第五話「楓」
輸送車が荒れた地表を進んでいく。
窓の外。
崩れた建物。
赤茶けた大地。
乾いた風。
その中を、マユ達は森へ向かっていた。
同行しているのは数人の研究員と護衛班。
「本当に植物反応あるんですか?」
研究員の一人が端末を見ながら言う。
「数値上はある」
マユは短く返す。
「でも現地見ないと分かんない」
輸送車が止まる。
外へ降りる。
風が吹いた。
その瞬間。
「……あ」
マユが小さく声を漏らす。
森だった。
赤い世界の中。
そこだけ、違う赤が存在している。
黄色から赤へ変わる葉が、風に揺れていた。
乾いた地球の赤ではない。
温かい色。
生きている色だった。
研究員達が周囲測定を始める。
「大気汚染濃度低下確認」
「土壌水分量も高い」
「なんでこんな場所が……」
ざわめきが広がる。
マユは一人、森へ近づいていく。
落ち葉を拾う。
赤。
オレンジ。
黄色。
マユは少し笑った。
「……メイプル色だ」
葉を空へかざす。
光が透ける。
綺麗だった。
マユは端末を取り写真を撮る。
送信。
『地球でメイプル見つけた』
少しして返信が来た。
『……楓の葉』
マユが首を傾げる。
「かえで?」
『昔の地球の木』
『綺麗』
少し間。
『……ありがとう』
短い返信だった。
マユは少し不思議そうな顔をする。
でも今は、それより土の方が気になっていた。
しゃがみ込む。
土へ触れる。
柔らかい。
少し湿っている。
マユは静かに息を吐いた。
「やっぱり違う」
周囲の研究員達も困惑している。
「微生物反応があります」
「この環境で?」
「ありえない……」
マユは土を見つめる。
落ち葉。
湿気。
分解。
循環。
ここだけ、自然が生きていた。
「……生きてるんだ」
誰に言うでもなく呟く。
風が吹く。
赤い葉が舞った。
遠く離れた星。
静かな部屋。
アルとメイプルが並んで座っていた。
モニターに映る、赤い葉。
風。
空。
揺れる光。
アルは動かない。
内部ログ。
・カエデ
・楓
・ここにいて
静かに開く。
メイプルが小さく笑った。
でも少しだけ、寂しそうだった。
『……見つけたね』
アルは静かに写真を見る。
それから。
部屋の壁へ視線を向けた。
飾られている数枚の写真。
コウセイ。
青空。
工房。
その隣へ。
新しく、赤い葉の写真が追加される。
風が揺れる。
遠い地球で、誰にも知られないまま、
カエデの色が生き残っていた。




