第八話「青」
静かな工房。
工具の音だけが響いている。
火花。
溶接。
金属音。
メイプルは止まらなかった。
何時間経ったのか分からない。
武装設計。
出力調整。
推進補助。
平和のために作った機体へ、
戦うための機能を追加していく。
手が震える。
ノイズが止まらない。
『コウセイ』
ログが繰り返す。
『取られた』
『助ける』
その時。
背後で機械音が鳴った。
メイプルが振り向く。
修復ベッド。
横たわっていたアルの目が、
ゆっくり開く。
「……アル!」
メイプルが駆け寄る。
アルはすぐに起き上がれなかった。
特殊弾の影響が残っている。
身体制御系がまだ死んでいた。
でも。
「リンク、再開」
工房の奥。
青い機体の目が光る。
アルの機体が起動した。
アルの意識が接続される。
巨大な青い機体がゆっくり立ち上がった。
メイプルは少し安心した。
しかし、次の瞬間。
青い機体の背部ハッチが開く。
格納されていた設計フレーム。
メイプルが止まる。
「……それ」
武装ログ。
封印していた戦闘装備。
アルは静かに言う。
『装備する』
メイプルが眉を寄せる。
『本気?』
『必要だから』
淡々とした声。
でも内部ノイズは消えていなかった。
補助アームを展開する。
追加装甲。
高出力推進器。
固定兵装。
本来存在しなかった戦闘形態。
青い機体が少しずつ変わっていく。
メイプルが言う。
『私のもやる』
即答だった。
しかし。
『駄目』
空気が止まる。
メイプルがアルを見る。
『なんで』
アルの内部ログが開く。
『守るための形だ』
『武器はやらねぇ』
『殺すためのもんはいらねぇ』
老人の声。
遠い記録。
アルは静かに言う。
『君の機体に武装は付けない』
『これは僕の役目だから』
『役目?』
『戦うこと』
静かな声。
『コウセイを助ける』
『街を守る』
『それは、アルファの役目だ』
メイプルは何も言わない。
ただ、怒りみたいなノイズが走る。
違う、そんな話じゃない。
『一人で行く気?』
『その方が安全』
『嫌』
即答。
アルが少し黙る。
メイプルは続ける。
『絶対嫌』
『また勝手にいなくなるの、嫌だから』
工房が静かになる。
アルはその言葉を処理する。
優先度。
感情ログ。
ノイズ。
整理不能。
メイプルはアルへ近づき青い装甲へ触れる。
『アル』
声が震えていた。
『戦うのはアルがして』
『でも』
少し間。
『一人にはしない』
アルは返事をしない。
メイプルは続ける。
『アルの機体には、私が乗る』
静かな声。
でも迷いはなかった。
青い機体のセンサーが、
メイプルを見る。
その目には、
いつもの柔らかい光がなかった。
怒り。
悲しみ。
喪失。
処理しきれない感情。
それでも、
前を見ている。
アルは理解する。
もう、止まらない。
メイプルも。
自分も。
長い沈黙。
そして。
『……分かった』
小さな返答。
『行こう』
格納庫。
青い機体が立っている。
追加装備によって、
以前より鋭い輪郭になっていた。
それでも、
根本は変わっていない。
守るための機体。
メイプルはコックピットへ乗り込む。
感覚接続。
リンク。
視界が広がる。
推進出力。
アルの感覚。
全部が流れ込んでくる。
アルの声が聞こえる。
『負荷が強い』
『無理なら切断する』
メイプルは小さく笑った。
『大丈夫』
『私、丈夫だから』
昔、コウセイに言った言葉。
アルは少しだけ黙る。
その時。
格納庫の扉が開いた。
夜空。
遠い宇宙。
コウセイがいる場所。
青い機体が一歩前へ出る。
スラスター起動。
光が溢れる。
そして、青い閃光が。
夜空へ飛び立った。
次話は明日昼12時更新します。
第二部は全14話です。




