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最適解の外側で、きみと  作者: 泣きピエロToY
第一部 空が裂けた日
9/9

第九話「型」


夜。

灯りが落ちる。

薄暗い部屋。

崩れた天井から、わずかな光だけが差し込む。

アルは横たわって目を閉じている。

そこに“寝ている形”で存在している。


カエデが毛布をかける。

少しだけ、丁寧に端を整える。


「……おやすみ」


「待機状態に移行可能です」


目を閉じたまま、声だけが出る。


「うん。でもね」


カエデは、少しだけ笑う。


「寝るの」


「睡眠は必須ではありません」


「知ってる」


少し考える。


「でも、人ってね」


ゆっくり。


「“終わり”を作らないと、続けられないの」


「……理解不能」


「いいよ、それで」


カエデは立ち上がる。

灯りを落とし部屋を暗くする。


「おやすみ、アル」


わずかに遅れて。


「……おやすみ」


朝。

冷たい空気。

簡単な食事。

残り物の缶詰。

カエデは座る。

アルは向かいに座っている。

姿勢が少し硬い。


「食べる?」


「栄養摂取は不要です」


「うん。でも、やるの」


アルはぎこちない動きで口に運ぶ。

止まる。


「……味覚情報を取得」


「どう?」


「……不明」


カエデは笑う。


「それでいいよ」


日中。

アルは歩く。

ゆっくりと。

バランスが崩れる。

少しだけよろめく。

それをカエデが支える。


「大丈夫?」


「問題ありません」


しかし、動きは止まる。

再計算して歩き直す。


「なぜ、触れるのですか」


「安心するから」


「合理性はありません」


「うん。でも必要」


夕方。

心地よい風が入る。

カエデは外を見る。

アルも同じ方向を見る。

何も言わない。

でも、同じ景色を見ている。


夜。

静かな空気の中、カエデは座っている。

アルは少し離れた近くもなく遠くもない場所に座っている。


扉の外から重い足音が聞こえる。

迷いがない。

カエデが振り返る。


「……来た」


扉が開く。


老人は無言で部屋に入ってきた。


アルが立ち上がる。

わずかに警戒している。


老人はアルを見て言った。


「……動いてるな」


「うん」


老人は立ったまま告げる。


「話がある」


空気が変わたのを感じた。


「アルファには対がある、ベータシリーズだ」


カエデは黙って聞く。


「アルファは“処理”に寄る」


「ベータは“判断”に寄る」


「揃うと、加速する」


「……進化?」


「そうだ」


そして。


「止まらなくなる」


老人はカエデを見る。

視線が外れない。


「お前の思考は、かなりベータの設計思想に近い」


カエデは動かない。

言葉を受け止めきれない。

老人は続ける。


「そばにいるだけで、そいつは変っちまう」


強い語気で言う。

そこに一切の揺らぎはない。


カエデの指がわずかに動く。

アルを見る。

否定できない。

ここまでの全部が、それを示している。


アルは動かない。

内部でログが開く。

・ここにいて

・食べる

・大丈夫

・ママ


優先度、上昇。

理由は不明。


「だから言いに来た」


老人が言う。


「戦わせるな」


「そいつは兵器だ」


「でも、今は違う」


「ここで戦わせたら」


「戻れなくなる」


アルが言う。


「戦闘行動は最適解です」


空気が張る。

カエデは顔を上げアルを見る。


「……それでも」


言葉が続かない。


老人が背を向ける。


「優しさで壊すな」


悲しそうな声で、それだけ言い部屋を出ていく。

扉が閉まる。


カエデは動かない。

アルも動かない。


深夜。


「……おい小僧」


低い声。

カエデではない。


アルは振り向く。


「ちっ、小僧って。ついに俺もおかしくなっちまったようだな」


老人は頭をかきながら言った。


「ちょっと来れるか」


暗い格納庫の奥。

アルファ01の前。

バックパックにブースター。

そこから補助アームでスカイブルーの盾が装着されている。

洗練されていて思いつきで作られたものではないことがわかる。


老人が歩み寄る。

アルを見ずに機体を見ている。


「見ろ」


背部のユニットが、わずかに開く。

補助アームが動き左右に展開した。

両肩に盾が移動した。


「守るための形だ」


指で軽く叩く。

乾いた音。


「前に出るもんじゃねぇ」


「受けるもんだ」


「カエデを守れ、あいつは危なっかしい」


一拍。


「そして自分も守れ」


アルの内部。

・守る

・対象:カエデ

優先度、上昇。


老人は背部を顎で指す。


「そっちは」


振り返らない。

微かに光りながら低く唸っている。


「逃げるためのもんだ」


はっきり言う。


「追うな」


「離れろ」


一歩、近づく。

声が少し落ちる。


「生きてりゃ、何度でもやり直せる」


「死んだら終わりだ」


アルは動かない。

しかし、内部で処理が揺れる。

・守る

・逃げる

同時に存在する。


老人は背を向ける。


「これはやる。でも武器はやらねぇ」


振り返らない。


「殺すためのもんは、いらねぇし付けねぇ」


少しだけ間。


「……分かってんだろ。離れねぇよ、あいつは」


「だから、これだ」


青い装備を見る。


「本来アルファは青の予定だった。地球を目指した奴らの憧れの色だ。」


「そしてこれが未来を守る形だ」


「やっと……完成した」


老人はそっと目を瞑り何かを思い出しているようだった。

「最適解の外側で、きみと 」は第一部全13話です。

次話は明日12:00投稿予定です。

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