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最適解の外側で、きみと  作者: 泣きピエロToY
第一部 空が裂けた日
3/11

第三話「切り離し」


轟音が、遅れて届く。


空に走る光。

味方機の軌道。

敵の影が、崩れる。

遅れて、空気が震える。

衝撃が広がり、街の残骸を揺らす。


「友軍識別コード確認」


無機質な通信。


「交戦を引き継ぐ」


短く、断定的な言葉。


余地はない。

動きが、止まる。

止められた、という感覚。


戦闘が終わる。

終わらされた。


でも――

何かが、抜ける。

さっきまで確かにあった“繋がり”が、消えている。

静かすぎる。


違う。

音がないんじゃない。

何かが、いない。

内側にあったはずの感覚が、急に遠くなった。


「武装解除を要請。機体識別:アルファ01」


冷たい別の声。

距離がある。


「当該機は回収対象と認定」


一切の迷いがない。


「従わない場合、強制措置に移行」


脅しではない。

ただの手順。


「……回収?」


自分でも、聞こえないくらい声は小さかった。


腕が下がる。

構えが解かれる。

意図していないのに、力が抜ける。


「武装、停止」


勝手に。


味方機のはず。

なのに囲まれている。

見覚えのあるシルエット。


銃口はこちらを向いている。


一歩、下がる。

違う。

下がらされる。

見えない圧。

空間そのものが押してくる。


膝が落ちる。

衝撃が、内側に来る。


骨じゃない。

でも、身体の奥で何かがきしむ。


「やめて……」


誰にも届かない。


「操縦者を分離します」


その一言で、理解してしまう。

嫌だ。

そう思った瞬間には、もう遅い。


胸部が開かれる。

金属がずれる音。

外気が流れ込む。


冷たい。

現実の温度。

機体から引き剥がされ接続が切れた。

奥にあった“何か”が、無理やり引き抜かれる。


「待って……!」


手を伸ばすが何も掴めない。

距離がある。

指先が、空を切る。


感覚が、急に軽くなった。

同時に自分の身体の重さが戻ってくる。

支えがなくなる。


白い。

強い光。

眩しい。

何も分からない。


「立ってください」


強く腕を掴まれ外に引き出された。

逃げられない。

選択の余地はない。

従うしかなかった。


足がもつれながらも歩かされる。

でも、止まらない。

支えられているのに、突き放されている感覚。


扉。

また扉。

同じような白。

同じような光。

方向感覚が消える。

音だけが、響く。


足音。

機械音。

自分の呼吸。

全部がバラバラに聞こえる。


椅子に座るよう促された。

抵抗できない。


「生体データの取得を開始します」


機械のごしの声。

淡々としている。


冷たい異物感に恐怖感を感じた。


「やめて……」


しかし、止まらない。

拘束具が締まる。

逃げられない。

身体が、完全に押さえ込まれる。


「拒否反応を確認。拘束レベルを上げます」


さらに締まる。

呼吸が浅くなる。

胸が動かない。

息が吸えない。


何も、届かない。


誰にも。



扉が開く。

ゆっくりと近づいてくる足音が聞こえ、カエデの前で止まった。


「……コウイチ?」


名前が、自然に出る。

考えていない。

ただ、そこにいたから。

男は動かない。


距離を保ったまま。

一瞬だけ視線だけが揺れる。

しかしすぐ戻る。


「……任務中だ」


それだけ。

それ以上はない。

近づかない。

距離を詰めない。


「なんで……」

「宇宙船のパイロットは……」


声が、弱い。

答えを期待していない。

でも、出てしまう。


「辞めて入隊した」


感情がない。

説明でもない。

ただの事実。


理解してしまった。


ここにいる。

でも、ここにいない。


もう、同じ側じゃない。

埋まらない距離がある。

手を伸ばしても、届かない距離。


「身体に異常は?」


形式的な質問。


「……分からない」


本当の答え。

分からないことしか、分からない。


「何故お前があれに乗っている」


「わからない」


コウイチは一瞬、指が白くなるほど拳を強く握ったが、

すぐ緩ませた。

感情を抑え込んでいるように見えた。


「精密検査を継続する」


他人への声。

自分に向けられていない。


「コウイチ……」


一歩前に出ようとして止まる。

拘束が、邪魔をする。


「規定だ」


それで終わる。

会話は切れ、それ以上はない。


「コウイチ助けて」


「お願い。私は何も知らない」


「……助けて」


コウイチには届かなかった。



警報発令。


鋭い音。

空間が揺れる。


「不正アクセス検知」


機械の声が重なる。

空気が歪む。

光が乱れる。


拘束具が外れ、扉が開いた。

感覚が押し広げられる。


カエデは扉に向い走った。

格納庫に繋がっていた。


「優先対象、再検出」


カエデの呼吸が止まる。

理解する前に、身体が反応する。


「……お願い」


誰に向けたのか分からない。

でも、言葉が出る。


白い装甲のそれが待っていた。

緑の光が周囲を警戒している。

そして確実に“こちら”も見ている。


それに向い足が動く。


怖い。


後ろで銃が上がる。

味方のはずの銃口。

その時、緑の光が銃に向かって照射され銃の安全装置がロックされた。


コックピットが開きカエデは飛び込んだ。

暗い。

奥が見えない。

でも、分かっている。


あそこは戻る場所。

ここは戻ってしまう場所。


振り返る。

コウイチ。

距離はそのまま。

縮まらない。

何も変わらない。


視線を切り一歩踏み出した。


コックピットディスプレイに触れる。

冷たい。

でも、拒否しない。


「……アル」


小さく、でも、はっきり呟く。

一瞬の空白。


無機質な声がする。


「名称を確認」


「識別名:アル」


ほんのわずか。


「登録しますか」


カエデは答えない。


「登録完了」


胸が閉じる。

外部から遮断。

振動が骨に響く。


再起動。


内側から、何かが満ちる。

外が見える。

視界が変わる。


「操縦者カエデ、確認」

「機体名:アルファ01」

「名称:アル」


わずかに、遅れる。

応答の間。

理由は不明。


格納庫の扉を蹴破り外に出ると地球軍が待ち構えていた。

障害を無視する。

銃撃を外す。

予測している。

全部、読んでいる。

そのまま基地外へ飛び出して行った。


夜の空気。

広がる空。

でも、自由じゃない。

止まらない。

止められない。


カエデは、小さく息を吐く。


「……アル、ありがとう」


「あなたには届いた」


返答はない。

機体は止まず、進み続ける。


どこへ向かうのかも、分からないまま。


(第3話 終)

「最適解の外側で、きみと 」は全13話です。

次話は明日12:00投稿予定です。

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