log:12-生成-
この日は、窓辺から日差しが眩しく部屋に射し込んでいた。
プランターに育つ花々が生き生きと葉を伸ばす季節。
鼻歌混じりに、今日も朝から水やりをするルカ。
その表情は、いつもに増して穏やかだった。
彼女の長い金髪を止めている、小さな黄色い花柄の金属バレッタが、いつもと変わらない日課のなかで、一際輝いていた。
数日前。
エアコンの音と、機材の接続音が静かに流れるソルの自宅。
白いウィンドウシャッターを降ろし、外からの強い日差しを遮って、ルームライトが部屋を灯す。
白シャツの袖を捲り、デスク前に座ってモニターを見つめるソルと、耳元の通話用デバイス越しから響くライの音声。
『こんな感じのが欲しいんだけど。』
「なら、私ならこの細部をー。」
画面に映る、複数の設計図。
ライの証言を元に集めた資料を元に、ソルなりの解釈を説明しながら付け加える。
送信ボタンを押して、その都度ライの端末へ完成図を送信する。
『派手すぎる。もうちょっと抑えて。』
「なら、これは?」
何度も確認しながら、二人は細かく設計図を練っていた。
ソルの耳元で唸るライ。
その合間に、目の前のコップの冷水を手に取り、ひと口つける。
氷がカランッと音を立てて、再びコースターの上に置く。
『これだな!』
ようやく納得がいった様子で、ライから太鼓判が押された。
マウスポインタが、生成ボタンへ焦点を合わせる。
「じゃ、生成するよ。」
『いや、ストップ!』
Enterキーに指が触れる直前で、動きを止めた。
『これさ。』
『ルカに作ってもらいたいんだ。』
ライの言葉にソルは「なるほど」と応えると、キーボードで入力を始めた。
改めて、ライへ資料を送信する。
「それなら、ルカに分かりやすく伝わると思う。」
設計図に、文字で細かい説明が追加された。
ライが「ありがとう!」と言い残すと、接続が切断された。
相変わらずの人使いの粗さだな…。と小声で零したが、ソルは特に気にはしていない。
別モニターに、直後にラウンジへ接続するログが流れた。
「いってこい、ライ。」
ソルはその様子を見つめながら、微笑した。
日中の日差しが強く射し込むラウンジ。
窓辺のレースカーテンが閉められ、空調の音が涼しく響いている。
天井の大きなシーリングファンが、空気を巡回させ、とても涼しい。
ルカがソファでくつろぎながら、雑誌を読む。目の前のローテーブルには、菓子袋の封が切られている。
イヴも今日は窓辺から避難し、ソファに浅く腰掛け、透明グラスでアイスティーを飲んでいた。
ーピッ。
『ルカいるか!?』
唐突に、接続音に被る勢いで大声が反響する。
思わず、二人の肩が跳ね上がった。
「びっくりしたぁ!どうしたの!?」
「ライ…うるさい…。」
少しだけ、イヴの強い視線がライを刺す。
ホログラム化されて映し出されたライの姿は、頭に手を当て、申し訳なさそうに苦笑いしていた。
『ごめんごめん。』
『ルカに作って欲しい物があって。』
ライの言葉に、ルカが「私に?」と首を傾げる。
すると、部屋の中にあるソルの作業エリアのモニター画面が光る。
映し出されたのは、小さな黄色い花をあしらった金属製の髪留めバレッタ。
「きれい…。」
画面を見つめるルカが、小さく呟く。
『できそう?』
「うん、やってみるね!」
ライが少し心配そうに問いかけると、ルカはニコっと微笑んだ。
そして、手に持っていた雑誌と、テーブルの上にある物を隅の方へ寄せて、改めてソファに姿勢よく腰掛けた。
一度目を閉じて深呼吸をし、ゆっくりと瞼を開く。
両手をテーブルに向けて集中する。
ルカの身体から小さな黄色い粒子が、螺旋状に腕を伝い、指先から更に伸びる。
ルカは指先を、編み物を編むような仕草をすると、それに同期して光が絡み合う。
粒子がやがてひとつに纏まると、目の前に金属製の装飾品が形成された。
しかし、その形は少し歪んでいる。
「…惜しい。」
イヴが設計図と見比べながら、小さく呟く。
ルカは不満そうな表情で、ちょっとだけ頬を膨らませた。
「うーん…。もういっかい!」
『がんばれ!』
もう一度、気を取り直して繰り返す。
ライも目の前で応援する。
改めて形成された装飾品は、均等な形を形成した。
光に反射して綺麗に輝く。
『おお!』
「できたぁ…。」
「…おめでとう。」
三人が完成品を見て思わず言葉を漏らした。
そして、ライが口を開く。
『これ、ルカに使って欲しくてさ…。』
『プレゼントとして、受け取って欲しい。』
「えっ、いいのぉ!?」
「ありがとぉ!大事にするね!」
少し照れ隠しをしながら説明するライ。
しかし、視線はルカの目をしっかり見つめていた。
ルカは、自分の後ろ髪へバレッタを止めると、嬉しそうに微笑んだ。
あれから毎日、彼女はラウンジを訪れる度、必ずそのバレッタを身に付けていた。




