第九話『ワタガ神、降臨にゃん!』のその②
第九話『ワタガ神、降臨にゃん!』のその②
ふと気がつけば、黒い翼の模様は跡形もにゃく消えていたのにゃん。隣に居たミクリにゃんに話しかけるも、『そんなの聴こえなかったし、見なかったよ』と首を傾げるばかりにゃ。
(さてはウチの錯覚にゃん?)
二つのゲームミッションをクリアした疲れからかもしれにゃい。とまぁそう自分にいい聞かせてにゃ。忘れることにしたのにゃん。
《あるある。ワタシなんかしょっちょう》
《それって慰めているつもりにゃん?》
不意に声が聞こえてきたのにゃ。
「あれは奇っ怪獣『ワタガ神』なのわん」
「うわっ! いつの間に」
ミクリにゃんが目を丸くして、声のするほう、自身の背中を振り返ってみればにゃ。黒い姿の妖精が、ちゃっかり、斜め膝で座っていたのにゃん。
(上空にゃとばかり)
「ミーにゃんは知っているのにゃん?」
「アタシはヤカン……って、何度いわせる気よ。ちゃあんと覚えて欲しいわん。
それはそうと。
なぁんか物思いに耽っていたみたいだけど、用心したほうがいいわん」
「用心って、にゃにをにゃ?」
「アレの武器に『ハイパーワタアメ』ってのがあって……やれやれ、これも長いわん。ならば略して……略して……ええいっ!
いちいち考えるのが面倒くさくなっちゃった。なもんで、そのままストレートに『ワタアメ』でいいわん」
「相も変わらず、強引にゃ決め方にゃん。
それで? ワタアメってにゃんにゃの?」
「今に判るわん。あっ、そうそう。にっちもさっちもいかなくなったら、大声で助けを呼んでね。ゲームオーバーとなっちゃうけど、出られないままでいるよりは、ずぅっ、とましでしょ?
じゃあ、アタシはこれで逃げるから。あとはよろしくぅっ」
「逃げるって……あぁあ、もう居にゃくにゃってしまったのにゃん」
どうにも落ち着きがにゃい。現われたかと思えば、直ぐに、ぱっ、と消えてしまうのにゃもん。これでは話もにゃにも、冷やかしに来ているとしか思えにゃい。
でもにゃ……。直ぐに消えたのには理由があったのにゃ。
《ワタシが登場するから?》
《どこににゃん?》
ガガガガガガガッ! ガガガガガガガッ!
轟音と共に激しい震動が足元にまで伝わってくる。にゃもんで砂漠の表面を眺めてみたらにゃ。一つの流れが出来ていて、ありとあらゆる粒々が、『ウチもウチも』とばかりに、ワタガ神にゃんのほうへと向かっているのにゃ。
「まるでザラメを吸い込んでいるみたいにゃ」
粒々の動くさまを見つめているうちに、どういうわけか、好奇心が芽生えたのにゃん。
「そういえば、この下って一体どうにゃっているのにゃん?」
にゃあんか無性に知りたくにゃってにゃ。『にゃらば』と思いっ切り、砂漠に頭を突っ込んでみたらにゃ。
……ここら辺り、ウチが正気にゃったのかどうか疑問にゃのにゃけれども。
まっ、それはさておきにゃ。
《ふふっ。ついにミアンちゃんもワタシ並に》
《大変にゃ。気をつけにゃいと》
当たり前に考えれば、ごつん、と頭に響いて、ざらめをくっつけて、で終わりのはず。
でもにゃ。事実は小説よりも奇にゃり、の方向へと傾いたのにゃん。
「ミーにゃん!」
「んがあぁぁっ……あっ!」
ウチの目に映った真っ逆さまの光景。どこかよそさまの家の中を拝見しているようにゃ眺めにゃ。木造りの部屋に、畳みに、ちゃぶ台。でもって畳の上に座っているのは『黒いミーにゃん姿』のヤカンにゃん。ちゃぶ台に置かれた小皿に盛ってあるイチゴのショートケーキをフォークに刺してにゃ。でっかくした顔の口を目一杯開いて、今まさにほお張ろうとしていたのにゃん。
……でっかくしたとはいっても、ウチの顔ぐらいにゃ。もっとも、ウチにしてみれば、自分自身がネコにゃもんで、『並みの大きさ』ということににゃるのにゃけれども。
にゃんとにゃく気まずいムード。にゃもんで、ミーにゃん、じゃにゃい、ヤカンにゃんはケーキを食べようにも食べられず、ウチは、声をかけようにもかけられず、ふたりとも見合ったままでいたのにゃん。
《豪華なステージの舞台裏を見てしまった、って感じかしら?》
《ううぅん。ちぃとばかし違うにゃあ。あえて言葉にするにゃら、
『頭のてっぺんを鏡で見たら、禿が見つかって大慌てにゃん』ってとこかにゃ》
《まっ。いい得て妙な発言ね》
もぐもぐもぐ……ごっくん。
呑み込むように急いでケーキを自分のお腹に収めたのにゃけれども、これがまたにゃかにゃか面白いのにゃん。喉の奥へと押し込んだ途端、顔はいつもの大っきさに戻ってにゃ。代わりに、お腹が異常にゃくらい膨らむ。でもにゃ。それも一瞬。たちまち、ぺたぁっ、とへっ込んで、これまたいつもの大っきさにゃん。
(ぶふふっ。まるで風船が二つあるみたいにゃ)
笑ってもいられにゃかった。『もう用済みなのわん』とばかりにフォークをちゃぶ台に、ぽいっ、して、こちらへと飛んできた顔が、……どうしてにゃろうか。にゃんか、ぷんぷん、しているのにゃん。
「こらぁっ! 想定外の覗き見なんてするんじゃないわん!
それと、なんべんいったら判るの?
アタシはヤカン。間違えちゃダメなのわん!」
「えっ。間違えちゃダメなの?」
返事をしたのはウチじゃにゃい。黒いミーにゃんの後ろに、すうぅっ、と幻のように現われた緑色のミーにゃんにゃ。
(まるで背後霊にゃん)
「当たり前なのわん。どんな変てこりんな名前であっても、それはその命が何者であるかを示す最大の拠り所なのわん。なもんで、それを間違えるってことは、その命を軽んじているからに他ならないわん」
「そうかぁ。アタシは今の今までモワン、ううん、ミアンを軽んじていたのわん。親友なのに…………家族同然なのに…………。
ごめんね、ミアン」
「ミーにゃん……」
緑色のミーにゃんは、ぺこり、と頭を下げると、そのまま消えてしまったのにゃん。
「全くぅ。どうしてこんなにも簡単におネムの術を解いてしまうのわん」
ぼやくようにゃ口調のヤカンにゃん。
「それはにゃ。ミーにゃんがイオラの森の」
『お姫様にゃからにゃ』と続けたかったのにゃけれども、ヤカンにゃんの言葉が、待った、をかけたのにゃん。
「まだ居たのわん? とっとと、ここから出て行きやがれ! なのわん!」
ぼがっ!
頭に怒涛の蹴りを食らったのにゃん。脳天を破壊せんばかりの強打、とまではいかにゃいにしてもにゃ。ウチの頭が地面の外へと追いやられたばかりか、身体のほうも後ろに大っきく仰け反ってにゃ。そのまま、ばたん、と倒れる始末にゃ。
「なにやってんの?」
はっ!
一瞬、気を失ったみたいにゃ。ミクリにゃんの声に起こされたウチは、今しがた目にしたことを、耳にしたことを、話そうと、がばっ、と起き上がったのにゃ。
「ミクリにゃん。あのにゃ、そのにゃ、ウチらが今、立っている下にはにゃ」
しどろもどろに喋る友にゃちの顔に、話し相手は右前足の肉球をかざしたのにゃ。
「ぷにぷに、が、どうかしたのにゃん?」
「じゃなくって。ほら、ミアン君。お喋りをやめて、あれを見てごらんよ」
ミクリにゃんのたにゃにゃらにゅ物言い。『にゃにごと』と視線を合わせてみたらにゃ。『どうやら、ミッションが始まったみたいにゃ』と思える事態が勃発していたのにゃん。
「ついさっき、ぐるぐると回り始めたんだ」
ミクリにゃんのいう通り、『目を回すんじゃにゃいの? 幾らこの空間のボスキャラにゃからってそんにゃに無理をしにゃくても』と心配するくらい、ワタガ神にゃんは大回転の真っ最中。でもにゃ。それにゃけじゃにゃい。
「真っ赤にゃ……。真っ赤っ赤ににゃっているのにゃん!」
おまけに、今にも破裂せんとばかりに膨らんでいるのにゃ。にゃにか起こりそうにゃのは誰が見ても一目瞭然。
「これから、どうにゃるのにゃん?」
《察するに……、いきなりネコ前に出たから、恥ずかしがっているのじゃないかしら。
あるいは、ネコ見知りってことも》
《にゃいにゃい》
《そうだわ。ミアンちゃんに一目ぼれかも。まぁどうしましょう。
ダメよ、イオラ。ここは年長者として落ち着かなくっちゃ。
ああ、でも、でも、本当にそうだったとしたらぁ。
ミアンちゃんがミーナちゃんとワタシの元から離れていくなんてぇ。
いえいえ、まだそうと決まったわけじゃないわ。ここはじっくりとミアンちゃんの覚悟を聴かなきゃ。うろたえるのはそれからでも間に合うわ。
さぁイオラ。精霊らしく、心鎮めて……よぉし。
どうするの? ミアンちゃん。
いつ告白されてもいいように、気持ちの整理はちゃあんと出来ているの?
ミクリちゃんとは本当にお友だちのままなの?》
《にゃあ、イオラにゃん。さっきから、にゃに、おたおたしてんのにゃん?
……っていうか、どさくさ紛れに、にゃあんて質問をするのにゃん》
ウチを含むミーにゃん同盟のみんにゃが固唾を呑んで見守る中、にゃにやら白いモノがワタガ神にゃんの周りに発生したのにゃん。
ふんわりふんわり。ふんわりふんわり。
いかにも軽そうにゃ。良ぉくみれば、糸状の『にゃにか』がたくさん絡み合い、束ねられているのが判る。でもにゃ。それ以上のことは、とんと。ミクリにゃんもウチとおんにゃじらしく、顔を見ても黙って首を横に振るにゃけ。
(にゃら、誰に聴けば)
もちろん、考えるまでもにゃい。
《もちろん、ワタシよね? ミアンちゃん》
《ミロネにゃんにゃ》
ウチの思いが通じたのかもしれにゃい。ばっちしのタイミングで、ミロネにゃんとミストにゃんのお喋りが聞こえてきたのにゃん。
「吸い込んだザラメを使っているのか。どうやら、あの穴から出ているようだな」
「穴?」
「貴殿にも見えると思うが?」
「どれどれ……うっ。アレなの。あんなところから噴き出してくるなんて。
なんかブキミというよりかは、グロテスクな感じに思えてきたわ」
「そうかな? 噴き出しこそしないが、保守空間も見た目は似たようなものだぞ」
「あのね、ミロネ。『それをいっちゃあ、おしまいよ』『ミもフタもないわ』的な発言は慎んだほうがいいんじゃない? マザーミロネ様に怒られるわよ」
「大丈夫だ。今もリンクは途切れたままだから、なに一つ聴かれちゃいない。もっともぉ、たとえ繋がっていて、かつ聴かれていたとしてもだ。オレの視界に映るモノとご自分の保守空間とを照らし合わせてみれば、認めざるを得ないはずだ。事実を喋っているのにすぎない、ってことをな」
「ふぅ。相変わらず強気ねぇ。まっ。それはともかくとして」
ミストにゃんの視線が再びワタガ神にゃんへと注がれたのにゃ。
「でも、どうしてかしらね。どうして粒粒のザラメがあんな白い糸になるのかしら?」
「これはオレの想像でしかないが……。
ワタガ神が赤くなっているのは、恐らく内部で熱を発生しているからだろう。その熱でもって、吸い込まれた『ザラメ』とやらの固体を液状化させているのだと思う。
回転しているのは、内部に遠心力を働かせるのが狙いだ。この力を使って穴から放出させているのだろう」
「じゃあ、どうして液体のまま出ないの?」
「今、喋った通りであれば、内部は高温で保たれていることになる。そこから外へ飛び出したら、どうなると思う? 考えるまでもない。空気に触れた途端、一気に温度が下がる。液体だったものは冷やされて固体化する」
「そっか。それで、あんな風になるのね」
「多分、ヤカン殿のいっていた『ワタアメ』じゃないかと思う。
はてさて。どうなることやら」
ふたりの会話を耳にしてにゃ。ウチも、『穴』にゃるモノを見ようとしたのにゃ。でもにゃ。白いふわふわが邪魔でよく見えにゃいのにゃん。
「あっ、そういうことでありますかぁ!」
素っ頓狂にゃ声を張り上げたのはミムカにゃん。
「えっ。見えたの?」「見えたのにゃん?」
ミクリにゃんと一緒に声を上げるも、返ってきた言葉は、
「当たり前です。『女神同好会』の会長である私の美しさが見えない者など、どこにも」
いつの間にやら、ミリアにゃんが目の前に。
「どさくさ紛れに出てくるにゃあ!」
聴く耳持たず、とばかり、ウチとミクリにゃんは『排除』の行動に打って出たのにゃん。目配せし合った次の瞬間、猛烈にゃる勢いでダッシュして、強烈にゃるダブルクラッシャーパンチをお見舞いにゃん。ふたり揃っての、息もぴったりの行動が底知れにゅ威力をもたらす。哀れミリアにゃんは、ひゅうっ、と、お空高くへ飛んでいったのにゃん。
……お星さまとにゃったかどうかはさにゃかじゃにゃい。
《どうしてワタシじゃないの? 立候補すべきかしら》
《やめにゃさい。『女神同好会』の会長ににゃんてにゃるのは》




