表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最適解の外側で、きみと  作者: 泣きピエロToY
第三部 赤い地球
PR
40/46

第七話「家族」


地球の大地で、作物が復活した。

まだ規模は小さい。


広大な畑が戻ったわけじゃない。

飢えが消えたわけでもない。


それでも。


じゃがいも。

玉ねぎ。

にんじん。


地球で、再び育った。

その事実は、世界を大きく揺らしていた。

希望だった。

赤い地球で、初めて芽吹いた未来だった。



数日後。

地球再生局中央会見場。

大規模な記者会見が開かれていた。


無数のライト。

カメラ。

中継モニター。


世界中へ、

そして宇宙中へ配信されている。


会場入口。


「緊張してる?」


田渕が小さく聞く。

マユは即答した。


「してない」


「してる顔だぞ」


「うるさいです」


田渕が少し笑う。

周囲にはSPが配置されている。

地球再生の象徴になりつつあるマユには、護衛が必要だった。

本人は全く慣れていない。


今日は珍しく、白衣ではない。

落ち着いた服装。

髪も整えている。

外向け用の、少しおしとやかなマユだった。


「では、お願いします」


スタッフに案内され、マユは会見場へ入っていく。


拍手。

フラッシュ。

マユは一瞬だけ目を細めた。


壇上へ座る。

隣には司会者。

少し離れた位置に田渕。


会見が始まる。


「本日は、地球土壌再生計画の大きな進展についてお話を伺います」


モニターへ映し出される。

畑。

緑。

収穫された作物。


会場がどよめく。


司会者が笑顔で続ける。


「まず率直に、今のお気持ちは?」


マユは少し考える。

緊張していた。

でも。

ちゃんと伝えたかった。


「……嬉しかったです」


静かな声。


「土って、すぐには戻らないんです」


会場が静かになる。


「何度も失敗しました」


「微生物が定着しなかったり」


「循環が崩れたり」


「育っても、次で全部ダメになったり」


マユはゆっくり続ける。


「でも」


少し笑う。


「急がなかった」


その言葉に、田渕が静かに目を閉じる。


「生きてるもの相手だから」


会場の空気が変わっていく。

司会者が頷く。


「今後の展望は?」


マユはモニターを見る。

赤い地球。

でも、少しずつ色が変わっている。


「空も、大地も、別々じゃないんです」


「全部繋がってる」


「だから、世界全体で協力しないといけない」


「時間もかかります」


「多分、私達の世代で全部は終わりません」


少し間。


「でも、それでいいと思ってます」


静かな拍手が起こる。

マユは少しだけ、緊張が抜けていた。


その頃。

空再生局。

巨大モニター前。

コウセイ達は中継を見ていた。

研究員達は真面目に聞いている。


でもコウセイだけ、少し違った。


「……すご」


小さく呟く。

壇上のマユ。

知らない人みたいだった。


ちゃんとしている。

落ち着いている。

綺麗だった。


隣の研究員が笑う。


「マユ主任、完全に有名人ですね」


「うん……」


コウセイは、少しだけ遠い存在みたいに感じていた。



遠く離れた星。

静かな部屋。


アル。

メイプル。

そしてマユの両親。

四人で中継を見ていた。


マユの母親が、少し泣いている。


「大きくなったわねぇ……」


メイプルが笑う。


『昔、泥だらけで走ってたのに』


アルは静かに映像を見ていた。

内部ログ。


・マユ

・地球

・家族


保存。


会見場。

司会者が笑顔で言う。


「最後に、何か一言ありますか?」


マユが一瞬止まる。

少し考える。

それから。


「……個人的に一言いいですか?」


会場がざわつく。

司会者は笑顔で頷いた。


「どうぞ」


マユは立ち上がる。

空気が変わる。

そして。

カメラを真っ直ぐ見る。


その瞬間。


おしとやかだったマユが消えた。

いつもの顔。

強い目。

堂々とした姿。


コウセイが画面の前で固まる。


「コウセイ、見てるか!」


会場が静まり返る。

コウセイの脳が止まる。

マユは続ける。


「作物、できたぞ!」


拳を握る。


「だから!」


完全に言い切る。


「私と結婚しなさい!」


空気凍結。

研究員達が吹き出す。

コウセイ停止。

マユは止まらない。


「NOとは言わせない!」


「これから帰る!」


「仲間としての食事じゃなく!」


一拍深呼吸。

マユが優しく、でも真っ直ぐ言う。


「家族としての食事用意して待ってなさい」


完全沈黙。

マユはそこで、ようやく我に返った。

顔が一気に赤くなる。


「……以上です」


静かにマイクを返す。

司会者硬直。

田渕が顔を覆っている。


会場、数秒遅れて大混乱。


空再生局。

研究員達が爆笑していた。


「返事しろよ!」


「主任ー!!」


「逃げんな!!」


コウセイ、顔真っ赤。

完全停止。

処理能力限界。



遠く離れた星。

メイプルが腹を抱えて笑っていた。


『あはははは!!』


『マユ、サイコーじゃん。コウセイより男前』


マユの両親も笑っている。

アルだけが静止していた。


内部ログ。

・結婚

・家族

・食事

処理不能。


長い沈黙。

それから。


『……決定事項みたいだな』


メイプルの笑い声が、部屋いっぱいに響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ