第二話「新しい型」
政府施設の一室。
豪華ではない。
長机が並べられ、
簡易的に用意された食事が置かれている。
湯気。
パン。
スープ。
煮込み料理。
その多くは、
船団が持ち込んだ食材だった。
最初、地球側の人間達は戸惑っていた。
記者。
技術者。
政府関係者。
軍関係者。
誰もが、
「会議」や「説明」を想定していたからだ。
しかし。
「……うまいな」
誰かが呟く。
それをきっかけに、少しずつ空気が変わっていった。
会話が生まれる。
食べ方の違い。
味付け。
星での生活。
気づけば、さっきまで張り詰めていた空気は少しだけ柔らかくなっていた。
コウセイはその様子を静かに見ていた。
そして、ゆっくり立ち上がる。
視線が集まる。
少しだけ考えてから、口を開いた。
「さっき、誰か僕をアルの後継者って言いましたよね」
静かになる。
コウセイは首を横に振る。
「僕はアルの後継者じゃありません」
少し間。
「アルはもっとすごいです」
その言葉に、船団側の人間達が少し笑う。
コウセイは続けた。
「でも、そういうふうに見られているなら」
窓の外。
赤い地球。
「地球再生は、アル風でやりたいと思います」
地球側の人間達が顔を上げる。
「まず、工房に食堂を作ってください」
「どんなに忙しくても、必ず揃ってご飯を食べること」
「そして」
真面目な顔で続ける。
「徹夜作業は絶対しないこと」
ざわめき。
理解できないという顔も多い。
しかしコウセイは気にしない。
「これだけは守ってください」
それから、テーブルの料理を見る。
「あと、今みんなが食べてるもの」
「これは、あの星の大地で育てたものです」
静かに聞いていた田渕の目が少し揺れる。
「空だけじゃなくて」
「大地も再生したいと思っています」
コウセイは小さく笑う。
「いつか、地球で育てたものを」
「またみんなで食べたいです」
その言葉は、
技術説明ではなかった。
でも、誰も茶化せなかった。
「そのために必要なのは、技術もそうです」
少し間。
「でも、それだけじゃありません」
静かな空気。
「それが何かは言いません」
コウセイは、少しだけ周囲を見る。
笑い声。
食器の音。
湯気。
「でも、この食事も、その一つです」
誰もすぐには言葉を返せなかった。
赤い地球。
その中で、船団の人間達だけが自然に食事をしている。
それは、地球がいつの間にか失っていた光景だった。
夜。
宿泊区画。
作業端末の光だけが部屋を照らしている。
マユがベッドへ倒れ込む。
「……疲れた」
コウセイは端末を閉じる。
「今日は終わり」
マユが少し笑う。
「珍しい。コウセイが自分からやめた」
「終わり作らないと続けられないから」
その言葉に、マユが少しだけ目を細めた。
「誰の教え?」
コウセイは少し考える。
「……アル、かな」
でも本当は違う。
もっと前。
ずっと昔。
崩れた世界。
暗い部屋。
『終わりを作らないと、続けられないの』
カエデの声。
アルへ残した言葉。
それは今、
メイプルを通して、
コウセイへ繋がっていた。
窓の外。
赤い空が広がっている。
でも、昼より少しだけ赤が薄い気がした。
地球はまだ壊れている。
それでも。
ここからまた、
新しい型が始まろうとしていた。




