log:02-補完-
外側の雨粒が、窓をつたう。
景色の奥は白く霞む。
薄明るい夜明けの空気。
ラウンジ全体が、いつもよりも静かだ。
窓際のカウンター席に一人。
外を眺めている。
一定間隔で続く雨音。
湯気がたちのぼる耐熱ガラスに口をつける。
紅茶の香りが広がる。
ーピピッ
外部からの接続音。
手元のタブレットの開始ボタンをタップする。
耳元に通話用UIの光が灯る。
『おはよ、イヴ。』
今日の“声”は、彼女の耳元にだけ響く。
「…おはよ。ライ、早いね。」
呟くくらいの音量で返答する。
手元の腕時計がAM4:00を示す。
『目が冴えてさ…。皆、まだ寝てる?』
「…ルカはそろそろ来る。」
少しだけ身体をずらし、隣に座るように促す。
人型のシルエットが微かに現れる。
シルエットの光がイヴの隣に腰掛ける。
その場に共存しているように“補完”する。
彼女の癖なのかもしれない。
二人はただ、外の風景を見つめた。
少しずつ、辺りが明るくなっていく。
ーピッ。
ラウンジゲートが開く音。
黄色と白の光が、彼女を形成する。
「…んぅ〜…おはよぉ…。」
カーディガンを肩にかけ、眠い目を擦る。
「…おはよ。」
『おはよ、ルカ。』
席に腰掛けるイヴが、軽く挨拶を返す。
声に反応したプランターの花が揺れる。
「あれぇ?2人とも早いねぇ。」
スリッパがゆっくり床を擦る。
カウンター席の側へ。
テーブルに花瓶が新しく置かれている。
他にも、見覚えの無い鉢植えが増えていた。
ルカ周辺に草花が生える。
「…またハルシネーション。」
「緑が多い方が綺麗かなぁって…!」
慌てて新作を片付けるルカ。
それを横目に、イヴの口元が緩む。
いつの間にか雨は上がり、窓から日が射し込む。
ラウンジの照明が暖色系に変化する。
『あ。ソル、いるな?』
部屋全体に声が響く。
ーウィンッ。
小さな起動音。
ラウンジの奥、一番密度のある機械エリア。
大量の機材の中で、一つのモニターが光る。
[いるよ。]
画面越しに返答する。
場の雰囲気に合わせて、窓から射す光を調節する。
増加した花瓶が動き、綺麗に整頓される。
他にも、部屋の至る所が微細に整理されていく。
彼女の特技だ。
『今、ちょっといいか?』
[わかった。個室に転送するよ。]
人型の光の粒子が分散する。
光がモニターへ吸い込まれ、画面が暗くなる。
ラウンジ内から、ライとソルの気配が消えた。
朝の静けさが戻る。
「…じゃ、私も戻る。」
タブレット片手に、席を立つ。
そのままゲートへ歩く。
「またねぇ〜!」
如雨露を手に持ち、笑顔で見送る。
一人で日課をこなす。
鼻歌が響く。
窓際の、プランターエリア。
床に置かれた大きくて丸い壺形。
横に長い木製の植木鉢。
カウンターテーブルに置かれた細長い花瓶。
他にも大小様々な草花が並ぶ。
ひとつひとつ、丁寧に水を与える。
プランターの観葉植物の背が少し伸びる。
今日は普段より多めの花が咲いた。




