第七話「家族」
地球の大地で、作物が復活した。
まだ規模は小さい。
広大な畑が戻ったわけじゃない。
飢えが消えたわけでもない。
それでも。
じゃがいも。
玉ねぎ。
にんじん。
地球で、再び育った。
その事実は、世界を大きく揺らしていた。
希望だった。
赤い地球で、初めて芽吹いた未来だった。
数日後。
地球再生局中央会見場。
大規模な記者会見が開かれていた。
無数のライト。
カメラ。
中継モニター。
世界中へ、
そして宇宙中へ配信されている。
会場入口。
「緊張してる?」
田渕が小さく聞く。
マユは即答した。
「してない」
「してる顔だぞ」
「うるさいです」
田渕が少し笑う。
周囲にはSPが配置されている。
地球再生の象徴になりつつあるマユには、護衛が必要だった。
本人は全く慣れていない。
今日は珍しく、白衣ではない。
落ち着いた服装。
髪も整えている。
外向け用の、少しおしとやかなマユだった。
「では、お願いします」
スタッフに案内され、マユは会見場へ入っていく。
拍手。
フラッシュ。
マユは一瞬だけ目を細めた。
壇上へ座る。
隣には司会者。
少し離れた位置に田渕。
会見が始まる。
「本日は、地球土壌再生計画の大きな進展についてお話を伺います」
モニターへ映し出される。
畑。
緑。
収穫された作物。
会場がどよめく。
司会者が笑顔で続ける。
「まず率直に、今のお気持ちは?」
マユは少し考える。
緊張していた。
でも。
ちゃんと伝えたかった。
「……嬉しかったです」
静かな声。
「土って、すぐには戻らないんです」
会場が静かになる。
「何度も失敗しました」
「微生物が定着しなかったり」
「循環が崩れたり」
「育っても、次で全部ダメになったり」
マユはゆっくり続ける。
「でも」
少し笑う。
「急がなかった」
その言葉に、田渕が静かに目を閉じる。
「生きてるもの相手だから」
会場の空気が変わっていく。
司会者が頷く。
「今後の展望は?」
マユはモニターを見る。
赤い地球。
でも、少しずつ色が変わっている。
「空も、大地も、別々じゃないんです」
「全部繋がってる」
「だから、世界全体で協力しないといけない」
「時間もかかります」
「多分、私達の世代で全部は終わりません」
少し間。
「でも、それでいいと思ってます」
静かな拍手が起こる。
マユは少しだけ、緊張が抜けていた。
その頃。
空再生局。
巨大モニター前。
コウセイ達は中継を見ていた。
研究員達は真面目に聞いている。
でもコウセイだけ、少し違った。
「……すご」
小さく呟く。
壇上のマユ。
知らない人みたいだった。
ちゃんとしている。
落ち着いている。
綺麗だった。
隣の研究員が笑う。
「マユ主任、完全に有名人ですね」
「うん……」
コウセイは、少しだけ遠い存在みたいに感じていた。
遠く離れた星。
静かな部屋。
アル。
メイプル。
そしてマユの両親。
四人で中継を見ていた。
マユの母親が、少し泣いている。
「大きくなったわねぇ……」
メイプルが笑う。
『昔、泥だらけで走ってたのに』
アルは静かに映像を見ていた。
内部ログ。
・マユ
・地球
・家族
保存。
会見場。
司会者が笑顔で言う。
「最後に、何か一言ありますか?」
マユが一瞬止まる。
少し考える。
それから。
「……個人的に一言いいですか?」
会場がざわつく。
司会者は笑顔で頷いた。
「どうぞ」
マユは立ち上がる。
空気が変わる。
そして。
カメラを真っ直ぐ見る。
その瞬間。
おしとやかだったマユが消えた。
いつもの顔。
強い目。
堂々とした姿。
コウセイが画面の前で固まる。
「コウセイ、見てるか!」
会場が静まり返る。
コウセイの脳が止まる。
マユは続ける。
「作物、できたぞ!」
拳を握る。
「だから!」
完全に言い切る。
「私と結婚しなさい!」
空気凍結。
研究員達が吹き出す。
コウセイ停止。
マユは止まらない。
「NOとは言わせない!」
「これから帰る!」
「仲間としての食事じゃなく!」
一拍深呼吸。
マユが優しく、でも真っ直ぐ言う。
「家族としての食事用意して待ってなさい」
完全沈黙。
マユはそこで、ようやく我に返った。
顔が一気に赤くなる。
「……以上です」
静かにマイクを返す。
司会者硬直。
田渕が顔を覆っている。
会場、数秒遅れて大混乱。
空再生局。
研究員達が爆笑していた。
「返事しろよ!」
「主任ー!!」
「逃げんな!!」
コウセイ、顔真っ赤。
完全停止。
処理能力限界。
遠く離れた星。
メイプルが腹を抱えて笑っていた。
『あはははは!!』
『マユ、サイコーじゃん。コウセイより男前』
マユの両親も笑っている。
アルだけが静止していた。
内部ログ。
・結婚
・家族
・食事
処理不能。
長い沈黙。
それから。
『……決定事項みたいだな』
メイプルの笑い声が、部屋いっぱいに響いていた。




