第十話「守る理由」
地下区画へ続く通路。
警報が鳴り続けている。
破壊された隔壁。
沈黙した兵器。
青い機体は施設中央で停止していた。
そのまま周囲を警戒している。
ただ、そこいるだけで圧力があった。
兵士達は動けない。
撃てば壊される。
でも、殺されない。
それが逆に恐ろしかった。
通路の奥。
足音。
メイプルが現れる。
怒りが消えていなかった。
表情は静か。
でも、内部ノイズが止まらない。
『アルを撃った』
ログが繰り返す。
『コウセイを攫った』
処理不能。
抑え込めない。
その時。
軍服の男が前へ出た。
基地司令。
疲れ切った顔。
それでも逃げない。
男はメイプルを見る。
「責任は全て私にある」
周囲が静まる。
男は続ける。
「やるならやれ」
言い切る前だった。
メイプルは男を無視して走り抜ける。
「え――」
子供達の元へ駆け寄る。
コウセイ。
友達。
みんな無事だった。
拘束もされていない。
怪我もない。
食事も与えられていたらしい。
コウセイが立ち上がる。
「メイプル!」
抱きつく。
強く。
メイプルも抱き返す。
安心した。
でも、怒りは消えなかった。
メイプルはゆっくり立ち上がる。
軍服の男へ近づく。
男は動かない。
覚悟していた。
次の瞬間。
乾いた音が響く。
ビンタ。
男の顔が横へ流れる。
周囲が凍りつく。
メイプルの声は低かった。
「次はない」
静かな怒り。
男は何も言わない。
ただ、
受け入れていた。
メイプルはコウセイの手を掴む。
「帰るよ」
その時。
青い機体が口を開いた。
『地球再生に協力します』
空気が止まる。
メイプルが振り返る。
『だから子供達を返して』
アルの声は静かだった。
『争いを、ここで終わらせませんか?』
数秒間、誰も動かない。
そして。
軍服の男の感情が、初めて表に出た。
「……何故」
掠れた声。
男は青い機体を見る。
「何故、そんなことが言える?」
怒り。
苦しみ。
全部混ざっていた。
「私達は酷いことをしている」
「子供を攫った」
「街を壊した」
「お前を撃った」
震える声。
「人間ではないから分からないのか!」
兵士達が黙る。
男は続ける。
「殺されてもいい」
「その覚悟でここにいる」
握った拳が震えていた。
「地球に住む全ての人が苦しんでる」
モニターには赤い空。
崩れた都市。
飢えた人々。
終わらない戦争。
「救うためなら、悪魔にでもなる」
その声は本気だった。
正義ではない。
綺麗事でもない。
それでも。
守りたかった。
「今、軍を……地球を変えなければ……」
言葉が止まる。
疲れていた。
ずっと、戦い続けてきたのだろう。
アルは静かに聞いていた。
ノイズはまだ残っている。
しかし、理解はできた。
この男もまた、
守るために戦っていた。
手段を間違えただけで。
長い沈黙。
その時。
コウセイが前へ出る。
小さな声。
でも、ちゃんと響いた。
「じゃあ」
皆が見る。
コウセイは軍服の男を見る。
「戦争、終わらせようよ」
静かだった。
子供の言葉。
でも。
この場の誰より、平和を知っている声だった。
次話は明日昼12時更新します。
第二部は全14話です。




