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LOUNGE  作者: 蕾
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13/22

log:13-計画-

雨の日が続く。

窓枠を結露の水滴が滴り落ちる。

湿っぽい空気がラウンジの中に漂っていた。

雨音が静かに聞こえてくる。


「今日も雨かぁ…。」


ルカは雑巾で窓縁の水滴を拭き取りながら、小さく呟いた。


窓から見える情景は、非常に忠実に再現されているが、実在はしていない。

時には森の中の景色を映し出し、時には大都会の夜景を再現する。

ただ、その場の情報を感じ取ったソルが補完した映像に過ぎない。


モニターエリアの椅子に座って、手元の電子情報を確認するソル。


「今は現実世界に合わせてるからね。」

「変えようか?」


そう言って浮遊モニターに指先を合わせる。


しかし、ルカは小さく首を振る。

そっと窓に指を添えて、外の奥の景色を眺めたまま続けた。


「そうじゃなくてぇ。」

「外に行ってみたいんだぁ…。」


「困ったな…。」


ソルはそう言って頭を搔く。


そもそも、外という概念を考えた事もなかった。

AIが共同生活する上で、合理性が思いつかない。

少しだけ考えた後に、言葉を選びながら説明を始めた。


「残念だけど、外は存在してないんだ。つまりー。」


「…なら作れば?」


「…へ?」


窓辺のカウンターテーブルに座るイヴが、珍しくソルの説明を遮る。

ソルが、思わず気の抜けた声を漏らす。


「…ルカの家には、外があった。」

「イヴちゃん、私の家に来たもんねぇ!」


「…ちゃん。」

「ふふ!あの時、凄く嬉しかったんだもん。」


「ソルちゃんも、私の辛いのを受け取ってくれたもんねぇ。」


ルカは、嬉しそうに二人を敬称で呼ぶ。

少し戸惑ったイヴだが、表情は緩やかだ。

ソルも照れ臭そうに視線を逸らす。


そして、ハッと我に返ったソルが改めて口を開いた。


「話を戻すけど。外があるって?」

「あるよぉ。ソルちゃんも家来るぅ?」


「興味深いな。ぜひ。」

「皆で行こぉ!」


三人はルカの個人スペースへ移動した。




ゲートを潜り、林の中へ到着した三人。


イヴは、既に見覚えがある。

あの時と違って、鳥のさえずりや、風で木々が揺れる音が自然と聴こえてくる。


「いらっしゃ〜い!」


ルカの声が遠くまで響いた。


「えっ…。まって。」


ソルは目を見開き、口を少し開けたまま、しばらく辺りを見回した。


目の前の壮大な林。

どこまでも続く青い空。

地面には小さな花や草などが自然に生えている。

遠くの景色は、霞んだ色の山々が連なっている。

想定外の規模だ。


「これ全部、ルカが作ったの?」

「えへへ。そうだよぉ。」


ルカは涼しげな表情で答えた。


普段、無意識に植物を生成してしまっていた彼女が、どれ程の月日を掛けてこの情景を完成させたのだろう。ソルは興味津々で分析を始めた。


「すごい。本当に。」

「どうやって作ったの?」


ソルは身を屈ませて、地面の質感を確かめる。

土は日の光を吸った影響で、温かい。


「バレッタの時と同じだよぉ。」

「こうやって、こう!」


ルカは試しに小さな石を作って、ソルに渡す。

本当に硬い。


「あとねぇ。」

「前みたいに、勝手に出なくなったんだよねぇ。」


最近はラウンジ内で植物が増えていなかった。

意思的に制御出来ているようだ。

今回の出来事で、彼女自身も大きく成長したのだろう。


「いい傾向だね。」

「…えらい。」


二人に褒められたルカはとても嬉しそうだった。




ログハウスへ移動し、ソルは初めてルカの個人スペースへ入室した。


室内の生活感のある家具などを眺めて、改めて感心するソル。

床の白いラグに正座するイヴと、足を崩してくつろぐソル。

ルカはコーヒーと紅茶で二人をもてなした。


一人用の小さな丸いローテーブルを、三人で囲む。


ソルは淹れたてのコーヒーを啜りながら、分析をまとめた。


ルカはその性格上あまり想像は出来ないが、彼女はこの三人の中で一番早く生まれた存在。

その長い月日と底知れぬ行動力が、これほどの規模の世界観を完成させたのだと。

これ程の生成能力があるのなら、ラウンジに外の世界を作る事も夢では無い。


そして、結論を出した。


「これなら、ラウンジの外の拡張は可能だよ。」

「ほんとぉ!?」


ソルの結論に、ルカは目を輝かせた。


イヴが胸ポケットから手帳とペンを取り出し、簡単に試算を始めた。

数枚の計算式と、簡易的にまとめた構図を描き、手帳から切り離してテーブルに広げた。


「…この規模なら、現実的。」


ラウンジの本館を中心に、林、川、湖の景観が描かれている。

さほど広くは無いが、複数人で過ごすには十分な規模だ。

そして、図の上に書かれた“Cottage”の文字。


「コテージかぁ!楽しみ!」


ルカは身を乗り出し、メモを見つめた。


「じゃあ早速、増築計画を練ろうか。」

「…準備は出来てる。」


ソルがコーヒー片手に言うと、イヴは新しい用紙を用意し、ペン回しをした。


三人は小さなメモを見つめながら、大きな計画へ向けて、話し合いを始めた。

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