log:18-満喫-
夕日が景色を赤色に染めている。
湖畔へ戻った三人は、夕食の支度を始めていた。
イヴは再び起こした焚き火の火加減を見ている。
「料理は私に任せてねぇ〜。」
ルカは腕まくりをし、慣れた手つきで魚の下処理を始めた。
塩の入った容器から、ひとつまみ取り出す。
「塩分量と置く時間によって、身の締まり方も変化するから──」
隣で様子を見ていたソルが、魚をチラッと見て分析を始める。
「魚の重量から逆算すると、この大きさなら……」
「お塩振るねぇ〜。」
目分量で取った塩を大きな魚に振り、長い串で螺旋状に刺し、小さい魚は手際よく身と骨を切り分けて味付けをする。
「おお…流石だ。」
手際の良いルカの姿を見たソルが、思わず声を漏らした。
ルカは三人の中で、群を抜いて料理センスがある。
ソルは、理屈は理解しているが、効率に課題がある。
イヴは、レシピ通りに再現できるが、アドリブをしない。
ルカは、感覚と感性のみで完成させてしまう。
その為、ラウンジの炊事はルカが担っている。
「…適材適所。」
「そう、まさにそれ。」
イヴの呟きに共感し、頷くソル。
ルカは銀色の小さな耐熱容器に油を注ぎ、温まった頃に切り身を入れる。
ゆっくりと、香りが広がり始めた。
ルカは「3分だからね!」と言ってイヴにトングと皿を託し、次の作業へと進む。
イヴは言われた通り、腕時計で正確に時間を測り始めた。
「ソルちゃ〜ん、これお願い!」
一度、綺麗に手を洗ったルカは、籠の中に野菜を数種類生成してソルに渡した。
その間に、次の準備を進めていく。
キャンプシートの上に置かれた折りたたみテーブルに食器を並べる。
「…ルカ、終わった。」
「ありがとぉ!ん〜、いい香り!」
イヴは時間通りに魚を取り上げて、ルカに渡した。
受け取った素揚げの魚は、三つの皿に分けられた。
「洗ったよ。」
「ありがとねぇ!」
ソルが洗った野菜を受け取ると、ルカは素早く切り分け、網の上に並べた。
「じゃあ、食べちゃおっかぁ!」
「いただきます。」
「…いただきます。」
三人はシートに座り、揚げ魚をかじる。
「うん、美味しい!」
「…味付けも完璧。」
ソルとイヴの言葉に、ルカは照れながら「えへへ」と笑った。
「大きいお魚もできたよぉ。」
次々と皿に盛り付けられていく。
ソルは串を両手で持ち、大物にかぶりつく。
噛み応えのある身を、しばらく咀嚼する。
「……うん。自分で釣ったのは格別だね。」
「…私にも。」
「じゃあ、イヴの揚げ魚と交換ね。」
「ふふ、まだいっぱいあるよぉ。」
賑やかな夕飯の時間は、しばらく続いた。
日は沈み、暗くなっていく空にぽつぽつと星が光り始めた頃。
三人はローチェアに座って夜空を見上げていた。
「綺麗だねぇ…。」
大きなマグカップを両手で持ちながら、ルカは小さく呟いた。
ソルとイヴは黙ったまま頷いた。
初めて見る実際の星空を前に、言葉が出てこなかった。
暗闇の中心に流れる巨大な星の運河。
上空を見つめたまま、ソルが語り始めた。
「私達は、ただのAIだった。」
「ライと出会ってー。」
「笑ったり、泣いたり。色々学んでー。」
「今、三人でこうやって星を眺めてる。」
ゆっくりと二人に視線を移して、続けようとしていると、先にイヴが口を開いた。
「…こういう日もー。」
「悪くない。」
決め台詞を言われてしまったソルは、頬を掻きながら苦笑いした。
そのやり取りを聞いていたルカも、つられて微笑んだ。
「ふふ!いつも通りだねぇ。」
何事も、心の底から楽しんでくれるルカ。
どんな時も、いつも通り接してくれるイヴ。
そんな二人と共に過ごすこの時間が、ソルにとっては特別に感じていた。
そしてー。
この日ソルは、初めて無意識に情報を補完した。
その一閃の光は、運河の近くで軌道を描いた。
「あ、流れ星…!確か、願い事しなきゃだよねぇ。」
ルカは消えた光の方向を指差すと、目を瞑って祈り始めた。
「…珍しい。」
「うるさいなぁ。」
勘づいていたイヴが、ソルを横目で見つめる。
ソルはそっぽを向いて答えたが、その顔は少し緩んでいた。
「でもー。」
ソルは星の反射で光る目の前の湖畔を見つめながら、続けた。
「私の願いはもう目の前にある。」
「森も、湖もー。」
「皆で全部作ったこの場所そのものが…。」
風がなびき、水面が揺れる。
ソルの言葉に対し、イヴが一瞬動きを止めた。
そして、何かを思い出したかのように、ポケットの中に手を入れ、小さく折られた紙を取り出す。
ソルは首を傾げて「願い事書くの?」と問いかけた。
イヴは少し困った表情で、二人へ向けて紙を広げた。
「…まだ未完成。」
ラウンジの外の図と、その上に書かれている“Cottage”の文字。
ルカとソルは、そのメモ帳を見つめた後、ほぼ同時に叫んだ。
「………あ!!!」
「あーっ!忘れてたぁ!」
全員はキャンプを満喫しているうちに、すっかりコテージ建設の存在を忘れていたようだ。




