第九話『ワタガ神、降臨にゃん!』のその③
第九話『ワタガ神、降臨にゃん!』のその③
「霊視を強めれば、直ぐに判りますですよぉ」
さも当然そうにミムカにゃんが口にした言葉。目からウロコがはがれ落ちる思いにゃ。
「にゃって。ミクリにゃん」
「そうか。その手があったね」
やっぱウチらはアホにゃん、と、ふたりで照れ笑い。
と、ここで背中のほうから、ミクリにゃんのあとを続けるようにゃ声が。
「すっかり忘れていました」
ぎょっ。
「あんた、いつ戻ってきたのにゃん?」
「ああ、美味しい。一汗かいたあとはこれにかぎります」
ミリアにゃんがウチの隣でお茶を、ずずず、と啜っていたのにゃ。
《お茶はいつ、どこで淹れたのかしら?
……とその前に、茶飲み茶碗、どこに隠していたのかしら?》
《にゃ》
《あとは……そうそう。一汗かいたのなら、断然冷たいほうがいいわよね?》
《あのにゃあ。気ににゃるのはそっちにゃん?》
あらためて霊視で見つめてみたのにゃ。
「ふにゃっ。アレにゃん」
「アレかぁ」
白い糸状のモノが流れて……おぉっ、と。ここは、『ミロネにゃんの説が正しいのにゃん』と信じて……、『ワタアメ』が流れていくさまを確認。にゃもんで逆に辿っていったらにゃ。にゃんと、ミストにゃんをして『ブキミ』といわしめた、あのぶつぶつの先っぽから、一斉に放たれているのが判ったのにゃ。
「すっごい勢いにゃん」
最初は、ゆっくりゆっくり、にゃったのが次第に加速。今や、ワタガ神にゃん自体をすっぽりと覆う、厚い円柱の白い雲と化してしまっているのにゃん。
「綿雲っていうのは、ひょっとしたら、これを見た誰かが思いついた言葉にゃのかもしれにゃいにゃあ」
大きさに圧倒され、『にゃにをすべきか』の判断がどこかへ失せたウチ。目の前に繰り広げられる光景を理解するのがやっとにゃん。
「おっ、こっちにも拡がってきたのにゃん」
ワタアメは留まることを知らずに、どんどん大きくにゃっていくのにゃ。どんどん。どんどん……。
「ミアン君。ぼぉっ、と眺めている場合じゃない。早く逃げなきゃ」
ミクリにゃんのいう通りにゃった。でもにゃ。時既に遅しにゃん。
「ふにゃああ!」
不覚にも逃げ遅れてしまったのにゃん。
あっという間に視界が真っ白。身体にもぐるぐると巻きつかれてしまってにゃ。もう身動き一つとれにゃいありさま。
「とほほ。情けにゃいことににゃってしまったのにゃあ」
《我を忘れて、みたいな状態だったの?》
《うんにゃ。ほら。いつにゃったか、イオラにゃんが巨大岩石ににゃったことがあったじゃにゃいの。あん時、重すぎて、『もうダメぇっ!』と悲鳴を上げて、湖に、どぼぉん、と落下したにゃろ? ウチとミーにゃんとで、あっけにとられていたのを今でも覚えているのにゃ。
迫力と意外性の点からいえば、一歩も引けをとらにゃかったと思うのにゃん》
《ミアンちゃん……。お願い、忘れて。あれは若き日のアヤマチなの》
「こうにゃるのがイヤで、逃げたのにゃん」
やぁっと、ヤカンにゃんがあたふたと姿を消した理由が判ったのにゃ。
「にゃら、この白い雲みたいにゃもんが、『ワタアメ』にゃ。
ウチはワタアメの中に閉じ込められてしまったのにゃん」
全身くまにゃく埋もれてしまった状態。もっとも、糸と糸の間に隙間でもあるのにゃろ。『息を吸ったり吐いたり』程度にゃら、にゃんの支障もにゃい。
とはいえ、それにゃけっていうのもにゃ。
(全くぅ。困ったもんにゃ)
ダメ元で、もちっと強めに前足を動かしてみたのにゃ。
そしたら……ぶふっ。思わず、笑ってしまったのにゃん。
やってみるもんにゃ。楽々とワタアメは引きちぎれ、前足は自由とにゃったのにゃ。
(ちぃとばかし衝撃を与えるにゃけで切れるみたいにゃ。これにゃら楽勝にゃん)
綺麗にゃウチのお顔を半分覆っていた忌まわしいワタアメを、鉤爪でちょいと引っかいてみる。もちろん、顔にゃんぞに当たってはいけにゃい。慎重にゃ上にも慎重ににゃ。案の定、これまた簡単にはがれ、目元くっきり。視界が、ぐぅん、と拡がったのにゃ。
「糸にゃけに、いとも簡単に切れたのにゃあ!」
誰も居にゃいと思ってつまらにゃいシャレを口にしたのは……もちろん、内緒の話にゃ。
《あら、面白いわよ。ほっほっほっ。『ふとんがふっとんだ』くらいに》
《にゃんて、お古いシャレにゃん》
「取り敢えず、ここから脱出しにゃいとにゃ」
前足を使って夢中で、かきかき、してみたのにゃ。でもにゃ。身体のワタアメはほとんどくっついたまま。特に後ろのほうにゃ。にゃもんで、後ろ足も同時に、かきかき、してみたらにゃ。にゃんにゃんと動けるようににゃってきたのにゃん。にゃもんで、『これは有望かもにゃ』と思い、今度は、めちゃくちゃに暴れまくるという全身運動を展開。これがまぁ疲れに疲れる。しんどいかぎりにゃん。でもにゃ。その努力が功を奏してか、少しずつにゃがらも、ワタアメの呪縛からこの身が解かれて……はて? にゃあんか判りにくいのにゃあ。『呪縛を解く』にゃんて表現を無理に使おうとしたのが裏目に出てしまったのかもしれにゃい。ネコはどうあがいたってネコ。それ以上にもそれ以下にもにゃれにゃいのにゃん。にゃらば、この身に相応しい言葉で綴るのみ。まっ。要するににゃ。身体の自由が少しずつ利くようににゃってきたにゃんよ。
「まぁこんにゃもんかにゃあ」
露わとにゃった毛肌を触れてみたらにゃ。にゃあんか、べとべと、するのにゃ。
「一体にゃんにゃろう?」
試しに、とナメてみる。途端に思わず声が。
「あんまぁいのにゃあん!」
心とろけるようにゃ甘さにゃん。
「ひょっとすると、これ全部が」
早速、ウチを囲んでいるワタアメもナメてみたのにゃ。
ぺろぺろぺろ。
「にゃ、にゃんと!
にゃあるほどぉ。これにゃらお菓子にゃ。お菓子に間違いにゃい」
脳裏に浮かぶは、ヤカンにゃんのいっていた、『お菓子なゾーン』の言葉。あれは正しかったのにゃん、と認めさせるほどの感動をウチにもたらしたのにゃ。
《判る判る。ミッションコンプリートへの突破口となる重要なヒントだった、っていうんでしょ?》
《あのにゃあ。
イオラにゃん。ネコはどうあがいてもネコでしかにゃいんよ》
《ということは……》
《ということにゃん》
感動とは決して甘さにゃけじゃにゃい。
舌に触れる……じゃにゃい。舌の唾液に触れるにゃけで溶けてしまう柔らかさもにゃ。見かけは丈夫そうでも、もろさ、はかにゃさが浮き彫りの代物にゃのにゃん。
(切にゃい甘さにゃん)
《にゃっ。ウチが感動したのは『味』にゃんよ》
《そんなの。今はもうどうでもよくなったわ》
《にゃんかあったのにゃん?》
《告白するわ、ミアンちゃん。
ワタシもね。強そうに見えて、実はガラスのような儚い存在なのよ》
《というと……、強化ガラスにゃの?》
《ひどいわ、ミアンちゃん。せめて防弾ガラスにしておいて》
《似たようにゃもんにゃ。
時にイオラにゃん。天空の村にあるのにゃ? 『ガラス』にゃんて》
《ミアンちゃんに警告。ここはそれを論じる場ではなくてよ》
《そうにゃった。ウチとしたことが申しわけにゃい》
《うん。判れば良し》
長生きはするもんにゃ、と、つくづく思う。
(こんにゃ食べ物があったにゃんて)
夢中で食べている間に不思議にゃことを発見したのにゃ。どんにゃに、足や鉤爪で引っかいても、歯で噛み切ってもにゃ。延びてきてくっつき合おうとするのにゃ。巻きついてこようとするのにゃ。……早い話が、元に戻ろうとするのにゃん。
「ということはにゃ。ここから脱出したいのにゃら、一にも二にも急ぐにかぎるのにゃ」
思い立ったが実行にゃ。ウチはまるで水の中を泳ぐようにネコかきしにゃがら、ワタアメを、食いちぎってはなめ、なめては食いちぎって、を繰り返して前進したのにゃん。
ちにゃみに。
ネコかきって、ネコそれぞれ違うのにゃ。ウチのは前足のみにゃらず、後ろ足も使って左右交互にかいている。はた目には、『もがいている』風に見えるのかもしれにゃい。
《いつか川で泳いでいたわよね。『上手い上手い』ってミーナちゃんと感心して、ずうぅっ、と飽きもせずに眺めていたのを今でも覚えているわ》
《溺れていたのにゃん。自分が霊体であることも忘れて、本当の本当にもがいていたにゃんよ。にゃのに、あんたらときたら……ぐすん》
とまぁ、ぺろぺろ、やっているうちに、根本的にゃ問題が脳裏をかすめたのにゃ。
(ウチはどこに向かって進んでいるのにゃん?)
もちろん、ウチにゃって、たにゃやみくもに前進しているわけじゃにゃい。ワタガ神にゃんとは反対方向へ、遠ざかっているつもりにゃのにゃ。とはいえ……、『本当にこっちで正しいのにゃん?』と問われれば、『どうにゃろう?』と答えるしかにゃい。正直にゃところ、真っ白に視界が閉ざされて以来、動揺のあまりか、上も下も左も右も、どっちがどっちか、さっぱり判らにゃくにゃっていたのにゃ。
《あのね。ミアンちゃん。この世には『方位磁石』なるものがあって》
《地磁気が狂っていたら、どうするのにゃん?》
《なにそれ?》
(多分、こっちにゃろう)
ぐずぐずしていれば、また巻きつかれる。それはイヤ、ってことで、いわゆる『ネコ感』という奴を信じて進んでいる、といった具合にゃ。
(みんにゃはどうしているのにゃろう。誰かに逢いたいにゃあ)
ひとりぽっちとにゃってから、一体どれくらい経つのにゃろう。不安を紛らわそうと、足を休めることにゃくひたすらワタアメの中を動き回るウチ。ネコ恋しい気持ちがどんどん心に募っていく。……とその時にゃん。
ぴたっ。
右の前足に嬉しい震動が伝わってくるのにゃ。
「にゃら」
急いで左の前足も前に。
ぴたっ。
こちらもにゃ。
(間違いにゃい。向こうに誰かが居るのにゃん!)
目の前に立ち塞がる白い壁を打ち破らねば相手の姿は見えにゃい。
さくさくさく。むしゃむしゃむしゃ。なめなめなめ。
逢って話をするにゃけの空間も造らねばにゃらにゃい。
さくさくさく。むしゃむしゃむしゃ。なめなめなめ。
それには食べるしかにゃい。掘って、かじって、ナメて。もう無我夢中でワタアメをほお張ったのにゃん。向こうからもこっちとおんにゃじ音が聞こえてくる。恐らく思いは一緒にゃ。
(次のひとかきで逢える。次のひとかきこそ)
繰り返し自分にいい聞かせてにゃ。ひたすら前に。……そしてついに。
ぴたっ。ぷにぷにっ。ぴたっ。ぷにぷにっ。
これぞ肉球の感触にゃん。
「ミクリにゃん!」
「ミアン君!」
とうとう愛のトンネルは繋がったのにゃん。
「逢いたかったのにゃん!」
「ボクだってさ!」
こうしてウチらは待望の再会を果たしたのにゃん。ワタアメが甘いにゃけに、抱き合って流した涙は、うぅぅん、としょっぱく感じたのにゃ。
《大げさじゃないかしら。離れていたのって、実際はほんのわずかな間でしょ?》
《いいじゃにゃいの。ロマンチックも、たまには》
《はいはい……って、ロマンチックなのかしら? これって》
《信じるもんは救われるのにゃん》




