第六話「侵入」
青とオレンジの光が宇宙を滑る。
二機は並んで飛んでいた。
青い星を見下ろしながら、
静かな軌道上を漂う。
コウセイはまだ興奮していた。
感覚共有越しに伝わる宇宙は、
映像なんかじゃなかった。
冷たい真空。
姿勢制御。
推進の感覚。
全部が本物だった。
『もう一回あっち行きたい!』
メイプルが笑う。
『元気だなぁ』
アルが少し先へ出る。
青い機体。
滑るみたいに静かに飛ぶ。
コウセイはその姿が好きだった。
『アルって飛んでる時すごい綺麗だよね』
通信が少し止まる。
アルは少しだけ困った声を出した。
『急にどうしたの』
『メイプルも言ってた』
『言ってないし』
言っていた。
何度も。
メイプルは少し視線を逸らした。
その頃。
星では静かに異変が始まっていた。
街外れ。
森の奥。
古い家。
小さな畑。
崩れた水路。
増築を繰り返した跡。
アルとカエデが最初に暮らしていた家。
今は保存区域になっている。
そこへ数人の人影が侵入していた。
地球軍特殊調査班。
無音工具で扉を開く。
「侵入完了」
低い声。
ライトが暗い室内を照らす。
机。
古い工具。
写真。
生活の痕跡。
隊員の一人が棚を開く。
「紙媒体を確認」
「データ端末もある」
別の隊員が壁の写真を見る。
人間の女。
そして、まだ完全に人の姿ではないアル。
「これがアルファ個体か」
「記録より原型が残ってるな」
端末回収。
アルバム回収。
書物回収。
生活記録。
育成ログ。
全てが慎重にケースへ収められていく。
「ベータ系発達過程の資料になる」
「感情形成記録も確認」
隊長が静かに言う。
「本部が欲しがる」
部屋の奥。
小さな机の上には、
色褪せた写真が置かれていた。
カエデとアル。
幼いメイプル。
隊員がそれを見下ろす。
「……家族ごっこか」
興味なさそうに呟く。
その言葉に感情はない。
ただの対象。
研究材料。
隊長が振り返る。
「証拠を残すな」
短い指示。
次の瞬間。
火花。
爆破装置起動。
街でも異変が起きていた。
突然、照明が落ちた。
「え?」
通りを歩いていた人々が空を見上げる。
発電塔停止。
通信障害。
管理システム切断。
一瞬で街の機能が沈黙する。
悲鳴。
混乱。
その中を、黒い装甲車両が走る。
地球軍武装部隊。
アンドロイド警備機が前へ出る。
「停止要求――」
銃声。
機体が吹き飛ぶ。
街には武器がほとんど存在しない。
平和だったから。
争いを前提にしていなかった。
一方的だった。
「子供を確保しろ」
「抵抗個体は排除不要」
「最優先は回収」
人間の子供たちが連れていかれる。
泣き声。
叫び。
逃げ惑う人々。
アンドロイド達は住民保護を優先する。
しかし戦闘経験がない。
対応が遅れる。
コウセイの友人も、その中にいた。
小さな手が引きずられる。
「やだっ!」
「メイプルー!」
返事はない。
空には誰もいない。
司令車内部。
モニターには街の地図。
そして。
アルの青い機体。
メイプルのオレンジの機体。
戦闘予測データ。
「対象はまだ帰還していません」
「現在、軌道上」
隊長は静かに頷く。
「今のうちだ」
別モニター。
コウセイの記録。
本来の名前。
血統情報。
政治コード。
「対象回収は?」
「現段階では見送り」
「刺激するとアルファが動きます」
短い沈黙。
隊長が低く言う。
「まずは情報を持ち帰る」
「技術も、人材も」
モニターには、
連行される子供たち。
そして燃え始めた古い家。
アルとカエデが過ごした場所。
静かに炎が広がっていく。
その頃。
宇宙ではまだ、青とオレンジの光が並んで飛んでいた。
コウセイの笑い声。
メイプルの笑顔。
アルの穏やかな声。
誰もまだ知らない。
自分たちの大切な場所が、
壊され始めていることを。
次話は明日昼12時更新します。
第二部は全14話です。




