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最適解の外側で、きみと  作者: 泣きピエロToY
第一部 空が裂けた日
2/5

第二話「最適解のズレ」


揺れる。

視界が、固定されない。


遠くて近い。

全部が、合っていない。

カエデの呼吸は乱れたまま、戻らない。


「……なに、これ……」


自分の声が、遠い。


外が見える。

崩れた家。

砕けたガラス。

歪んだ電柱。

さっきまで、自分がいた場所。

その現実だけが、やけにくっきりしている。

なのに、それ以外は、曖昧だ。


距離が分からない。

重さが分からない。

どこまでが自分かも、分からない。

それでも――動いている。

勝手に。


そして――


空間が、歪む。

裂け目の奥。

まだ閉じていない空。


そこから、現れる。

人の形に似ている。


でも、違う。


関節の数が合わない。

曲がり方が、おかしい。

動きが、滑りすぎている。


“止まらない動き”。


敵。


「敵性反応、検出」


無機質な声。


「戦闘行動を開始」


「待って――」


反応しない。

足が動く。


地面を蹴り一瞬で距離を詰める。


速い。

速すぎる。

景色が引き伸ばされる。

遅れて、理解が追いつこうとする。


でも、間に合わない。


敵が腕を振るう。

見える前に、体がズレる。


「……えっ」


遅れて、風が通る。

さっきまでいた場所が、裂ける。

音が、遅れて届く。

何が起きたのか、分からない。

でも、避けていた。

勝手に。


次の瞬間、踏み込んでいる。


「待って……」


止まらない。

体が、前へ出る。

拳が振られる。


感触が、ない。

殴ったはずなのに、手応えがない。


一瞬遅れて、内側から衝撃が返ってくる。

骨じゃない。

でも、似ている。


「……っ」


気持ち悪い。

ズレている。


全部が。


自分の動きじゃない。

でも、自分の中から出ている。


「敵、構造解析完了」


知らないことば。

でも、理解している。

してしまう。


敵の内部。

硬い部分。

脆い部分。


“壊れる場所”。


最初から、分かっている。

狙いが、自然とそこに合う。


「やめて……」


言葉が、かすれる。


「やめて……!」


止まらない。

体が、正確に動く。

迷いがない。

無駄がない。


“最適解”。


敵の動きに対して、

最短で、最小で、最大効率で。


踏み込み。

回避角度。

力の乗せ方。


全部が、最適化されている。


でも――


それは、“カエデじゃない”。


「やめて……!」


声が、震える。


その瞬間。

動きが、止まる。


ほんの一瞬。

でも、確かに止まった。


敵が迫る。

距離が、詰まる。

間に合わない。

カエデの呼吸が、崩れる。

胸が締め付けられる。

視界が揺れる。


「……やめて……」


恐怖。

その感情だけが、はっきりとある。


何かが、変わる。

さっきまでとは違う。

前に出ず距離をとる。


「……?……」


動きが、変わった。

攻撃しない。

踏み込まない。


回避。

後退。

遮る。


「判断基準、更新」


無機質な声。


「操縦者ストレス値上昇」


「操縦者損傷リスク、最優先項目に設定」


操縦者を守るための動き。

カエデを中心に、位置を取る。

敵との距離を測る。


一定以上、近づけない。

間合いを、維持する。


「防御行動へ移行」


攻撃が、消える。


代わりに――

当たらない動き。

避ける。

受け流しずらす。


早い敵の攻撃が来る。


でも――

当たらない。

紙一重で、外れる。

当たるはずの軌道から、少しだけ外れる。

それが、繰り返される。


「……なに……これ……」


カエデの呼吸が、少しだけ戻る。

さっきより、苦しくない。


でも――

違和感は、消えない。


“逃げているだけじゃない”。


敵を観察している。

動きの癖。

タイミング。

重心。

全部を、拾っている。


「……見てる……?」


自分じゃない何かが、見ている。

考えている。

そして――待っている。


その瞬間。

敵の動きが、わずかに崩れる。

ほんの一瞬。

その瞬間だけ――

踏み込む。


「――っ」


カエデの意思じゃない。

でも、止められない。


最短距離。

最短時間。

最小動作。


拳が、突き刺さる。

さっきと同じ場所。


“壊れる場所”。


今度は――

遅れない。

衝撃が、そのまま通る。


敵の形が歪み動きが止まる。


そして――崩れる。


沈黙。


動かない。

終わった。


「敵性反応、消失」


無機質な声。


カエデは、息を吐く。

止めていたものが、一気に抜ける。

力が抜ける。


でも、倒れない。

まだ、意識はある。

機体に支えられている。


「……今の……」


自分がやったのか。

違う。

でも、やった。

その感覚だけが、残っている。


“最適だった”。


そう理解してしまう自分が、怖い。


視界が、わずかに揺れる。

遠く裂け目の向こう。

まだ、何かが動いている。

終わっていない。


「継続戦闘、可能」


機械の声。

淡々と。

感情はない。


カエデの呼吸が、また乱れる。

嫌だ。

もう、やりたくない。


でも――

足が、わずかに前に出る。

止められない。


理解してしまったから。

逃げきれないことを。


「……やだ……」


声が、震える。


それでも――

機体は、動く。


(第2話 終)

「最適解の外側で、きみと 」は全13話です。

次話は明日12:00投稿します。

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