キッカケ 2
その二年後であった。
自分の組織は少しずつも大きくなり、クリシーも貴族だった頃よりも、莫大な資産を持っていた。しかし、良い事はそれだけではなかった。それは、彼の思想はどんどん変化していったことだ。
魔法が全てではない、と。エルフという種族が頂点なのではない、と。
ベリウスに負けた時から、少しずつ気づいていた。魔法は万能ではない。錬成術であっても、超能力であっても、それには必ず弱点もあれば、美点もある。
故に、彼はさらにベリウスにほれ込んでいた。
あの戦いの時には分からなかったが、今、この裏社会の傭兵組織として、世界を渡り歩き、たくさん色んな事を知って、分かったのだ。ベリウスは超能力者であり、錬成術によって肉体を強化された、まさに生きた戦闘兵器なのだと。
自分も、あのように強くなりたい。
彼女に認められたい。
彼女に……。
そして、とうとうやって来たのだ。ワールド・ルーラーへと正式に所属する日が。
あの時、ベリウスと一緒に仕事が出来る、と胸が高まっていたが、その気持ちは世界の真実を知って吹っ飛んだ。ワールド・ルーラーの最終目標、そして、その目標を達成させるために、我々がするべきこと、それらに驚愕した。
そして、戦った。
ワールド・ウォーカーに入り、彼は組織のために、前へ、前へと進んだ。
こうして、ようやく彼は第二部隊、副隊長の座を掴み、ベリウスの信頼するに値するほどの部下へと成り上がった。
彼女はクリシーの事を覚えていなかった。やはり、自分はあの時は雑兵の中の一人に過ぎなかったんだろう。今自分で考えても、そう思う。
だが、今は違う。
俺は彼女のために、彼女の隣で、戦える。
(あの人は、俺勝てると……信じて、流星の勇者を倒せると、思って……!あの人の気持ちを、裏切るわけにはいかない!!)
クリシーの後方に巨大な魔法陣が展開される。そして、肉体から多大な量の魔力が眩しい光へとなって、魔法陣に集結していく。
「俺ごと、吹っ飛べ……!」
喉を掴まれ、それでもなお掠れた声で叫ぶ。
腕に魔力切れになり、体に力が入らない。だらん、意識を失っているかのように脱力している。
ここで、流星の勇者ごと死ぬ、そう思った刹那。
「なッ……」
クリシーは見えた。
流星の勇者こと、やいちの姿が、瞳が、髪の色が…まるで……。
「……やっぱり…テメェが…憑依して…やがったのか……!?」
これならば、全ての合点がいく。
下級の魔法である程度の防御が出来ている事。また、何故魔法が使えたのかと言う事。
そして、流星の奴らがこの世界の言語を扱える事。
「キサマァ!!邪魔するなぁ!」
そんな言葉は、やいちの魔法によって掻き消される。
「原点魔法〈怒槌〉!」
バン!とこの空白地帯に巨大な雷光と雷鳴を轟かせる。
周囲の魔樹は全てが吹っ飛び、大地を焼き焦がし、目の前の物は全て崩壊させた。
…。
……。
…………。
「俺の…勝ちだ!」
そこにあったのは、雪の上に四肢がちぎれ、満身創痍となっているクリシーと、魔力を槍へと具現化させ、それを杖のように地面に突き刺し、なんとか立っているやいちの二人だけであった。
「…………」
クリシーからは反応が無い。だが、胸が動ている事から、呼吸をしていることは分かった。
錬成術によって回復力を高めているワールド・ウォーカーのメンバーであれば、四肢がちぎれていても、死ぬことはないだろう。そのため、やいちはトドメを刺そうと近づき、首に槍の先を当てる。だが、しばらく考えて、それを止める。
「お…レ……を、殺…せ」
必死の声が響く。
「……いやだね」
「…な、ぜ?」
「確かに、俺はお前に勝たなきゃいけない道理はあった。だが、殺す道理はない。お前は敗北者、だからと言って死者にするつもりはない」
やいちはそこから立ち去ろうとする。
「……ふ、さけるな」
反応は無い。
「俺を…殺せ!」
しかし、何も言わない。
「ふざけるなぁ!!貴様、俺を…戦いを……舐めてるんじゃ……ねぇ!!戻ってこい、流星の勇者!」
その叫びだけが、周囲に響き渡った。




