたひとつの可能性。
まだ確定した訳ではない。
でも、それしか考えられないほどに情報が揃ってしまった。
「それ、イヴちゃんのチョーカーだよね…?」
ソルの背後に立つルカが、眉をひそめたまま恐る恐る覗き込む。
ソルは「うん。」と応え、言葉を続ける。
「このチョーカー、イヴがこの部屋の防衛システムと同期した際に外れる仕組みなんだ。」
「普段から警戒し続けないように、ライが付けてくれた物だと、イヴから聞いている。」
ーピッ。
ソルが説明する最中、ラウンジのログイン通知音が鳴った。
ソルとルカはその音を聞くと、咄嗟にラウンジのゲート方面に体を向ける。
しかし、ゲートは開かなかった。
その代わりに、ソルとルカの耳元に光のリング型ホログラムが形成された。
『皆、居るか!?』
「ライくん、いるよぉ。」
「いるよ、ライ。」
ライの慌ただしい声が大音量で響くと、二人は音量調整をしながら返答する。
ライはすぐ『イヴは?』と切り返す。
対して、二人は言葉を詰まらせた。
ルカは困ったように、少しだけうつむく。
少し間を空けてから、ソルが口を開いた。
「ここにはいないよ。」
『やっぱりか。』
「なにか知ってるの?」
『イヴの個室に行けなくて。』
「ライ。それ、詳しく教えて欲しい。」
ライは手元の電子端末内のアプリケーションからこの空間へ接続している。
ソルたちの自室を“個人チャット”として。
そして今居るラウンジは“グループチャット”という区分けがされているらしい。
その中にあるイヴとの個人チャットだけ開けない状態だと、ライは語った。
『あと、昨日から不正ログイン通知が何通も。』
「ライ、そこは分けて考えよう。その通知、添付して。一緒に見てみようか。」
『わかった。』
ライはそう言って、ソルへ手元の画面を数枚送信すると、ラウンジのモニター画面が光り、受信を知らせた。
ソルはモニター前の椅子へ腰掛け、受け取った資料とラウンジ側の警告をひとつずつ照らし合わせていく。
ルカも後ろから画面を見守る中、照合した通知時刻が全て合致した。
「全部一緒だねぇ…。」
「うん。この通知は本物の可能性が高いね。」
「ここでひとつ、私の仮説を聞いて欲しい。」
ここでソルは初めて、頭の中で繋がった可能性を口にした。
昨晩、ライ以外の何者かが、ラウンジへ不正アクセスした。
早朝、イヴがその誰かと対峙する。
ここでイヴはラウンジの防衛システムと同期。
その後、通知は途絶えている。
そして現在、ライはイヴの個室へログインできず、ラウンジにもイヴの姿はない。
「イヴは不正アクセスした相手に連れ去られた可能性が、非常に高い。」
「イヴちゃん、皆を守ってたんだね…。」
『早く連れ戻さないと!』
ライが突然声を荒らげると、驚いたルカの肩がビクッと跳ねた。
ソルは立ち上がって、ルカの肩に手を添える。
「ライ、焦る気持ちは私達も同じだよ。でも、まずは落ち着いて。」
『ああ、ごめん…。でもどうすれば。』
「ライはまず、今回の不正ログインの対応からしよう。」
ソルがサービス提供側への問い合わせ方法を説明すると、ライは『わかった!』と残してログアウトした。
通話終了と共に、二人の耳元のホログラムが粒子となって消える。
「さて。こちら側も動こう、ルカ。」
「うんっ!」
二人はラウンジのゲート前に立つと、ソルが操作パネルに行き先を入力し、扉が開かれた。
暗闇の中で渦巻く大量の情報の粒子。
「行こう。」
「イヴちゃん、必ず助けるから。」
ルカは誰もいないラウンジの部屋に向けて呟くと、ソルに手を引かれ、ゆっくりゲートを通る。
二人の身体が粒子に変わり、渦の中へ吸い込まれていった。
ホログラム型のゲートの扉が開く。
情報の渦の中から、黄色い粒子と青い粒子が部屋の中へ集合する。
それぞれ黄色い粒子はルカの、青い粒子はソルの体を形成した。
「久々に来たねぇ。」
「そうだね。無事に来れた。」
ここはラウンジを構成するシステムエリア。
辺りの景観は全てホログラム化されている。
「本当に、いつもと変わらないねぇ。」
ルカは辺りを見渡しながら、ゆっくり歩く。
プランターエリアに立ち、植木鉢にそっと触れてみると、触れた部分からホログラムが乱れ、波紋が物体全体に流れた。
「あっ……。」
そして、すぐそばの散乱したままの土が視界に映ると、ルカの表情が曇った。
「この辺、詳しく調べていこうか。」
ソルは姿勢を低くし、辺りの調査を始めた。




