第四話「感覚」
地球再生局。
仮設研究区画。
大量の土壌サンプルが並べられていた。
赤茶けた地球の土。
そして、
船団が持ち込んだ、あの星の土。
マユはその前にしゃがみ込んでいる。
分析データがモニターに流れる。
微生物反応。
水分保持率。
有機物濃度。
ナノマシン残留値。
数値は大量にある。
でも。
「……なんか違う」
マユが呟く。
隣にいた研究員が首を傾げた。
「数値上ですか?」
「うーん」
マユは少し考える。
「それもだけど」
手袋を外す。
そして、地球の土へ触れた。
さらりと崩れる。
次に、星の土へ触れる。
少し湿っている。
マユは黙ったまま、
何度か指で確かめた。
「……やっぱ違う」
研究員は困惑していた。
「感覚の話ですか?」
「多分」
「非科学的では?」
マユは笑う。
「でも、コウセイなら絶対データだけで進めないし」
それは確信だった。
数値だけじゃ足りない。
人も。
空も。
土も。
ちゃんと見ないとダメだ。
マユは立ち上がる。
「まずは違いを知るところからかな」
モニターへ新しい項目を開く。
――地球土壌再生活性試験。
一方その頃。
上空では、青く塗られた小型飛行機が、
赤い空を飛んでいた。
武装の代わりに、大量の観測機器が積まれている。
大気粒子。
汚染濃度。
風向き。
コウセイは操縦席で端末を確認していた。
「予測より粒子濃度高いな……」
視線を上げる。
赤い空。
でも、高度を上げるほど、少しずつ色が薄くなっていく。
コウセイはその景色を見つめた。
飛ぶ。
それが、自分の始まりだった気がする。
アル。
メイプル。
青い空。
全部、空に繋がっている。
その時。通信が入る。
『コウセイ』
マユだった。
「ん?」
『土、触ってる』
「……は?」
『なんか違う』
コウセイが真顔になる。
「データ送って」
『いや、感覚』
「もっと分かんない」
マユが笑う。
『星の土の方が美味しそうなんだよね』
「……土だよ?」
『地球のはなんか口に入れたくない感じ』
コウセイが少し黙る。
本当に分からない顔をしていた。
『何が違うと思う?』
「うーん……」
コウセイは考える。
でも答えは出ない。
『そっちは?』
コウセイは窓の外を見る。
赤い空。
その向こう。
まだ見えない星。
「飛んでる」
『知ってる』
「データ集めながら」
『真面目だねぇ』
「マユが感覚派すぎるんだよ」
『大事なんだって』
少し間。
『感じるの』
コウセイは少し黙る。
理解はできない。
でも。
マユがそう言うなら、きっと意味はあるんだと思った。
「……そっか」
小さく呟く。
青く塗られた飛行機が、
赤い空を抜けていく。
深夜。
研究室。
古い地球資料が大量に表示されている。
落ち葉。
発酵。
微生物。
循環型農業。
マユは端末を見つめていた。
「……土を作ってる」
ナノマシンとは違う。
壊れたものを即座に修復する技術ではない。
時間をかけ、分解し、命を土へ返していく。
マユは静かに呟く。
「そっか……」
「土も、生きてるんだ」
その時。
モニター端に、微弱な植物反応が映る。
地球全域環境データ。
反応地点。
一箇所のみ。
マユが眉を寄せる。
「……なんだこれ」
拡大。
そこには、森があった。
赤い世界。
その中で、黄色から赤へ変わる葉が揺れている。
マユは目を細める。
「……綺麗」
周囲の汚染濃度も、わずかに低い。
土壌反応も違う。
ありえない数値。
マユはすぐ端末を閉じる。
「行こ」
誰に言うでもなく呟いた。




