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ひまつぶしに書いた随筆  作者: 檻の熊さん
20/21

How much?(適正料金)

くそ重いよ。

 本気で困るのが、「動物病院、いくらもらったら良いんだ?」というものです。

 「世間の相場」というものがあったとして、それより安いことにも高いことにも理由がある。


 先日の話で、「超音波診断装置で見てもらえ」と言われて、当院を受診した飼い主がおりました。

 べつに紹介状があるとか、そういう話ではないのは、こっちの業界が小動物臨床だから。

 ニンゲンの病院みたいに、自分の所よりも上位の「高度医療」を提供している事になっている病院があったとして、内情なんか全然知らなくても「その検査機械がある」前提で紹介状を書いて患者を手放したら、それで何とか回っていく――――――たらい回しはあるだろうけどね。

 そういう業界ではないんです。


 「無いよ、そんなもん」と、私は普通に答えました。

 理由も簡単です。

 その検査の「目的」を果たす為の検査機器に要求されるスペックが、「高かった」のです。

 50万円も支払ったら目的が果たせるお(・)も(・)ち(・)ゃ(・)ではなく、新品で500万円(耐用年数六年)くらいの機械が必要です。

 300万円くらい出して中古で買う方法もありますが、使用頻度が猛烈に少なく、費用対効果がマイナス(おかざり)になるのです。

 耐用年数を迎える前に、どれくらい使って、いくらもらったら良いのか?

 簡単な話、「500万円で買った機械だから、500万円ください」と言うのが、一番分かり易いでしょう。

 絶対に損をしない為なら、そうすれば良い。

 「相手に支払い能力があったら」ですが?


 嘘みたいなホントの話ですが、超音波診断装置を持っている動物病院は結構ありますが、1ヵ月に1回も使っていない動物病院はたくさん有ります。

 本当の「お飾り」で「税金対策」です。

 儲かった年に、たまたまその余剰を、「税金に取られるくらいなら」と言って節税目的で使ったお金が、そういう高価な診断機器だったりするのです。

――――――つまり、節税するほど儲かっていなければ買う理由がありません。


 死蔵された元(・)高級機器は、耐用年数を迎えたら順次廃棄されます。

 真面目に計算してしまえば、最低でも1ヵ月に1回、何がなんでも検査に使って、採算度外視つまり利益ゼロで原価の回収だけ(六年で回収)を目的に料金設定を組むと、1回の超音波検査の料金は7万円+税くらいです。

 明らかに、誰も払ってくれない金額です。

 

 以前の話ですが、当院にも超音波診断装置は「ありました」。

 つまり、経営上の採算を向こうにやった、費用対効果のオカシイ「院長の趣味」の機械として、そういう物を持っていたのです。

 お金の出所(でどころ)は、私の収入になるはずだったお金です。

 貯金する代わりに、そういうお金を個人的に捻出(ねんしゅつ)して、「たまにあると便利」という理由で、超音波診断装置を買って持っていたのです。


 ただ実際には、経営状態が思わしくなく、しかも利用が猛烈に少ない背景もあって、以前の機械が壊れた時にこれを直さずに廃棄しました。

 実は超音波診断装置は医療ゴミになりますから、処分する際にはテレビや冷蔵庫よりも高い廃棄の為のお金が必要です。

――――――50万円くらいかな。

 いえ、散々な話ではあったのですが、実際には本来ならば超音波診断装置の1台くらい「買えるお金」が有っても、おかしくなかったのです。


 「身から出た錆(さび)」というのは、こういう時に使う言葉なんでしょうか?

 10年ほど勤めていたスタッフによる不正行為が明るみに出たのが、その頃だったのです。

 つまり、横領です。

 ちょうど、癌で以前まで使っていた税理士の方が亡くなり、他の税理士に変わった際に、不正が見付かったのです。

 マンガなどで見た事のある話でしたが、我が身の話でした。

 本当に、そういうキッカケで、見付かるものらしいのです。

 なるほど、世間では銀行員が顧客のお金を不正に使い込んで億単位の損失を出したとか、そういう人物が逮捕されて報道されたりしますが、リアルに見付かった金額はわずか数十万でした。

 簡単に言えば、それは「尻尾」でした。

 「動かぬ証拠」は、そこしかないんです。

 本人が不正を認めないのは、そもそも「金額なんか覚えちゃいない」のがその理由なのです。

 言えない、言える訳がない。

 いちいち「抜いた」金額を帳簿に付けている人物だったら、話は別だったでしょう。

 世間の報道、「た(・)ど(・)れ(・)た(・)金額がそれだけ」というものなんだと、そのとき知りました。

 水面下に潜った金額は、誰にも分かりません。

 「懲戒解雇」――――――つまり、退職金も包まないで、いきなり放り出して、それでお終いです。

 回収なんて、最初から諦めるしかない。


 翌日から、「釣銭が合わない」といった事が全く無くなりました。

 収支の合った帳簿が、毎日付けられる様になりました。

 1年くらい経ったある日、過去の帳簿と現在の帳簿、どれくらい「合わない」ものかと調べ、それを過去10年分くらいの期間、既に処分されて残ってない帳簿とかもありましたが「試算」してみたところ、「余裕で超音波診断装置1台分買えるくらい」の額が、あぶり出されてきました。

 「なるほど買えなかったわけだ」と、私は納得しました。

 スタッフによる不正は、そういう「余裕」を奪い取っていたのです。


 海外という所は、日本に比べて医療費が高いことで有名ですが、なんと出産の費用がたった2日で退院して「980万円(出産と入院)+390万円(新生児検査)」だそうです。

 もちろん、患者は保険に入っていて、そちらで何とかするそうですが、医療機関が受け取る金額は、保険適応前の額です。

 つまり、おおよそで1,400万円ほどの「商売」なんですね。

 本当に馬鹿げた話ですが、「これくらい」もらっておかなかったら、超音波診断装置なんて購入も維持も出来ません。

 「これくらい」のお金があれば、スタッフ一名の不正行為が行われたくらいで経営母体が揺らいだりもしません。

 たしかに、「これくらい」のお金を取る理由は「ある」んだと思いました。

 いえ、日本では無理ね。

参考文献

アメリカで出産、48時間で退院…届いた医療費の“請求額”に「さすがアメリカ 保険ないとオワリじゃん!!」, TRILL, 2026.10.24

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