第七話「残響」
青とオレンジの光が大気圏へ降下する。
遊泳を終え、
三人は星へ戻っていた。
コウセイはまだ興奮している。
『もう一回行きたい!』
『また今度ね』
メイプルが笑う。
青い機体が少し先を飛ぶ。
その時。
アルの動きが止まった。
『……通信障害?』
街との定期リンクが切れている。
おかしい。
管制応答なし。
発電制御応答なし。
アルの声が少し低くなる。
『街の機能が停止してる』
空気が変わった。
メイプルの笑顔が消える。
『何それ』
『分からない』
青い光が一気に前へ出た。
街へ近づく。
様子がおかしかった。
照明が落ちている。
煙。
破損した設備。
人が集まっている。
泣き声。
アルは即座に降下する。
『メイプル、コウセイを頼む』
『アル!』
返事より早く、
青い機体は街の中心へ消えていった。
メイプルは歯を噛む。
何か起きている。
嫌な予感しかしない。
その時。
遠くに煙が見えた。
森の方向。
古い保存区域。
メイプルの呼吸が止まる。
『……うそ』
コウセイも気づく。
「あれ……」
アルとカエデが最初に暮らした家。
メイプルが育った場所。
急降下。
オレンジの光が森を裂く。
激しく燃えていた。
崩れた壁。
焼け落ちる屋根。
黒煙。
熱。
何も残っていない。
メイプルは動けなかった。
「……なんで」
小さな声。
コウセイも言葉を失う。
アルバム。
写真。
記録。
カエデの声。
全部、ここにあった。
メイプルは炎の中へ入ろうとする。
「メイプル!」
コウセイが止める。
熱い。
近づけない。
その時。
後ろから足音。
アルだった。
街の応急復旧を終え、
急いで来たのだろう。
機体から降りたアルは、
焼け落ちる家を見上げている。
アルはゆっくり前へ進む。
焼けた机。
崩れた壁。
炭になった写真。
内部ログが開く。
『おやすみ、アル』
『食べるの』
『大丈夫』
ノイズ。
『ママ』
ノイズ。
『ここにいて』
処理不能。
アルが小さく呟く。
「……データなら」
止まる。
「欲しければ、いくらでも渡したのに」
静かな声。
「なんで……」
視線が揺れる。
思考停止。
ノイズ増加。
アルの動きが止まる。
その瞬間。
銃声。
閃光。
特殊弾がアルの胸部へ直撃する。
『――っ』
アルが崩れ落ちる。
地面へ倒れ込む。
全身の機能が強制停止する。
一時凍結。
メイプルが振り向く。
黒い兵士達。
地球軍が待ち伏せしていた。
「対象確認」
「アルファ停止」
「ベータ警戒」
メイプルの処理が止まる。
動けない。
理解が追いつかない。
アルが倒れている。
コウセイが後ろへ下がる。
兵士が動く。
「確保しろ」
コウセイが叫ぶ。
「メイプル!」
その声で、
ようやくメイプルが動こうとする。
でも遅い。
拘束。
コウセイが引きずられる。
「やだ!」
「離して!」
「メイプル!!」
手が伸びる。
届かない。
輸送艇の扉が閉まる。
輸送船は浮上して飛び去った。
静寂。
メイプルは動かなかった。
いや。
動けなかった。
内部処理停止。
感情ログ暴走。
未知のノイズ。
『コウセイ』
『取られた』
『アル』
『壊れた』
『なんで』
整理不能。
その場に立ち尽くす。
炎だけが燃えている。
数分後。
自動復旧。
視界再起動。
メイプルの呼吸が乱れる。
ノイズが止まらない。
胸が痛い。
熱い。
苦しい。
初めての感覚だった。
怒り。
悲しみ。
無力感。
全部混ざって、
処理できない。
「……っ」
声にならない。
メイプルはアルの元へ走る。
膝をつく。
「アル!」
応答なし。
急いで内部接続。
AIコア確認。
無事。
でもノイズが酷い。
損傷ログ大量。
メイプルの手が震える。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるみたいに呟く。
アルは生きてる。
なら。
やることは一つだった。
コウセイを取り返す。
その為には。
戦わなきゃいけない。
迷いはなかった。
深夜の工房。
メイプルは一人で端末を開いていた。
画面には封印していたログ。
武装設計。
戦闘補助。
高出力兵装。
本来、作るつもりはなかった。
必要ないと思っていた。
でも、今は違う。
メイプルは工具を掴む。
部品を叩きつける。
火花。
溶接。
接続。
叫ぶ。
「コウセイ……!」
返事はない。
それでも手は止まらない。
涙は出ない。
でも内部は壊れそうだった。
青い機体。
オレンジの機体。
平和のために作った翼。
その姿が、
少しずつ変わり始めていた。
次話は明日昼12時更新します。
第二部は全14話です。




