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人格者のラベル ※暫定的  作者: 近遠 蕾
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【セクション11】因幡楓という女

視点変更していますが、次のセクションに移行する時にはまた変わっているかもしれません。すみません、慌ただしくて。。。

不運や不幸な出来事というものは連鎖することが多い。

カオス理論や収束理論、見えない何かの力が働いているともいわれているが、実際の多くはそうでないように思う。少なくとも人の心理状態や精神状態に起因して影響していることは間違いない。

自暴自棄になって首吊り自殺やビルの上から飛び降り自殺なんてのは———笑えない話だ。そう自分自身に言い聞かせて頭のスイッチを何度も切り替える。




もう何時間こうしているのだろう。気がつけば今日が終わっているようにも思えた。

因幡は、目の前に置かれた発光しているPC画面を見つめた。薄布団一枚、頭から被った状態。右手はマウスの上に載せられ画面をスクロールさせている。




駅近の1LDKマンション。居室の隅の方には機材や物品が整理整頓されている。

一般的な同性と比べると質素かもしれないが、気にしたことはほとんどない。招いた来客によってはじめてその事実を気付かされたほどだ。

薄暗いその一室で電気も付けずカーテンも閉め切っている。

カーテンの隙間から夜明けの淡い光が差し込んでいた。



「‥‥‥ちくしょう、私が何をしたっていうんだ‥‥‥」

現実感のない茫然とした様子で呟く。




画面上に開かれたSNSのサイト上には、匿名者からの多くの悪口や辛辣なアンチコメントが目に付く。その中に混じって時折、応援するような内容のコメントもある。始めのうちこそ励まされたものだったが、こういったものは偽善者がやっていると分かってからは皮肉のようにしか思えなくなった。




エゴサーチをやり始めると歯止めが効かなくなることは話に聞いていたが、まさか自分も‥‥‥などとは思わなかった。当事者になって初めて被害者に共感できた。因幡が引きこもりの状態になって、早1ヶ月が過ぎようとしていた。担当者やスタッフからの良い知らせはまだ、ない。




ハンドルネーム『Inabaka Ede』。本名の因幡楓をローマ字にして少しもじったもの。

ファンや視聴者の間では『いなバカ』という愛称で呼ばれている。

因幡本人はあまり気に入ってはいなかったが、売れるならそれでもいいと思っていた。





『Inabaka Ede』の活動としては、動画クリエイト投稿活動に各SNSサイトへの発信活動を主にしている。書籍関連も今のところ一冊だけだが、『私が成功までのアイティナリー』と銘打って経験談と少しのフィクションを交えて出版している。




SNS総フォロワー数は120万人を突破。いわゆる界隈では有名人や著名人として扱われていた。

容姿に恵まれ、自己研鑽を続けた。人間関係や交友関係にも人一倍も気を遣ってきた。そしてここまでの地位を手に入れた。




順調だったはずの生活。

しかし転機は1ヶ月前の炎上騒動———いや、本当はもっと以前から訪れていたのかもしれない。



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

数えるのをやめた後悔をして、立ち上がる。





寝巻き用のネグリジェをベッドへ脱ぎ捨ててから、浴室へと向かった。丸3日ぶりの熱いシャワーが、のしかかってくる重荷を少しばかり洗い流して、心を解きほぐす。




バスタオルで髪を拭きながら、冷蔵庫を開けて五〇〇mlのペットボトルを取り出すと、またPCへと向き直った。

燻ってばかりもいられない。


ひたりと忍び寄る不安に、焦りが募る。


同年代と比べて蓄えに余裕がある方だとは思うが、女性の二〇代という時間の価値を因幡自身、痛烈に感じ取っていた。特に自分のようなタイプの演者・エンターテイナーなどは、容姿や外見を世間から評価されているのを自覚している。



そのため、老いという天敵や男関係といった色恋沙汰については致命的にもなり得るのだ。今回の騒動も後者に類する関係が露呈してしまったことが原因で炎上してしまったと周囲の人間は考えるだろう。




こうも世間やメディアといった連中は周りに便乗して騒ぎ立てるのか、痛感した。

活動休止後、副次的にもたらされた何もしない時間というものは、これまでの人生や生活を見つめ直す良い機会となり、気持ちの整理も一応はついた。




気休めにもならないが、落ち込んでばかりいても容赦なく時計の針は先へ先へと進んでいく。

活動休止を宣言して1ヶ月ほど。



まずは実家に一度戻ってそれから報告をして、次に今後の身の振り方を決めよう、と考えていた一方、片手間に匿名掲示板を漁っていると気になるスレッドを発見した。




三〇〇〇件以上のレスポンスや書き込みのあるそのスレッドは、特定の界隈を騒がせている通称、連続自殺事件に関するもので、陰謀論や宗教論など自由かつ様々な考察が行われていた。

一種の情報媒体の集約値ともいえるその匿名掲示板には真偽様々な情報が飛び交っている。



「実名や経歴まで‥‥‥」



自殺した人間の名前や経歴、住所まで公開されていることに、驚きと憤りを隠せなかった。

意味のないことだとは知りながらも、ひとまずその書き込みをしたアカウントを通報しておくことにする。





スレ民と呼ばれるネット住民の特定能力は凄まじいものだと改めて認識させられた。

スレッドを読み進めていくうちに、この連続自殺事件に関する新たなスレッドが立てられていることを知った因幡は、そのサイトにアクセスをする。




興味本位ではなく、ふつふつと湧き起こる義務感に近い感情とどす黒い感情の2つが渦巻いていた。

掲示板には、見た限り同じような内容の書き込みばかりで目新しいものはない。だからだろうか、これまでとは関係のないように感じて素通りしていた興味深い書き込みを見つけられたのは。




『自殺する人間は必ず、他人宅で自殺をする』




アカウント名:3RISE。書き込み元だ。

このような具体的かつ周知されていなかった単一の情報はこれまでの書き込みにはなかった。遡ってみると、この『3RISE』というスレ民はこれまでのいくつかの掲示板でも書き込みをしていた。同一人物かどうかについては分からない。ただその書き込みはあくまでも短く箇条書きというスタイル、そして信憑性の高い発言をしていると思えた。




『3RISE』の書き込みを拾っていく中で、数人の名前と出逢う因幡。

その数人の名前をメモしてから、インターネットで一人ひとりの検索を行う。代表的なSNSを一つでもやっていれば、特定はそう難しくはないはずだ。





そう考えて、栄養調整食品の内袋パッケージを開けて、アルミ包装された内の一つを手に取る。それを三〇十秒で食べ終わると、もう一つの包装を手に取って封を切った。


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