第三話「繋がり」
地球再生局。
仮設工房の窓から、
赤い空が見えていた。
以前より薄くなっている。
それでも、まだ青には遠い。
大型モニターには、大気循環シミュレーションが映し出されていた。
ナノマシン散布予測。
風向き。
浄化範囲。
コウセイは端末を操作している。
集中している。
「……よし」
小さく呟く。
その時。
「あのね、コウセイ」
後ろから声がした。
振り返る。
マユが立っている。
少しだけ、
言いにくそうな顔だった。
「今更なんだけど」
「私、大地再生の方行っていい?」
コウセイが瞬きをする。
マユは苦笑した。
「今まで散々、一緒に空再生のシミュレーションしてきて」
「ごめんなんだけど」
コウセイは椅子を回し、
ちゃんとマユを見る。
「どうしたの?」
マユは少し考える。
それから、窓の外を見る。
赤い地球。
「この間のコウセイの話、考えてた」
「空だけじゃダメ」
「大地だけでもダメ」
静かな声だった。
「二つは繋がってるって思ったの」
コウセイは黙って聞いている。
「空が綺麗になっても、土が死んでたら人は生きていけない」
「でも、大地だけ戻しても、空が壊れてたらまたダメになる」
マユは真っ直ぐ言う。
「同時に進めないと、詰むよ」
その言葉に、コウセイの視線が少し揺れた。
マユは続ける。
「だから」
少し笑う。
「空はコウセイ」
「大地は私」
「どう?」
工房が静かになる。
モニターの中、青い地球の予測図がゆっくり回転している。
コウセイはそれを見つめた。
空。
大地。
人。
食事。
全部繋がっている。
自分はずっと、空ばかり見ていたのかもしれない。
そして気づく。
マユは、もう“ただ隣にいる人”じゃない。
同じ未来を背負って立っている。
頼もしいと思った。
同時に、少しだけ。
寂しかった。
ずっと隣にいた存在が、自分の知らない場所へ歩き始めた気がしたから。
でも。
それが嬉しくもあった。
コウセイは小さく笑う。
「そっか」
ゆっくり頷く。
「全部、繋がってるんだ」
マユが笑った。
「やっと気づいた?」
「気づいてたよ」
「今の間なんだったの」
「整理してた」
「絶対違う」
笑い声。
昔から変わらない空気。
でも、少しだけ変わった距離。
マユが机へ腰掛ける。
「じゃあさ」
「コウセイ、勝負しよ」
「勝負?」
「うん」
ニヤッと笑う。
「私が地球で作物作るのが先か」
「コウセイが青空から星見れるようになるのが先か」
コウセイが少し考える。
「スケール大きいね」
「当然」
即答だった。
「負けた方が、言うこと一つ聞く」
マユが指を立てる。
「OK?」
コウセイは少し笑う。
「……いいよ」
「よし、決まり!」
マユは満足そうに立ち上がる。
そのまま出口へ向かう。
「じゃ、私は土と戦ってくる」
「もう?」
「やることいっぱいあるし」
扉の前で振り返る。
「コウセイも負けないでね」
そう言って出ていく。
扉が閉まる。
静かになる工房。
コウセイは窓の外を見る。
赤い地球。
でも、もう前より暗く見えなかった。
コウセイは端末を開き直す。
空のシミュレーション。
その横に、新しく表示された項目。
――土壌再生計画。
コウセイは小さく笑った。
「負けられないな」




