神座闘争
その後、村をこのまま離れても良かったのだが、もう夜が近かったし、シュオウキからは泊っても良いという許可があったので、そこはお言葉に甘えて、村長宅で夜を過ごした。
数日間、野宿していたということもあり、雪も風も防げるこの空間でやいちは熟睡した。
そして、朝。午前九時前の事であった。
まだみんな寝ており、起きる様子も一切無かった。そう、あの者たちが訪れるまでは……。
北極近い空白地帯では、極夜と白夜が存在しており、季節的に極夜が近いため、朝の時間であるのにも関わらず、まだ寒く、暗い中、村の中を歩く一人の十代後半……高校生あたりの年齢だろうか。とにかく、少年が歩いていた。
「これが、神の力なのか、それとも自分にとっての定めであったとしても……避けられない事は確かのようだな」
そして、村長の家の前へと立つ。
(このドアをノックして、彼らに会えば、私は確実に逃げられなくなる)
今ならまだ間に合う。
このまま後ろを向き、走って逃げだすのだ。この空白地帯から。自分が火の粉のかからない星の裏側……いや、宇宙の最果てまで逃げてしまえば……。
だが、そうすれば確実に混乱が訪れる。
最終結果がどうなろうと、ハッピーエンドだろうと、バッドエンドだろうと、そこまでたどり着く道のりで、人類は悪道を通らなければいけなくなる。
自分一人が悪道を通るのか、自分以外の人類が悪道を通るのか。
「……いつか向き合わなければいけないって、俺は覚悟を決めていたはずだ」
彼は、その拳でドアをノックする。
ガチャリ、とドアが開く。そこにいるのは、村長ではなく、その使用人であった。
「……あなたはどちら様でしょうか?ここはハバ村の村長であり、鬼族の王の家でありますぞ。貴殿は何者か?」
「私の名はジーリエル・ブライハだ。修王鬼も、この名を聞けばすぐに分かるはずだ。緊急を要する事態だ、というのも付け加えてほしいかな」
「……あなたですか。こんな朝早くに何用ですかな?」
使用人は少し嫌そうにブライハの顔を見る。最初は暗闇の中で誰なのか認識できなかったのだろう。しかし、相手の正体が村の外に住む錬成術師と分かった今、すぐにでもドアを閉しめたい気持ちが溢れているのが、ブライハには分かった。
「緊急事態だ、と修王鬼に伝えておいてくれ。あと、ここに客人が数人いるだろ?彼らを私の家まで昼までに案内しておいてくれ。以上だ。使用人も今日から忙しくなるだろうから、今のうちにたっぷり寝て休んでおくことだな」
そう言い残し、立ち去ろうとした瞬間
「おいおい、それだけ言って帰ろうっていうのか?」
ブライハは振り返る。すると、使用人の後ろからシュオウキ本人が現れ、ジーリエルに近づく。
「緊急事態と聞いた私がすぐにお前の元へ行くと思ったのか?」
「長い付き合いだ。お前は俺の言葉を信用してくれると思っていたが……」
「それはそうだが……まぁ、良い。ジーリエルは自分だけで問題を抱えて、誰にも迷惑をかけようとせずに解決したがるが…今日、何十年ぶりか分からないが、私を頼ろうとしている。一体、何があった?」
シュオウキとブライハの付き合いは百年を超える。
シュオウキが村長になり、鬼族の王に成る前、もっと若い頃には一緒に世界を旅したりもした仲なのだ。故に、シュオウキには分かってしまう。彼から見てまだ未熟者である自分に頼るしかない状況になっている。
それだけで、自分の知らない所で何かが起き、恐ろしい事が進んでいるのだろう。
そう感じたシュオウキは真剣な顔でブライハを見つめる。




