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第二四話 成否

エリネルト村から約二キロトほど離れたところに、直径五十メトルほどの円形に刈り残した場所がある。それが対ハーベストアントの罠だ。

偽装してあるが、ぐるりと囲むように深い落とし穴を作ってある。

土系魔法も使って穴を掘り、底に槍や尖った杭を何本も設置した大掛かりなものだ。槍の穂先には神聖魔法を付与してある。

もちろんそれで倒せるわけではない。むしろ倒すことよりも、杭を体に刺して動けなくするのが狙いだ。


その落とし穴から一〇〇メトルほど後方、櫓を防柵で囲んだ小砦に迎撃隊八十名を置いている。俺はその迎撃隊の中にいた。

レイナにかっこ悪いところを見せたくないけど、さっきからかちかちと面白いくらいに俺の歯が震えて鳴っている。暑いのに冬みたいだ。

「リョさ、お、っすよ」

ホー君がすごく引きつった顔で言った。

リョータさん落ち着くっすよ、と言いたかったんだろうけど言えてない。

「ホっ、お、わっ!」

ホー君、おう、わかった。と言いたかった俺も同様だ。緊張で口が回ってない。

俺とホー君はお互い一瞬困った顔で頷きあってから、互いの拳を打ちつけて気合を入れた。ぐっと食いしばり震えを止めて、俺達冒険者の絆に言葉はいらねえぜ、ということにする。

後ろを見ると一段高く組んだ場所にレイナが弓を手にたたずんでいる。

隣にはジョシュアもいる。二人とも弓が使えるのでその配置になった。

レイナは落ちついていて戦いに集中している。


「いつもとやることはかわらねえから。魔物を叩く。俺が逃げろって言ったら逃げるだけだ。あ、いつもと違って討伐部位はいらねえからな。持って帰らなくてもちゃんと報酬出るから。集めて今度換金しようなんてセコイ真似すんなよ」

ダッガさんは特に緊張している様子もなかった。

彼の冗談に笑い声が上がる。

「そういや、カースドモンスターの討伐証明部位ってどこになるんだろな。おいカルドン知ってっか?」

「知るわけねえだろ。ハーベストアントは触覚だけどな」

「カルドンは物知りだよなあ」

ベテラン勢は落ち着いている。


「おーい弓隊。撃てって言ったら撃つ。それだけだからな。練習どおりだぞ」

タッガさんがにかっと笑いながら声をかける。

弓兵隊は主に村の自警団を集めた部隊だ。おうおう、と元気良く応じているのは魔物を相手にしたことがある人だろう。弓を持ったまま頷く顔色の悪い人もいる。

この弓隊は自警団の人達を含めた即席部隊だ。射撃精度は低いが、ハーベストアントは密集しているので狙い易いだろう。もちろん戦闘蟻には通常の矢は効かないので運搬蟻を狙う。


「おい」

監視していた一人が指差す。

皆が一斉に黙ってそっちを見た。

遠く森の縁から、湧き出るようにカースドハーベストモンスターの群れが現れた。戦闘蟻に率いられた蟻達が、まるで染みがひろがるように平原に漏れ出てくる。

「ぞろぞろと、お出ましか……」

ついに来た。

俺は棒柵の隙間越しにじっと息を潜めた。

「……戦闘蟻一匹にたいして運搬蟻が六匹くらいだね。女王蟻もいない」

「よし。作戦を続行する」

チョピヌの報告でダッガさんが作戦続行を決めた。

数が大幅に増えているか女王蟻がいれば、持久戦はせずに撤退することになっていた。

カースドモンスターがどんな能力を得るのか未知数な為、不安要素が多ければ無理をせず罠を撤退の時間稼ぎに使うことと決まっていたのだ。

「いいぞ、麦に向かってる」

よし。

作戦は順調に推移している。

俺達は小砦の中でじっと待った。

あれが蟻の魔物。

観測班が罠までの距離を読み上げるが、俺の知っている蟻は大きくても爪くらいの大きさだった。どうも距離感が掴みづらい。


敵、罠まで三〇〇メトルの声。

狩り残した麦に近づいていく呪われた収穫蟻の群れ。

息苦しいほどの時間。

戦闘蟻が運搬蟻を率いている。

戦闘は戦闘蟻。

……せんとうはせんとうあり。

口に出さなくてよかった。


「そろそろか。ダニン。ローハ。頼むぜ」

「わかった」

タッガさんの指示にダニンさんともう一人の僧侶が、皆に神聖魔法をかけていく。これで死眼攻撃に対しての抵抗力が上がる。

他には回復ポーションはもちろん、解呪薬の入ったポーションも各自持っている。麻痺しても明け易い栓になっている特別製だ。

ジョシュアも何か唱えていた。

僧侶には及ばないが自分の筋力を少し上げる神聖魔法が使えると言ってたので使ったのだろう。対象が自分だけで申し訳ないと気にしてたけど、ここはわずかでも戦力アップが重要だ。


皆が平原に蠢くハーベストアントを見ている。

罠地点に到達した。

もうすぐだ。

残った麦に群がっていく群れ。

そうだ、いいぞ。

俺は祈るような気持ちでじっと待った。

実っても無い麦を狩る様子は、わかってはいたものの異様な様だった。


「そろそろだ」

ダッガさんが呟く。

だが落ちない。

載った重量が足りないのか。

どうしてだ。

ダメなのか。

魔法使いがファイアボールを打ち込んで罠を作動させる策もあるが。

タッガさんの指示はまだ無い。

俺は祈るような気持ちでじっと待った。

突然、轟音とともに五匹の戦闘蟻が周囲の運搬蟻ごと落ちていくのが見えた。

「やった!」

迎撃隊のメンバーは喜びの声を上げた。

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