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人格者のラベル ※暫定的  作者: 近遠 蕾
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7/12

【セクション7】五月雨のランニング

本日は全国各地で真夏といった感じですね。対照的に小説の中では、霧雨が降って身体が冷えるほどの気温ではありますが。



小雨まじりの早朝。



予報では、時間経過にしたがって天候は回復する見込みと出ていた。

上下ジャージに着替えてランニングシューズを履き、アパートを出る。



他人から勧められて中学の頃からやり始めた習慣という以外の何物でもない行為。

だが走るという行為自体を意味のあるように捉えているのは、走り終わった後に今日一日が始動するのだと位置付けているからに違いない。



習慣はルーティーン化してやがて日常に欠かせない存在となる。やがてそれは食欲や睡眠欲などといった似通った性質の行為となり得るのだろう。




ランニングコースは決まっていない。

その日、その日の思いのままに足を前へと踏み出すのだ。




雨粒が頬を濡らす。

呼吸が荒くなり始めてからは、吸引と排出のイメージを強くして交互に呼吸を行う。小刻みの呼吸を意識しながら、酸素を深く取り入れて、二酸化炭素を浅く吐き出す。



俗説的ながら、有識者たちの間ではこういった呼吸法が健康状態をよくすると考えられているそうだ。

雨粒が強く頬を叩き始めた。




周囲には看板や建物、見覚えのある景色に染まりつつあった。雨宿りがてら荒くなった息づかいと肉体の微かな警鐘に配慮して、目に付いた軒下へと身体を寄せる。それは西洋風のブロック塀に囲まれた入り口扉の、軒下だった。

顔を手で拭ったあとそのまま濡れた髪を掻き上げる。雨と汗が混じった水滴が流れ落ちた。



「今日の天気予報はハズレかしらねぇ」



不意に声がした。

顔を上げると、いつの間にか入り口扉が開いていて、着物をまとった妙齢の女性が立っていた。隔絶した雰囲気を漂わせて絵画の中から飛び出したと思わせるその妙齢の女性は、馴れ馴れしい口調で続ける。




「しばらくは止みそうにないかしらねぇ、上がっていく?」


「‥‥‥‥‥‥」




出雲は、汚れた姿の自分を顧みて返事に逡巡した。




「気にしないでいいわよぉ、着替えのストックもあるだろうし。そのままだと風邪ひいちゃうでしょ? それにこの場所を選んだということは、そういった心づもりもなかったわけでもないでしょう? 違うかしらぁ?」




彼女の言葉はどこまでも正当的で、こちらの考えをすべて見透かしているようにも思えて仕方がなかった。上手く言葉が見つからない。




「‥‥‥お邪魔します」


「ええ、遠慮せず入っていらっしゃい」




そうして促されるまま敷居をまたぐ。

眼前の、きれいな麻の葉紋様の傘について行くと、そこには洋風造りの骨董屋『ココリコ』があった。

骨董屋『ココリコ』の女店主・伊多乃宏香は口元に人差し指を当てていった。




「そうねぇ、まずはお風呂に入って身体を温めてきなさい」


「はい」




伊多乃からタオルを受け取る。タオルからは馨しい伊多乃と同じ香りがした。



〜〜〜〜〜〜


「お風呂、ありがとうございました」

濡れた髪を乱雑に拭きながら、居間に足を踏み入れる。だらしない格好の伊多乃の姿が目に映った。



「どういたしましてぇ、ちゃんと湯船に浸かれたかしらぁ? 」

年代物の長ソファーに仰向けになりながら、着崩した着物を器用に身体に纏わせている伊多乃。スラリと伸びた艶かしい白い地肌が目に毒だ。



「おれが今日、ここへ来ることを‥‥‥まるで知っていたかのようでした」

湯船に張ってあった熱湯は、間違いなくついさっき張り終えたばかりだった。




「さあどうかしらねぇ。ワタシが入ろうと思ってお湯を張っていたところへ、偶然アナタがやってきただけという話なのかも知れないわよぉ? 」

そういいながらも、一向に起き上がろうとはしない。数秒の間、お互い目線を外すことなく見つめ合う。 




「‥‥‥何か作りますよ、リクエストありますか?」


先に耐えきれなくなった出雲が肩の力を抜く。おもむろに話題を逸らした。




「あら、いいの? それじゃあ遠慮なくリクエストさせてもらおうかしらねぇ」


「お手柔らかにお願いします」


「さあ、どうしようかしら。アナタの手料理なんてご無沙汰だし」




上機嫌で鼻歌を口ずさみながら、アレでもないコレでもないと悩み始める彼女。

その横顔は大人びた印象とは真逆の幼い少女のようでもあった。




「何か適当に材料買ってきます。この時間だとスーパーはまだ早いから、近くのコンビニまで行ってきます」



おおよそのリクエストされるような料理のイメージは頭の中にあるので、時間効率も考えて提案する。

外はまだ雨が降っていて多少汚れるかも知れないが、傘を借りればある程度は防ぐことができるだろう。


さっそく行動に移そうと居間を出て行こうとする出雲を、伊多乃が呼び止める。




「一通りの材料は台所にあるから大丈夫よぉ」


「用意のいいことで。それじゃあ台所借りますよ」


「ねぇ、ちょっとぉ〜。まだ料理の注文をしていないのだけどぉ?」


「材料が揃っているなら、まずは前菜のビタミン豊富な野菜の盛り合わせでも作って、気長に待っています」


「できればもっとコッテリとした品か、おつまみになりそうな前菜がいいのだけどぉ」


「先に食物繊維を摂ることで、消化吸収率を助けて血糖値の上昇を抑えてくれます。またコレステロールや塩分の吸収を抑える効果もあるので、美意識の高い女性であれば当然そうするべきだとは思いますが?」


「ひさしぶりに会っても変わらないわねぇ」




似つかわしくない不満顔をする。それを見て出雲は笑った。


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