第十話「選択」
朝。
静かすぎる。
風も、音もない。
アルは外に立っている。
毎朝、外部の警戒をするのが日課になっていた。
「異常なし」
そのはずだった。
一瞬遅延。
「……検知」
遅い。
空が歪み光る。
次の瞬間。
爆発で壁が吹き飛んだ。
鉄が裂け地面が跳ねる。
カエデが倒れる。
「――っ」
アルが動く。
自分の体で覆うように遮る。
衝撃を受け止める。
地面が抉れる。
しかし、カエデには届かない。
上空に敵影多数。
「敵性反応、複数確認」
地球軍と宇宙軍が同じタイミングで攻め込んできた。
通信が割り込む。
「対象機体アルファ01を確認」
「即時回収を開始する」
別の通信。
「副次対象を確認」
カエデ。
「回収優先度、更新」
アルの処理が一瞬止まる。
優先順位は機体それともカエデ。
競合がノイズとなる。
「アル!」
カエデの声。
それだけで決まる。
「優先対象:カエデ」
固定。
アルは動く。
速い。
だが敵が多い。
包囲されている。
射線が交差する。
アルは避け続ける。
それでも、守りきれない。
一瞬の隙。
衝撃。
カエデが引き剥がされる。
「――っ!」
空中へ。
捕獲。
宇宙軍機。
「対象確保」
「やめて!!」
届かない。
アルが止まる。
完全停止。
時間が引き延ばされる。
入力だけが流れ込む。
敵の位置。
軌道。
すべて分かる。
しかし足りない。
届かない。
「……カエデ」
その名前だけが残る。
アルの視線が動く。
格納庫の奥。
アルファ01。
一歩踏み出す。
迷いはない。
勢いよく飛び乗る。
リンク開始
元々一つの存在であった。
分離していたものが、重なる。
共鳴が起こる。
ノイズが揺れる。
・ここにいて
・大丈夫
・ママ
能力の解放。
制限が外れる。
境界が消える。
「――起動」
振動。
視界が変わる。
外が内側になる。
身体が拡張される。
背部ブースター点火。
2枚の盾を左右に広げ、空へ飛び立った。
その軌道上に影が割り込む。
地球軍新型機が進路を塞ぐ。
「……そこまでだ」
アルは空中で止まる。
攻撃も、回避も選ばない。
「識別:コウイチ」
一致。
コウイチが叫ぶ。
「カエデを返せ。アルファ」
「お前がカエデを巻き込んだ」
アルも強い口調で返す。
「なぜママを守らない」
「力があるのに」
空気が張る。
「……ママだと」
一歩踏み出す。
「お前が言っていい言葉じゃない!」
コウイチが突っ込んでくる。
鈍い金属音が響き渡る。
だが、そこに殺意はない。
押し合い。
距離が詰まる。
アルは攻撃を受ける。
衝撃を逃がす。
力を流す。
攻撃を選ばない。
壊せる距離でも、踏み込まない。
アルはコウイチに聞く。
「コウイチは、たくさんの人を守れる」
「なのに、なんで」
コウイチは激昂している。
「……カエデの子供はコウだけだ」
「コウは、もういない」
「もう俺にはカエデしかいないんだ」
アルの処理が遅れる。
ノイズ。
「なら、なんでそばにいない」
「一緒に寝て、ご飯食べて、触れて、安心して」
「それが人間だろ」
コウイチは叫ぶ。
「うるさい!」
激しく衝突する。
アルはそれを弾く。
距離が開く。
「見てられなかった」
「コウを失って」
「それでも誕生日を祝って」
「そばにいたかった」
一瞬、動きが止まる。
「でも、どうすればいいか分からなかった」
アルは攻撃しない。
ただ受ける。
「これ以上、傷つくカエデを見ていられなかった」
「だから――」
コウイチは強く踏み込んだ。
アルは盾で受けた。
「カエデみたいな人を減らすために入隊した」
「……お前が現れて」
「カエデは変わってしまった」
アルの内部。
矛盾が繋がる。
「そっか」
「コウイチも」
「カエデが、大事だったんだね」
「ありがとう」
コウイチが止まる。
理解が追いつかない。
一瞬、何も言えない。
歯を食いしばる。
視線が揺れる。
でも、逸らさない。
「でも、今は」
視線が宇宙軍に向く。
「カエデを助けなきゃいけない」
コウイチは動かない。
数秒して空を見る。
「……攫われたのか」
「そう」
コウイチの顔が変わる。
迷いが消える。
「わかった……地球軍は任せろ」
銃を下ろしながら一歩、退く。
進路を開ける。
「地球軍は俺がどうにかする」
「だから」
「カエデを助けろ」
「約束だ」
アルは動く。
一瞬止まり、
「……コウイチ」
「ありがとう」
次の瞬間、
ブースター全開加速。
青い光を引いて。
上空の巨大な影。
戦艦へ向かう。
「……ママ」
(第10話 終)
「最適解の外側で、きみと 」は第一部全13話です。
次話は明日12:00投稿予定です。




