第十一話「夕焼け」
地球での滞在が始まって数日。
メイプルは、まだ地球を好きになれなかった。
空は赤い。
街は壊れている。
遠くでは毎日のように爆発音が響く。
それでも、人は生きていた。
狭い居住区。
崩れた道路。
汚れた壁。
その中で笑っている子供達がいる。
メイプルは理解できなかった。
どうして笑えるのか。
修復中の区画。
地球軍と街の住民が共同で瓦礫を運んでいる。
その中をコウセイが走っていた。
「メイプル!」
工具箱を抱えている。
後ろには地球の子供達。
すっかり混ざっていた。
メイプルは少し呆れる。
「何してるの」
「手伝ってる!」
「危ないから離れてて」
「大丈夫だって」
そう言いながら、
コウセイは崩れた配管を見上げる。
地球軍の整備員達が困っていた。
「接続部が合わない」
「旧型規格か……」
コウセイが近づく。
「それ、逆から回した方が早いよ」
整備員が眉を寄せる。
「え?」
コウセイは工具を借り、
慣れた手つきで固定具を調整する。
数秒。
停止していた装置が再起動した。
周囲が静まる。
整備員が驚く。
「なんで分かった?」
コウセイは普通に答える。
「アルがよくやってたから」
その瞬間。
メイプルの内部で、
小さく何かが揺れた。
夜。
赤い空。
高架の上。
メイプルは一人で座っていた。
地球は嫌いだった。
コウセイを攫った。
アルを撃った。
カエデとの家も壊した。
許せない。
その時、隣へコウセイが座る。
しばらく無言。
風だけが吹く。
遠くで警報。
また戦闘らしい。
コウセイが空を見上げる。
「……今日さ」
「地球の子に聞かれた」
メイプルは黙って聞く。
「どうして機械と一緒に暮らせるのって」
少し笑う。
「変なの」
メイプルも少しだけ笑った。
「まぁ、普通じゃないし」
コウセイは空を見る。
赤い。
その瞬間、雲の隙間に光が差し込む。
ほんの少しだけ、
空の色が変わった。
オレンジ。
柔らかい色。
コウセイが小さく笑う。
「……メイプルの色だ」
メイプルが振り向く。
コウセイは続ける。
「なんか、ちょっと安心する」
静かな声。
「地球にも、ちゃんとあるんだね」
メイプルは空を見る。
赤いだけだと思っていた。
戦争の色だと思っていた。
でも今は少し違う。
その時。
下から子供達の声が聞こえた。
「コウセイー!」
地球の子供達が手を振っている。
コウセイも振り返す。
自然だった。
もう普通に混ざっている。
メイプルはその光景を見る。
あの星と少し似ていた。
ほんの少しだけ。
コウセイが立ち上がる。
「ねえメイプル」
「ん?」
「ここもさ」
少し間。
「ちゃんと平和にできると思う」
メイプルは答えない。
しかし、その言葉を否定できなかった。
赤い空。
その中に、確かにオレンジが混ざっていた。
次話は明日昼12時更新します。
第二部は全14話です。




