log:15-朝日-
翌日の夜明け前。
まだ暗く静かなラウンジの部屋の中。
部屋の明かりをつけずに、イヴは一人で窓辺のカウンターテーブルに座り、窓の外を眺めていた。
窓辺の外は、景色の輪郭が見え始めている。
今までは再現された映像だったが、今は本物の景色が外に存在している。
そんな初めての朝を、イヴは待ち遠しそうにじっと待っていた。
部屋に接続音が鳴り、ラウンジのメインゲートが開く。
入室してきたルカは、目を擦りながらまだ眠そうな表情で歩いてきた。
椅子に座ったシルエットが見えた途端、一瞬体が跳ね上がる。
「うわっ!…イヴちゃん??」
ルカは思わず大きな声を出し、その場に立ち止まって恐る恐る確認する。
すると、イヴがこちらに視線を向けて小さく頷いた。
「びっくりしたぁ…。まだ夜明け前だよぉ?」
「…ルカこそ。」
「…えへへ。一緒だねぇ。」
ルカもイヴと同じく、初めての朝が待ちきれなかった。
カウンターテーブルに置かれた小さなデジタル時計は、AM3:30を記している。
イヴの隣に座り、頬ずえを着いて窓の外を見つめた。
「本当にできたんだねぇ。」
優しく微笑みながら呟くルカの言葉に、イヴは「うん」と一言返した。
二人は特に会話をする訳でもなく、ただその景色に浸っていた。
外の空がゆっくりと白くなっていく。
朝霧に包まれた湖畔が微かに見える。
窓付近に生える木の葉が朝露に濡れ、水滴が落ちる。
どんどん辺りが明るくなり、ラウンジの部屋の中も二人の姿が見えるようになってきた。
そしてようやく、遠くの山の先から一線の光が射す。
湖畔が光を反射させて輝く。
初めて降り注ぐ、本物の朝日。
「わぁ…!」
「…綺麗。」
二人は眩しそうに、少しだけ目を薄める。
でも、その視線はずっと景色に釘付けだった。
「よぉし!今日も1日スタートだねぇ!」
日が登りきった頃、ルカは椅子から立ち、プランターエリアに置かれた如雨露を取りに行く。
いつも通り、キッチンのシンクで水を汲み始める。
そして、こちらもいつも通りのタイミングで接続音が鳴る。
「あれ、イヴ早い。」
ソルは入室するやいなや、真っ先に違和感を指摘する。
朝に弱いイヴは、普段この時間はまだ眠っているはずだからだ。
「……。」
ソルに対してやや辛辣な態度を取ることがあるイヴは、外を向いたまま黙り込む。
これもまたいつも通りの反応である。
代わりにルカが、笑顔で朝の一部始終を説明した。
「綺麗だったんだよぉ。」
「ああ。なるほどね。」
ソルは納得して頷く。
そして、イヴがそっとソルに視線を向けると、違和感に気づいた。
ソルの服装が、普段と少しだけ違う。
普段は白シャツにサスペンダー姿、上着に青ラインが入った黒テックジャケットが定番だが、今日は白Tシャツ姿。
黒いフィンガーレスの手袋をはめている。
そして、背中にはネイビーカラーの大きなリュック。
完全にアウトドアモードである。
「…荷物多い。」
「キャンプの準備は万全だよ。二人の荷物は?」
ソルの問いに、カウンターテーブルの下に置かれた小型の黒いショルダーバッグを見せるイヴ。
ソルは直ぐさま「荷物少なくない?」と突っ込んだ。
二人のやりとりを眺めていたルカが、慌て始めた。
「私、何も準備してなかった!」
「やっぱりね。」
「…予想通り。」
ソルとイヴは、何となく察しがついていたらしい。
イヴの服装も、普段のオフィス用の白シャツとスーツパンツ姿ではなく、黒で統一されたTシャツ、パンツ、ジャケット姿で、テーブルの上には黒いキャップが置かれていた。
ルカだけが、普段通りの緩く薄い生地のワンピース姿だ。
「ごめんねぇ!すぐ準備してくるから!」
「あ、うん。」
そういってルカは如雨露をソルへ渡し、慌てて自室へと戻って行った。
ソルは任されるがまま、植木鉢へ水を注いだ。
「おまたせぇ〜!」
程なくして、ルカが着替えを済ませて再入室してきた。
ベージュのアウトドアジャケットと黒いアウトドアパンツ。白いニット帽をお洒落に被っている。
ルカらしい、明るめのコーディネートだ。
全員分のティーセットを籠に入れて手にさげていた。
「よし。じゃあ行こうか。」
「…うん。」
「しゅっぱーつ!」
テラスの扉を開き、三人はラウンジの外へ出た。
林道を歩き、長い下り坂を降りる。
林をぬけると、水辺近くの開けた平地にたどり着いた。
「ここにしよう。」
地図を片手に先頭を歩いてたソルが足を止め、重い荷物を降ろした。




