第二三話 侵攻の始まり
「今日も暑いな」
俺は小さく呟いた。
村の門から少し下ったところに自警団や俺を含めた冒険者達が集まっている。
見渡す平野は数日前まで美しいホルス麦の畑が広がっていたが、今は無残な姿を晒していた。村から二キロトほど離れた場所に刈り残した麦が有り、そこに大規模な罠を作った。その罠の近くには迎撃用の小さな砦がある。櫓と防柵で出来た簡素なものだが最低限の機能は果すはずだ。
ハーベストアントは収穫済みの作物には反応しない。森で仕掛けた罠からもそれは証明された。森に仕掛けた罠が効かなかったのは残念だが、ウィンターゲート作戦が有効である可能性が高くなったので良しと前向きに考えた。
ヤツらは狂った本能のまま、刈り残した太陽麦を襲ってくるはずだ。
エリー村長は残った村人を時に励まし時に叱咤して、作戦のために生育中の麦を刈った。苦労して育てている作物を廃棄するのだ。決めたこととはいえ村人達の心痛は計り知れない。中には静かに涙を流しながら鎌を振る人もいた。
困難を乗り越え罠を作り、迎撃の準備を整えた。
昨夜、エリー村長は村の広場で祈念会を開いた。
作戦準備を終えて、神官さんもいることだし作戦成就と安全を祈願して小さな祭壇にお供え物をして祈った。少しだけ酒も振舞われた。
準備で毎日疲れたけれど、この夜はレイナとのんびりと話も出来た。
一夜明けて今、村人のどの顔にも強い決意が現れている。
残った村人は全て自警団に組み込まれた。
総勢六十名ほど。魔物と戦ったことが無い人もいるが、村を守るという強固な意志が感じられた。
冒険者とあわせて約一二〇名が作戦参加者だ。
これだけ準備したんだ。後はやるだけだ。
地表以外は変らず、よく晴れた青空が広がり太陽が照りつけている。
日差しは強いのに何故か静かな感じがした。
遠くから青い空を凝縮したような蒼影が飛翔してくるのが見えた。ラピズだ。
チョピヌが告げる。
「カースドハーベストアントたちが森に移動を始めた。こちらに向かってるよ」
「エリー村長」
キノさんが促がした。
「私達のエリネルト村に勝利を!」
エリー村長の力強い声に皆が声を上げて応える。
「いくぞ。砦に移動だ」
ダッガさんの指示が響く。
「リョータさん」
「ああ、行こう!」
俺とレイナは互いに頷くと小砦に向かって移動を始めた。




