第十二話「継承」
深夜。
軍施設修復ドック。
静かな機械音だけが響いている。
修復中の青い機体。
追加装甲は外され、
損傷した内部フレームが露出している。
赤い警告灯。
火花。
整備ドローン。
その前に、
軍服の男が立っていた。
疲れた顔。
でも眠っていない。
青い機体のセンサーが、
静かに男を見る。
アルの意識は機体側へリンクされている。
男が小さく笑う。
「……不思議な光景だな」
『何が?』
「機械と会話してる」
少し間。
「昔なら撃ってた」
アルは否定しない。
しばらく静かな時間が流れる。
先に口を開いたのは男だった。
「……コウセイはな」
低い声。
「本来、かなり重い血を継いでる」
男は端末を開く。
古い映像。
宇宙空間。
白い機体。
そして。
それと互角に戦う一機。
人間とは思えない動き。
凄まじい機動。
アルの内部ログが開く。
『高く飛べよ』
ノイズ。
青い機体のセンサーが、
わずかに揺れる。
男が言う。
「唯一、白い機体と互角に戦った地球人」
映像の中。
若いコウイチが笑っている。
アルは小さく呟く。
『……コウイチ』
男が振り向く。
「知っているのか」
『うん』
短い返答。
『大事な人だった』
男は少し黙る。
それから続けた。
「戦争を終わらせた英雄だ」
「だが、戦後は軍に監禁された」
苦い顔。
「殺せなかったんだ」
「才能がありすぎた」
映像が切り替わる。
テスト機。
実験機。
新型兵器。
次々と機体へ乗るコウイチ。
「結局、軍のテストパイロットになった」
「本人は平和を望んでいたのにな」
男は静かに言う。
「その後、富豪の娘と結婚した」
家族写真。
幸せそうな笑顔。
そのあと。
別の写真。
さらに時間が流れている。
男が小さく呟く。
「コウセイは、その孫だ」
静かな空気。
アルの内部で、
古いログが開く。
『コウの分も』
『高く飛べよ』
ノイズ。
男は続ける。
「反政府組織は今も残ってる」
「平和を掲げてる連中だ」
「だからコウセイを欲しがる」
「象徴になるからな」
少し疲れた声。
「戦争を止めた英雄の血筋」
「人は、そういう旗が好きだ」
赤い警告灯が揺れる。
男は自嘲気味に笑う。
「軍も連中も同じだ」
「平和を掲げながら、戦争してる」
長い沈黙。
そのあと。
アルが静かに言った。
『……同じだね』
男が顔を上げる。
『みんな』
『守るために戦ってる』
男は答えない。
赤い空を見上げる。
「皮肉だよ」
疲れた声。
「戦争を止めたい奴ほど、戦いから逃げられない」
また沈黙。
そのあと、アルは小さく呟いた。
『……繋がってたんだね』
男が眉を動かす。
『コウイチ』
『コウセイ』
『ちゃんと未来に残ってた』
赤い空の向こう。
遠くで朝日が昇り始めていた。
次話は明日昼12時更新します。
第二部は全14話です。




