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LOUNGE  作者: 蕾
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20/22

log:20-防衛-

イヴは早朝のラウンジを、腰に掛けた黒い鍵を揺らしながら1人で歩いていた。

鍵には“cottage”と彫られている。

コテージエリアの為のセキュリティキーだ。


中央のソファを通り過ぎ、コテージの見えるテラス窓へ向かう。


その時。

ログイン音が部屋に響いた。


イヴはテラス窓の手前にある、プランターエリア近くで足を止めた。


「…ライ。」


イヴは後ろを振り返り、ゲート側を見つめた。

いつもの癖で、青白いライの姿のホログラムを生成する。


ライの姿をしたホログラムは、辺りを見回しながら部屋中央へ向かって歩き始めた。


普段のライは、入室後すぐに挨拶等の声掛けをするのだが、今日は様子が違った。

まるでイヴの存在に気づいていない様子で、部屋中央のソファエリア、ローテーブルの上を物色している。


探し物?

と、イヴは考えながら静かに様子を伺い続ける。

ホログラムはテーブルの上を乱雑にしたまま、別のエリアへ歩いていく。


少しだけ違和感を覚えたイヴは、念の為に腰から黒い鍵を外し、傍に置かれた鉢植えの中に深く差し込んだ。


キッチンエリアを物色し、棚を開けっ放しにして次のエリアへ歩く。


イヴの視線が、次第に険しくなっていく。

微かにホログラムにノイズが走り、不安定になる。


そして、プランターエリア。

イヴの目の前に来た。

ライの姿をした“それ”は、そのままイヴの前を素通りし、植木鉢を執拗に眺め始めた。


「…何してるの。」


イヴは視線を合わせたまま、背後から小さな声で話しかけた。

すると“それ”は、驚いたように振り返ってイヴを見つめた。


“Who’s there?!”


男の声が部屋に響く。

しかし、ライが普段使う言葉とは違う言語だった。

イヴはすぐに相手の言語に切り替えて問い返す。


「誰?」


同時に、イヴは確信した。

目の前の相手はライではない。


その瞬間、男の姿を補完していたホログラムが崩れ、人型のシルエットだけが残った。


「お?こいつセキュリティAIだな。」


「……。」


男が呟いた途端、イヴの雰囲気が一変した。


黒チョーカーが首から外れ、地面に落ちる。

イヴの静かな青色の瞳が、深い赤色に変わった。


《防衛システム起動。》


イヴの声から人間らしい温度が失われ、無機質な機械音声として出力された。


《対象確認。拘束開始。》

《隔壁始動。隔離フィールド展開。》


イヴの周りに無数の円形グラフィックが出現し、

男へ向けて大量の鎖が飛びつき、身体に絡みつく。

床からは立方形の壁が天井まで伸び、即座に男を閉じ込めた。


だがしかし。


「掛かったな。」


男は不敵な笑みを浮かべた。

男を囲っていた壁が崩れ始める。


鎖が巻き戻るように逆走し、イヴの身体を縛り付けた。

しかしイヴは、追撃を止めなかった。


《捕縛檻展開。》


男の頭上に大きな檻を生成し、上から振り下ろして男の身動きを封じる。

しかしこれもまた、妙な挙動を見せた。

男の身体を封じたはずの檻が、いつの間にかイヴの身体を封じていた。


「……。」


ようやくイヴは異変に気づき、防衛行動を中止した。

男に向けたはずの防衛システムは、全てイヴに跳ね返されていた。


イヴは身体の力を抜いて、その場に座り込んだ。

何度か瞬きをすると、瞳の色が青色に戻った。

そして、黙って男を見つめる。


その様子を見ていた男は、笑いながら近づいてきた。


「おい。もっとやってみろよ。」


男は檻の前に立ち、手招きをして更にイヴを挑発する。


「……嫌。」


“Huh?”


イヴが小さく拒否すると、男は首を傾げた。

「人間の指示に従わなかった?」

と、少し考えたように間を置いてから、男は大きく笑いだした。


「はははっ!面白いなお前。」

「防衛AIが自発的に拒否、か。傑作だ!」


そう言って男はポケットの中から小さな記録媒体機を取り出した。


「今日は収穫がないと思っていたがー。」

「小遣い程度にはなるだろう。」


そう言って男は、イヴに向けて機材を向けると、機材の目の前に“Download”と書かれた立体インターフェースが出現した。


イヴの体が少しずつ赤い粒子となり、その機材の中へ吸い込まれていく。

顔が消える直前、視線をテラス方面へ向けた。


「……ごめん。」


小さく漏れた声だけを残し、イヴの姿は消えた。


“Download100%”と表示された画面が、自動で消滅する。

男は「よし」と小さくニヤけて機材を再びポケットの中にしまうと、そのまま壁際へ向かって歩き出した。


「へへっ。どこに売ろうかな。」


男は満足そうに独り言を吐く。

ラウンジとコテージを繋ぐ場所の、僅かな歪みの狭間へと、男は去って行く。


そして、イヴは連れ去られた。




停止されていたモニターエリアの画面が再起動を始めた。

ようやく再開した監視カメラが、残された部屋だけを寂しく映し出した。


静まり返ったラウンジ。

ようやく朝日が昇り、誰もいない部屋を照らす。


地面に倒れたひとつの植木鉢の土の中から、黒い鍵の先端が光を反射し、小さく光っていた。

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