【セッション2】現実
鵜久森店長は42歳と結構な歳ですが、見た目は若い印象でよく30代に間違われます。
斑目は大学生。出雲は大学卒業後、1年と少しフリーターをしています。
「ありがとうございましたー‼︎ またのお越しをお待ちしています!」
怒涛のようなお昼のピークを終えて、ファミリーレストラン内はようやく落ち着きを取り戻した。
午後2時20分。
疎らな店内にいる大学生グループや子供連れのお客を横目で確認しながら、先ほどまで
店内を駆け回っていた鵜久森が両手いっぱいに食器を持ちながら厨房へと顔を出す。
「ようやくひと段落といった所かな。斑目くん、これお願い」
「了解っす、店長。あっ、出雲さん、コレ2番卓のお客さんのデザートなんですけど、お願いしてもいいっすか?」
今時の若者がよく使う砕けた敬語。
「期間限定商品のやつなんですけど‥‥‥」
「ゴールデンデラックスチョコレートパフェ?」
商品の名前が出てこない斑目に変わって、出雲が疑問系に答える。
「そう! それです、それです。俺、今練習中で」
「分かった」
何かの下ごしらえをしていた手を止めて短く返事をする。第三者から見ればずいぶん素っ気ない返事に聞こえてしまうが、出雲の性格をこの半年の間にある程度把握している斑目は特に気にした様子もない。
「それじゃあお願いしまーす」
そういって洗面台に移動する。
斑目が去った調理台には必要になりそうな材料と底の深い透明グラスが用意されていた。
シャワータイプの蛇口を捻ってから、黄色いスポンジを手にとって、鵜久森から受け取った食器類を洗剤で洗っていく斑目。口調からはあまりイメージできないが、斑目という男は意外にも真面目な性格をしており、加えて効率的だ。嵩張らない平らな皿から順に丁寧に小気味よく洗っているのがその証拠だ。
その様子を一瞥した後、鵜久森が店内へと目を向ける。
フロア担当の従業員たちの何人かが集まっておしゃべりをしていた。
そのことについて特にお説教したりなどはしない。
余裕があるのはいい事だ、と言い聞かせて見て見ぬ振りをする。
社会というものは見て見ぬ振りをする事で円滑に仕事を回るのだ。
再び厨房へと視線を戻す。
「出雲くん、遅くなってごめんね。そのパフェ作り終えたら休憩入ってもらっていいから。それと今日は珍しく早上がりだったよね? 何か用事でもあるのかな?」
「はい、私用があって」
「出雲くんぐらいの年齢だとデートとかかな?」
「まあ、そんな感じです」
「そ、そうか‥‥‥そんな感じかぁー」
少し踏み込みすぎた質問だったかもしれない、と思い直す鵜久森。
この出雲と出会って一年以上経っているが、未だに扱いに困る時がある。あまり自分を語ろうとはしない出雲が、心を開いているとは言い難い。
ただし勤勉に働いてくれているし、柔軟なシフト交代にも応じてくれる。
だからこそ鵜久森は良好な関係を少しでも築こうと試みるも、このようにいつも徒労に終わる。
「作り終わったので、休憩入ります」
出雲は振り返って軽く会釈をして厨房を出ていった。
「あ、あぁ。ごゆっくり‥‥‥」
現実に引き戻されたかのように、鵜久森は咄嗟のことで苦笑いを浮かべるしかなかった。




