エピローグ「高く飛べよ」
青い空だった。
雲がゆっくり流れている。
コウセイは18歳になっていた。
この8年間アルにみっちり技術を教え込まれていた。
発進港には大勢の人が集まっていた。
人間。
アンドロイド。
整備員。
研究者。
子供達。
色んな種族が当たり前みたいに並んでいる。
昔なら考えられない光景だった。
大型輸送船が静かに待機している。
側面には地球復興支援船団の文字。
その前で、
コウセイは工具箱を確認していた。
「絶対なんか忘れてるって」
隣から声。
少女が腕を組んで立っている。
短めの髪。
勝気な目。
昔、一緒に攫われた子供の一人だった。
今ではコウセイと同じ技術班。
「忘れてないって」
「前もそう言って工具忘れたじゃん」
「一回だけ!」
「三回」
即答。
コウセイが顔をしかめる。
少女は少し笑った。
「ほんと放っとくと危ないんだから」
年齢は同じはずなのに、完全に姉みたいな口調だった。
コウセイが呆れる。
「なんでそんな偉そうなの」
「私の方が優秀だから」
「はいはい」
いつもの会話。
周囲の整備員達が苦笑している。
仲は良い。
ずっと競い合ってきた。
新型推進機構。
環境修復機。
デブリ再利用。
どっちが先に完成させるか。
何度も張り合ってきた。
負けず嫌いなのも同じだった。
少女がふとコウセイを見る。
「ちゃんと地球でもやれる?」
「やれるよ」
「死にかけたら助けてあげる」
「なんで死ぬ前提なんだよ」
「コウセイだから」
即答。
コウセイが苦笑する。
昔から変わらない。
この関係が少し心地よい。
少し離れた場所。
アルとメイプルが並んでいた。
風が吹く。
メイプルは少しだけ寂しそうに笑う。
「大きくなったね」
アルが静かに頷く。
『うん』
コウセイが二人の方へ歩いてくる。
もう子供じゃない。
しかし、どこか昔のままだった。
「行ってくる」
メイプルが笑う。
「ちゃんと帰ってきなよ」
「うん」
少し間。
メイプルが続ける。
「無茶したら迎え行くから」
「怖……」
後ろから少女が言う。
「メイプル、私に任せて」
「もっと怖い」
二人が笑う。
静かな空気。
アルがコウセイを見る。
青い瞳。
昔、カエデが見ていたものと少し似ていた。
『コウセイ』
「ん?」
少しだけ間。
アルは静かに言う。
『平和は、作れる』
コウセイは笑った。
迷いなく。
「知ってる」
空を見る。
青い。
どこまでも青い。
「ここで見できたから」
風が吹く。
輸送船がゆっくり浮上する。
少女が先に乗り込み、振り返る。
「早く来なよ!」
「分かってるって!」
コウセイが駆け出す。
途中で振り返る。
アル。
メイプル。
帰る場所。
全部そこにあった。
メイプルが小さく手を振る。
「いってらっしゃい」
その言葉。
昔、カエデがアルへ言った言葉と同じ。
コウセイは笑う。
「行ってきます!」
船が空へ上がる。
青い星。
その空を見上げながら、
アルは小さく呟いた。
『……高く飛べよ』
遠い記録。
『コウの分も』
静かに重なる。
光が宇宙へ消えていく。
今度は、
逃げるためじゃない。
未来へ向かう旅だった。
しばらくして、空港の上空を、
二つの光が横切った。
青、そしてオレンジ。
アルとメイプル。
並んで飛んでいる。
戦うためじゃない。
守るため。
帰る場所を残すため。
青い機体は、
空みたいに静かだった。
オレンジの機体は、
夕焼けみたいに柔らかい。
二つの軌跡が、
空へ伸びていく。
地上では子供達が見上げていた。
人間の子供。
アンドロイドの子供。
みんな同じように。
「綺麗……」
誰かが呟く。
空は青かった。
その中を、青とオレンジの光が、
どこまでも高く飛んでいく。
平和の象徴みたいに。




