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LOUNGE  作者: 蕾
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17/23

log:17-渓流-

ソルはリュックからライフジャケットを取りだし、全員へ渡す。


「まずはこれで、身を守ろう。」

「は〜い!」

「……ん。」


次に、折りたたまれた釣竿を伸ばし、針を付ける。

完成した竿を次々と岩場に立て掛けていく。


「…餌。」


イヴが持ってきた餌箱をそっと差し出す。

ソルは「ありがとう」と言って蓋に触れた途端、手を止めた。


「待って。」

「これまさか……虫?」


ぎごちない声でソルは質問した。

イヴはゆっくり目を逸らした。


「…開けたら?」

「無理。」


ソルは即答した。

彼女は類を問わず、虫が大の苦手である。


普段から、解析処理中のエラーバグでさえ過剰反応している。

ラウンジのプランターエリアには、発生防止コードが何重にも組み込まれていることを、イヴは知っていた。


「…開ける?」

「待って!まだ心の準備が……!」


ソルは声を張りながら咄嗟に手を引っ込めた。

表情が徐々に青ざめていく。


ルカは苦笑いしながら、後ろから近づいてソルの肩をそっと撫でた。


「ふふ。ソルちゃん、安心してぇ。」

「それね、魚卵だよぉ。」


ルカの言葉に「本当に?」と半信半疑なソルだが、肩の力は少しだけ抜けたようだ。


改めて、イヴが餌箱を開ける。

中には赤くぷるぷるとした魚卵がぎっしりと詰まっていた。

ソルは胸を撫で下ろし、大きくため息をついた。




イヴは針を魚卵に刺し、川に向かって竿を振った。

ポチャンと音を立て、浮きが水面に浮かぶ。

ゆっくり流れる浮きを見つめながら、魚が掛かるのを静かに待つ。


「ルカ、後方に気をつけて。」

「はぁい!」


続けて、距離を空けてソルとルカも竿を振る。

ソルの浮きも上手く流れの軌道に乗った。


「あれ??」


ルカは後ろの木に針が引っかかってしまった。

竿を揺らしても中々取れない。

「うーん」と唸りながら力任せに竿を引っ張ると、ブチッという音が鳴り、糸が切れてしまった。


「きゃっ…!」

「危ない!」


勢いが余ったルカはバランスを崩し、後ろに身体が傾く。

咄嗟にソルが叫びながら走り出す。

しかし、確実に間に合わない。


次の瞬間、イヴが厳しい表情でルカへ向けて手を伸ばし、グラフィック画面を展開させた。

岩場の上に網目状のホログラムが張り巡らされる。

ルカの身体はそのままホログラム上に倒れた。


「ナイス判断!」


ソルが急いでルカの元へ駆け寄り、ルカの身体を陸地へ引き寄せる。


「…間に合った。」


イヴは緊張が抜けたように手を下ろすと、ホログラムは粒子となって静かに消えた。

ルカはソルの服を強く握りしめたまま、小さく震えている。


「ちょっと休もうか。」


ソルはルカの背中を優しくさする。

ルカは小さく頷き、少しの間だけ身を委ねた。




ルカが座って見ている間に、イヴが数匹魚を釣り上げていた。

ルカは座ったまま「すごぉい!」と拍手を送る。

イヴは次々にクーラーボックスへ魚を入れていく。


ルカの元気が少しずつ戻っていく様子に、イヴの表情もちょっとだけ穏やかに戻った。


「お!」


続けて、ソルの竿先が大きくしなった。

両手でしっかりグリップを掴む。

糸が勢いよく引っ張られる。かなり重い。


「…ソル、右。次引く。」

「ぐっ…了解!」


ソルの下流側に立つイヴが、糸の動きを見ながら指示を出す。

ソルは指示通りに動きながら、脇で竿を挟み、少しずつ糸を巻いていく。


バシャバシャと音を立てながら、水飛沫が上がる。

抵抗する尾ヒレが水面から現れると、ルカは思わず立ち上がった。


「頑張れぇ!」

「今、引き上げて。」


隙を見て一気に引き上げると、銀の体に散りばめられた斑点が特徴的な、今日一番の大物が釣れた。

鱗が光に反射して輝く。


糸をしっかり握ったまま、ソルは少しだけ固まった。

上がった息を整えながら、じっと魚を見つめる。

興奮冷めやらぬ瞳は、達成感に満ちていた。


「……釣れた!」


ソルは大きな声で二人に知らせる。

ルカは拍手を送り、イヴはグッドサインを送った。


まだ時々暴れる大物に逃げられる前に、速やかにクーラーボックスへと送り込む。

他にも大小の魚が数匹ほど、氷水に冷やされている。


「このくらいで戻ろうか。」

「うん!お腹ぺこぺこだよぉ!」

「…私も。」


ソルは片付けを済ませ、再び大きなリュックを背負う。

ルカとイヴは、重くなったクーラーボックスの紐を協力して持ち上げる。


辺りは既に、黄金色の木漏れ日が森の中を暖かく彩っていた。

鳥のさえずりと共に、笑い声が響く。

三人は談笑しながら、来た道を辿り、湖畔へと戻った。

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