キッカケ
クリシーは走馬灯のように、思い出していた。
自分が何故、ワールド・ルーラーに入り、ベリウスの部下となったのか。
クリシーは、ベリウスの命令であれば、必ずやり遂げた。
それは、彼が忠誠心の強い男だからではない。
彼が、ベリウスに惚れているからだ。
ベリウスとクリシーの出会いは七年ほど前になる。
クリシーはシンの中でも中級貴族の出身であった。故に、民衆に逆らえる者などいなかった。商人も、国の経済を揺り返すほどの大商人でなければ、彼に逆らう事など出来なかった。
そして、彼は自分の言う通りにならないことは、決して許せない性質であった。
そんな彼は、久しぶりに首都へと遊びに行った時、見てしまった。
人間でありながらも、美しく、きれいで……。
しかし、だからと言って彼はベリウスを決して対等な存在として見ていなかった。
エルフの文化には、階級制度がある。それには貴族など、生まれながらにしての階級もあるが、そのような例外を除けば、実力による階級であった。
そして、その最下層にあるのは、奴隷である。
奴隷に成る者にも、色んな理由がある。親が奴隷だったから。全く魔法の才が無く、社会に居場所が無かったから。そして、人間であったから……。
妖精と契約し、ある程度魔法を使えるような人間であれば、シン国内で差別されることはない。しかし、魔法至上主義を掲げているため、錬成術に長けていようと、超能力が使えようと、魔法が使えなければそれは人ではないのだ。
故に、クリシーはベリウスと見た時、彼女を奴隷にしてやろうと……永遠に自分の物にしてやろうと思った。普通に生活していた人間が明日になれば奴隷として売られていたという話は、シン国ではよく聞く話なのだ。ここでベリウスを屈服させてやれば……。
だが、彼は負けた。
治癒魔法で治せばいいのだから、腕や足を切断して、強制的に奴隷にさせれば良いと思い、彼女が人気の無い場所に来て、背後から襲った。にも拘わらず、負けたのだ。
「アンタ、私に何か用?最近魔王残党軍って奴らが裏でこそこそしているってのは聞いているけど、アンタどう見てもただのエルフよね?」
倒れたクリシーの頭を軽く踏みながら、質問する。
(なんで……こうなった…!?クソッ)
魔力で身体能力を引き上げ、無理やり立ち上がろうとするが、そのたびに彼女の足が重くなり、頭に負荷がかかる。
「としたら、シン国軍?でも、アイツら、私たちの尻尾すら掴めないような無能の集まりのはずだけど……まぁ、良いわ。とりあえず、アンタには今二つの選択肢がある」
そう言って、ベリウスは懐から拳銃を取り出す。
しかし、ただの銃ではない。魔法と科学を組み合わせた武器、魔銃である。どんなにクリシーが肉体を魔力で覆って、身を守ろうとしても、魔銃は簡単にその魔力の膜を突き破ってくるだろう。
「ここで死ぬか、それとも私たちの仲間になるのか……だ」
「仲間、だと?」
「ええ、アンタ程度であれば、戦闘員として使えそうだしね」
無論、クリシーには一択であった。
その後、ワールド・ルーラーの仲間入りすることになった。といっても、最初からワールド・ルーラーの一員ではなく、ワールド・ルーラーが裏から支援している小さな犯罪組織をまとめるリーダー役であった。
しかも、クリシーは一切ワールド・ルーラーに関する情報を教えてもらう事は出来なかった。自分から調べてみても、一切分からなかった。
だが、唯一分かった事と言えば、表社会では自分は死んだ事になっているということ。ワールド・ルーラーは世界中で暗躍しているのにも関わらず、全くその存在を隠し通せているという、明らかにヤバい組織であるということ。




