空白地帯 2
木の肉も案外美味しく、無事腹を満たすことが出来たやいち達。そうしているうちに、日が暮れ、夜がやって来た。
二時間ごとに火の守り番を交代しながら、寒く、厳しい夜を過ぎ、温かい朝を迎えた。
「はぁ、寒い……眠い…」
最後の番だったやいちは、がたがたと震えながら、溶かした雪を沸騰させ、そのお湯を飲むことで体を温めていた。
(コーヒーとか、ココアとかが恋しいよ……)
こんな科学がまだ未発達な異世界にそんな物が実在するわけもなく、朝の時間をゆっくり、一人の時間を過ごしていた。
「まだ七時前か」
七時に叩き起こせと昨日の夜に言われたやいちは、まだ大丈夫か、とジョウキリで買った懐中時計を見ながら、思う。
そうしていると、後方からどさどさ!と音が聞こえる。それは、何かがこの積もった雪の中を駆ける音であった。
(何だ!?)
こんな寒い中、人がいるとは考えづらい。いや、博士から原住民がいるとは聞いていたが、まだ原住民が住んでいる村からは遠いと聞いていた。であれば……
「魔獣、か?」
自分の剣を地面に置いていたバックから取り出し、鞘を抜く。
音が聞こえていた方向をジっと見つめる。
「……来ない、か」
警戒を怠ってはいけないが、ずっと張り詰めた状態では、疲れてしまうし、考えることも、何か別の事をするにも、それが難しくなってしまう。
とりあえず鞘に剣を戻し、襲ってきたら思いっきり魔力でバリアを展開しながら、吹っ飛ばせばいい。そう思っていると、再びどさどさと雪を強く踏み込む音が聞こえてくる。
「……魔物の類ではないな、誰だ。出て来い!!」
大きな声で叫ぶ。
「どうしたの、大丈夫!?」
その声で勢いよく飛び起きたのはスピネルであった。
「敵か……?」
次に起きたのが格闘家であった。
博士とナナシに関しては、この旅で疲れているのか。まったく起きる気配が無かった。
「二人とも、気をつけろ。木々で身を隠しているからなのかは分からんが、確実に何かいる。魔獣とかじゃない。足音的に、人間がいると思う……」
そう言われ、二人とも戦闘態勢に入る。
「はぁ、バレちゃあしょうがないな。大人しく出てくるから、警戒はしないでほしい」
そう言って、昨日食用に樹皮をはがして、血だらけの木の後ろから現れる一人の女。彼女の耳は尖っており、それがエルフである証明になっている。
「おー、エルフか。初めて見るな」
格闘家はまるで動物園でしか見ることの出来ない動物を見るかのように、眺めている。やいちは栄華で既にエルフを見たことがあったので、そこまで驚くことは無かった。
「何者だ?」
そのまま剣先を向けながら、やいちは質問する。
「あー、えっと……とりあえずエルヴァっていう…シンの方にある国からやって来た者なんだけど……えー、うん。まぁ、ぶっちゃけ言うと、アンタらの金品盗もうとしてたんだわ」
「なんだ、こんな辺境の地にも盗人っているのか!?」
より一層、やいちは警戒を強める。
「いやぁ、案外空白地帯って犯罪者が多いのよ。知らなかったの?指名手配になっている犯罪者が、このどの国にも保有していない空白地帯に逃げ込むっていうはよく聞く話よ」
「そんな事を一度も聞いてない。もういい、さっさと、どっか―」
とやいちが言って追い払おうとしている時、格闘家に止められる。
「おい、少しまてよ、あのエルフの姿もう少し見てみろ」
そう言われ、注目すると、彼女の手の先は凍傷で酷いことになっており、あまり食べてないからか、瘦せこけている。
「ああ、すまない。俺の方が少し警戒しすぎていた」
そう言って、剣を下ろす。




