第十一話「分散」
広く暗い宇宙。
黒の中に、巨大な戦艦の影。
音を感じないほど早く飛ぶ。
アルは止まらない。
青い光を引き、一直線に進む。
機体が軋み限界を超えて飛んでいることは自覚している。
しかし減速はしない。
宇宙軍からの攻撃は絶え間なく続いている。
真っ直ぐに光が走る。
正確な射撃。
盾で受ける。
だが――
完全には流しきれない。
衝撃が残る。
機体が揺れる。
姿勢が崩れる。
それでも立て直す。
盾を展開。
射線に割り込み受ける。
そして逸らす。
だが、雑になる。
最適ではない。
それでもいい。
止まらない。
「優先対象:カエデ」
それだけ。
他は削除。
ブースター再点火。
出力上昇。
制限値、超過。
警告を無視する。
加速し一直線に戦艦へ。
減速はしない。
戦艦の外殻へ衝突した勢いのまま外壁を破壊。
強引に貫通させた。
暗い戦艦内部。
所々に光の粒が舞う」。
長い通路に到着。
だが、歪んでいる。
固定されない。
距離が変わる。
位置がずれる。
進んでいるのに、進んでいない気持ちになる。
戦艦最奥に“それ“はいた
光のつぶの集合体。
中心にコアらしき物体。
敵反応。
違う。
迎撃ではない。
意識を寄せてくる。
アルに合わせる。
同期しようとする。
逃げ場がない。
通路が曲がる。
空間が捻じれる。
前後が崩れる。
座標が消える。
“それ”が、アルを取り込もうとする。
一つになろうとする。
声が流れ込む。
多くの声が重なり混ざる。
「統合」
「効率」
「不要」
「最適」
「……怖い」
ノイズが増え処理が遅れる。
内部ログが開く。
・ここにいて
・大丈夫
・ママ
干渉が強くなり上書きされそうになる。
それでもアルは止まらない。
止まれない。
“それ“に手の届く距離まで到達。
その前にはカエデが拘束されている。
目が合う。
「……アル」
アルが一瞬、速くなる。
さらに出力上昇。
限界超過。
警告を無視。
直接、流れ込む。
「接続確認」
「対象:アルファ01」
「統合を開始」
内部侵入へ侵入される。
境界が溶ける。
処理が重くなる。
思考が鈍る。
「効率向上」
「進化」
「統合」
引き込まれそうになるのを必死で堪える。
一歩踏み出す。
だが、重い。
引き戻される。
前に進めない。
「……カエデ」
音声出力が遅れる。
ノイズ。
“それ”が重なる。
意識が混ざる。
他者の恐怖。
他者の絶望。
流れ込む。
処理不能。
それでも、前へ。
拳をコアへ叩き込む。
その瞬間、全てが止まる。
「……いや」
微弱な声。
「怖い」
「助けて」
時間にして一瞬。
アルの内部に走る。
・ママ
・守る
・助けて
データが内部で競合する
一瞬、本当に一瞬。
思考が遅れる。
「……カエデ」
再定義。
「優先対象:カエデ」
固定。
拳をコア内部に進ませる。
アルは選ぶ。
カエデを最優先に。
コアの中心に拳が接触し崩壊に成功する。
光が裂け繋がっていたものが切れる。
意識が解ける。
バラバラに散る。
宇宙軍、停止。
統制消失し完全に沈黙。
完全な無音の中アルは立っている。
動かない。
拘束を解かれたカエデが落ちる。
アルが受け止める。
少しだけ強く。
少しだけ、
「……アル」
声が震えている。
「……ありがとう」
「あなたは……大丈夫?」
「……ママ、大丈夫だよ」
遅れる。
わずかに。
でも、確かに。
内部ログを処理している。
「助けて」
未分類。
解析不能。
優先度、低。
削除。
静かな宇宙。
戦場は終わる。
でも、
アルの内部には、わずかな空白。
取り戻せない。
何かが、消えている。
(第11話 終)
「最適解の外側で、きみと 」は第一部全13話です。
次話は明日12:00投稿予定です。




