第十三話「技師」
修復ドック。
赤い警告灯が静かに回っている。
一定間隔で鳴る低い警告音。
機械の駆動音だけが、広い空間に響いていた。
軍服の男が端末を閉じる。
表示されていたのは、地球再生計画の進行状況。
不足資源。
被害区域。
避難民。
終わりの見えない数字。
青い機体が、その奥に立っている。
男は視線を向ける。
「何か用か」
少しの間の後、アルの声が響く。
『……お願いがある』
男は黙って続きを待つ。
『コウセイには、言わないで』
「何をだ」
『自分の出自を』
静寂。
遠くで火花が散る音がした。
男は低く言う。
「知る権利はある」
『うん』
アルは否定しない。
『でも、今じゃない』
赤い空。
崩れた都市。
機械音。
その中で、アルの声だけが静かだった。
『あの子は今』
わずかに間。
『コウセイだから』
男は視線を落とす。
攫った子供。
利用しようとした少年。
しかし、自分達が見たのは違った。
笑う。
学ぶ。
守ろうとする。
平和の中で育った、ただの子供。
男は長く黙ったあと、小さく頷いた。
「……分かった」
短い返答。
それ以上は聞かない。
青い機体は静かに沈黙した。
地球再生の計画のため、星に戻ってきた。
地球にあるものだけでは技術も道具も知識も足りなかった。
この星の空は青い。
澄んでいる。
風が吹いている中、壊れた街は、少しずつ修復が始まっていた。
工房には、分解されたアルの身体が中央に置かれている。
胸部は開かれ、内部配線が露出していた。
コウセイが端末を見つめている。
真剣な顔。
10歳という年齢には似合わない視線だった。
「……やっぱりここだ」
メイプルが隣から覗き込む。
「分かるの?」
「特殊弾、EMPだけじゃない」
コウセイは内部配線を指差す。
「微弱な自己崩壊コードが混ざってる」
「たぶん時間差で内部を壊すタイプ」
メイプルが少し眉を寄せる。
「嫌な作り方」
「うん」
コウセイは小さく頷く。
「“確実に止める”ための技術なんだと思う」
その声は静かだった。
怒っているわけではない。
ただ、少しだけ悲しそうだった。
アルが静かに聞く。
『除去可能?』
コウセイは少しだけ笑った。
得意そうに。
「できる」
工具を回す。
小さな火花。
集中している。
迷いがない。
コウセイは端末を横へずらし、
露出した内部配線を慎重に辿っていく。
「これ、自己修復を逆利用してる」
「壊れた部分を直すんじゃなくて、壊す方向へ誘導してるんだ」
工具が止まらない。
「……でも」
焼き切れた配線を交換する。
「直せる」
火花。
「壊すための技術なら」
少しだけ笑う。
「直すためにも使えるはずだから」
メイプルがコウセイを見る。
その横顔は真剣だった。
でも、どこか嬉しそうでもある。
「僕、立派なエンジニアになるから」
「もう十分すごいけどね」
「まだまだ」
即答だった。
「アルみたいなの作れるようになりたいし」
アルは静かにコウセイを見る。
内部ログ。
・守る
・飛ぶ
・未来
そして。
『高く飛べよ』
その言葉が、
静かに保存される。
最優先で。
外では、夕日が街を染めていた。
青とオレンジが混ざっている。
戦いは終わっていない。
それでも、未来は続いていた。
次話は明日昼12時更新します。
第二部は全14話です。




