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最適解の外側で、きみと  作者: 泣きピエロToY
第三部 赤い地球
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第十二話「アカネ」


病院の個室。

静かな夜だった。

窓の外には、夕焼けの名残が残っている。


ベッドの上。

マユが小さな赤ん坊を抱いていた。

眠そうな顔。

でも、どこか安心した表情だった。

その隣で、コウセイが椅子に座っている。


少しぎこちなく、でもずっと赤ん坊を見ていた。


病室には、メイプルもいる。

アルも後から合流した。


メイプルは腕を組みながら、

まだ少し不満そうだった。


『出産の日に連絡つかないとか何考えてんの』


「……ごめん」


『研究は逃げない』


即答だった。


『でも今しかない時間は逃げるの』


コウセイは何も言い返せなかった。


静かな空気。

その時。

赤ん坊が小さく動く。

コウセイが視線を向ける。


「……名前」


マユが顔を上げる。


「ん?」


「名前どうする?」


マユは少し笑った。


「もうずっと前から決めてある」


コウセイが瞬きをする。


「え?」


マユは赤ん坊を見ながら、

静かに言った。


「アカネ」


その名前が、

病室へ静かに落ちる。

コウセイが小さく繰り返す。


「……アカネ」


不思議と、

最初からそこにあったみたいに馴染んだ。


少し間。

それから、コウセイが聞く。


「どうして?」


マユが小さく笑う。


「昔さ」


「地球で、綺麗な森見つけたじゃん」


コウセイが頷く。

楓の森。


「葉っぱがね」


「黄色からオレンジ、赤って色が変わってて」


「すごい綺麗だった」


静かな声だった。


「その時思ったの」


少し間。


「メイプルみたいだなって」


メイプルが少し目を丸くする。


「初めてメイプルの機体見た時も」


マユは続ける。


「光のせいかな」


「オレンジなのに、茜色に見えたんだよね」


マユは赤ん坊を見る。


「私ね」


少しだけ、

声が柔らかくなる。


「何回もメイプルに救われたんだ」


攫われた時。

怖かった時。

泣きそうだった時。

出産の日。


コウセイと連絡が繋がらなくて、

迷わず連絡した相手。

絶対来てくれるって、分かってた。


「だから」


マユが小さく笑う。


「茜色のアカネ」


静かな沈黙。

メイプルが、そっと顔を背ける。


『……ずるいなぁ』


小さな声だった。

アルは静かにその光景を見ていた。



数日後。

研究区画。

コウセイの机には、大量のデータが積まれていた。

コウセイが端末へ向かおうとした瞬間。


『座るな』


アルだった。


「え?」


『しばらく引き継ぐ』


静かな声。


「でも――」


『維持は可能だ』


即答だった。

アルは、既存研究データを開く。

一切変更しない。

ただ維持する。


コウセイが積み上げてきたものを、

そのまま未来へ繋ぐために。


『家族を優先しろ』


コウセイが少し黙る。

それから、小さく頷いた。



数週間後。

コウセイが研究区画へ戻る。

机は綺麗だった。

研究も維持されている。


進みすぎてもいない。

止まってもいない。


まるで、

“待っていた”みたいに。


そして机の端。

小さなメモが置かれていた。

短い走り書き。


「……なんだこれ」


その時。

格納庫から通信が入る。


『そろそろ帰るねー!』


メイプルだった。

宇宙港。


青い機体。

オレンジの機体。

二機が並んでいる。


『次来る時にはもっと青くなってるかな』


メイプルが笑う。

コウセイは頷く。


「うん」


アルは静かにコウセイを見る。


『あやとり、やったことあるか?』


短い言葉。

意味がわからない。

それだけ残して、

二機は浮かび上がる。


青とオレンジの光。


それが宇宙へ消えていく。

静かになった格納庫。


コウセイは研究室へ戻る。

そしてもう一度、あのメモを見る。


「あやとり……アルらしくないな」


数秒。

その後。

コウセイの目が見開かれた。


「……そっか」


小さく呟く。

長い沈黙。


それから。

再計算。

簡易シミュレート


コウセイは、少しだけ笑った。


“間に合うかもしれない”


希望が見えた。

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