第75話 予兆 後編
「はいさい、マリーちゃん通信待ってたさー」
えっと……。
毎回通信してて思うんだけど、なんでジローは自室だといつも全部服とか脱いでパンツ一丁なんだろう。
意味わかんないんだけど?
確かにすっごいカッコいい体してるしイケメンだけど、わけわかんないんですけど。
あと前から気になってたけど、腕毛とかなんかすごい濃い。
「お、おう、マリー! その顔じゃあ良くねえ相談みてえだな?」
このデリンジャーに至っては、別の水晶玉を壁に照射して、この前のフレイアのエロい映像とか録画し見てたのを慌てて消して、なんかゴソゴソとズボンとかいじってるし、なにしてたんだこの人。
ていうか、ちり紙が丸められてそこかしこに捨てられてるし、なんかの法案の立案かもしれないけど、もう少し部屋とか机とか綺麗にした方がいいって、かっこいいだけに残念だわ。
「なるほど、我ら全員を呼び出すとは、君も何か嫌な予感を感じ取っているようだな」
鄭芝龍こと龍さんは、大人の余裕たっぷりなイケメンなんだけど、金のアクセサリーとか宝石とか沢山ジャラジャラつけてて、普段着のセンスがなんかダサい。
あれだ、ストリートファッション雑誌で学生やフリーターとかの読者モデルが、ガイアの声が囁いてるとかって紹介されてるような、微妙なダサさを感じる。
なんだろう、この人達カッコいいんだけど、なんかみんなクセがあるんだよなあ……。
まあいいや、本題本題。
「実は色々と相談が……」
私がロレーヌ皇国とヴィクトリー王国の現状について切り出す。
「うむ、ヴィクトリー王国とロレーヌ皇国か……まずいな」
「うんそうねー」
龍さんとジローは唸りながら腕組み始めた。
「この二か国は、ちょうどフランソワを挟める位置にある。二つが敵に回った場合……デリンジャーよ、お前の国はまずい状況になるぞ?」
「だろうな。カリーの軍港はあの有様だしまずいぜ。一応シミーズの組織やスカンザ共同体とは渡りがついてるがな。それと、当初フレドリッヒが考えていたアルペス山脈からの電撃的な侵攻は、あそこはジローが抑えているから大丈夫な筈。だが、もう一つ予想されうる陸路からの侵攻ルートが厄介だ」
デリンジャーは地図を手に取ると、ある地点を指さした。
「フランソワにはロレーヌと国境の守護にザクセンブルーって強力な大公爵がいる。こいつがいたおかげで、ロレーヌはアルペス山脈から進軍せねばならなかったが、奴は共和制に反対している。野郎が裏切って、ロレーヌを引き入れる可能性があるぜ」
「そしたらさぁ、そいつー、いつでも裏切てぃんええやんて考えれー。それ込みで、要塞とか国境沿いに配置とかすればいいさぁ。アンリ君は知らないかもだけど、マジノ線てぃやつやん。作れーさぁ」
マジノ線……あー、歴史で勉強したことがある。
確か世界大戦でフランスとドイツの国境地帯に、マジノ線とかいう長い防衛ラインに要塞とか沢山作って防御してたって話だけど、そのマジノ線は、確かドイツに破られてフランスは占領されちゃうんだっけか。
そう考えると、なんか縁起悪い名前だなー。
「えっと、マジノ線って名前は変えよう。そこ、地球世界の大戦でもロレーヌみたいなドイツに破られたから、別の名前にしたらいいと思う」
「よし、じゃあマリーの名前を取ってマリー防衛線にするぜ。絶対死守する気になるからな。龍よ、お前はどう思う?」
いや、それはそれで突破された時、なんか嫌なんですけど私が。
「そうだな、あと防衛線を築くならばここも重要だ。このアルデンという森には、罠とか満載で民が立ち入れなくしておくといい。仮にロレーヌがそこへ侵攻したとして、防衛線が突破できないと踏んだ軍は、森から突破を試みるだろう。ここで足止めしたところを、一気に叩けばいい」
龍さんのアイデアに、デリンジャーは考えた後でこくりと頷く。
「あ、ブービートラップがいいと思う。魔力とかあれば簡単に作れるし」
とりあえず、私もデリンジャーにアドバイスしておこうっと。
ジローもかなり頭がいいけど、やはり龍さんは飛び抜けて頭脳明晰。
この人は、元々転生前にやっていた海賊は副業のようなもので、本業は6か国語とか話せるスーパービジネスマンでもあり、中華帝国海軍の将軍だった人。
それに封建的な江戸時代で、日本の武士の娘さんと国際結婚とかしちゃった、バイタリティとか溢れる人だ。
この前二人きりで通信した時、色々と当時の時代の事を教えてくれたんだっけ。
確か内容は……とても興味深いものだった。
――3日前。
「えーっと、龍さんって倭寇してたって言うけど、倭寇は元々日本人の海賊組織じゃなかったんでしたっけ? 歴史の勉強で習ったんですが。龍さんさんって中国の人ですよね? 私は前世で、あなたの時代から400年後に生れた和の国、日本人だったけど」
「うむ、大明帝国泉州生まれだ。倭寇とは元々、倭の国の海盗で合っている。これは私が前世で生まれる大昔、元と言う国号だった時に倭の国と大きな戦争が起きたのだ。その際に、元と高麗が略奪した倭の対馬が発端だったと言う。家族を殺された島民達や、島の大名が憤り、その恨みは数百年かけて続いたとされる。高麗や中華帝国沿岸部へ復讐のため、略奪をしたのが倭寇のきっかけだと聞いていたな」
モンゴル帝国の元が起こした、元寇だっけ?
確か当時の鎌倉幕府と大きな戦争になって、神風が起きたって話だった。
けど、私がネットで見た話だと、鎌倉武士団はモンゴルよりも野蛮で戦い慣れしてる集団で、神風って言われる台風の力だけじゃなく、実力で打ち倒したって話だったらしいけど。
倭寇とは元寇の遺恨が原因で生まれたんだと、この人の話で知った。
「そういえば、私が忠誠を誓った明朝が滅亡したきっかけも、倭寇だったな。私のはるか前の世代の倭寇は、長年中華を脅かす大きな問題となっていた。そして隣国の愚かな高麗は、定期的に倭の将軍や大臣に使節を送って、倭に何とかしてくれと泣きついていたのだ。倭の太閤と呼ばれた秀吉と言う野心家が、何とかしてやるから、お前達が道案内となり、明まで案内しろと言う話になったという」
あ、豊臣秀吉の名前が出てきた。
けど、その後は確か……秀吉による朝鮮出兵。
「うむ、高麗の馬鹿共は何を思っていたのかは知らないが、大国である倭を下に見ていたのだ。倭の秀吉は伝え聞くところによると農民から立身出世した傑物かつ、明の皇祖たる朱元璋と同類の大人だ。愚かな高麗は倭の申し出を断り続け、ついには大戦となった」
そう、ここら辺は歴史の授業でさらっと習った記憶がある。
確か豊臣秀吉は、文……なんちゃらの役で、中国侵略を企てた。
けど、天下人秀吉の死後、侍達は大陸から引き上げて、それから関ヶ原の戦いだったっけ?
「古来より高麗は忌地なのだ。中華と倭が遺恨を持つきっかけとなった、古の偉大な大唐帝国時代から、元朝の時代もそうだが、奴らのせいで倭と騒乱になった。奴らは尊大で傲慢なくせに、それでいて口だけの未熟な輩が多い。私の船員にも高麗人がいたが、私の見てないところで掟破りをする馬鹿が多かったよ。きっと後の世でも、奴らは問題を起こしているのではないか?」
この人、朝鮮の事をネットのネトウヨばりにボロクソに言っていたっけ。
まあ確かに、私の時代でも反日問題とか、北朝鮮の問題とか色々あるし。
けど、KPOPとか結構人気あるんだけどなあ。
「私が前世で生れる少し前の時代、倭寇は実をいうと倭人は少数しかいなかったのだよ。大半は高麗人で、奴らは倭人を偽る事で倭寇から被害を受けたと言い張った。そして私の前世の故郷、大明帝国沿岸部を倭人と偽り略奪していたのだ。自分達も倭寇から被害を受けたと言い張る事で、大明帝国から施しを受けようとしていた、小賢しい奴らだ。しかしその偽倭寇を高麗の王朝も制御できなくなり、結局高麗は自分達が偽った倭に泣きついたのだ。愚かな話だとは思わないかね?」
うん、マッチポンプってやつだ。
しかも自分達が悪いことしたのに、結局お手上げ状態になるとか、グダグダ過ぎる話だった。
そうか、この人は前世の故郷を倭寇と偽った朝鮮から略奪されてたから、あんなにも朝鮮の事をボロクソに言ってるのだと思ったっけ。
「だが、結局倭と騒乱が起きて、明の力が衰えた。そして高麗人が偽っていた倭寇に目を付けたのが、我々の先人だ。当時の明朝は海禁政策を取っていたため、古来より海の商いを生業にしていた我々泉州人や温州人は困り果てていた。だから我々の先人たちが、海で活動した高麗人へ復讐したのだ。そして奴らを駆逐し、高麗にとって代わって自分達を倭寇と偽る。この事で、天朝が敷いた海禁政策の裏をかき、様々な勢力と密貿易したのだよ」
なるほど、当時朝鮮の人たちが主体だった倭寇を、中国人が乗っ取った。
だからその流れで、本来は日本の海賊だった倭寇が、中国人主体の組織になったという事。
「それで倭寇が、日本人を偽った朝鮮人主体の組織から、中国人主体の組織に変質したんですね」
「うむそうだ。それに当時南蛮と呼ばれた国々の騒乱も我らに味方した。私が前世で生れた当時、イスパニア帝国とポルトガル王国が競うように覇権争いしていたのだ。これにイギリス王国も加わると、イギリスと宗派を同じくし、イスパニア帝国から分離独立したネーデルランドもこの覇権争いに加わり、世界中の海で商いと騒乱が行われていた」
そう、確か大航海時代ってやつね。
アメリカ大陸を発見したコロンブスも、確かこの時代前後の人だっけ?
いやもうちょっと前の時代の人だったかな?
「私は当時の濠江、ポルトガルがマカオと呼んでいた島でカトリックの洗礼を受け、ニコラスと言う名を持っていた。これは叔父の勧めで、南蛮の商いでキリスト教徒であることが必要だったからだ。当時の明朝は、マカオのみ南蛮の商いを許可していたからな。もっともデウスやらマリアへの信仰なんか、これっぽっちもなかったがね。私が信仰していたのは、倭の海神かつ武神の八幡神だ」
八幡って、あの鶴岡八幡宮とか鎌倉にある有名な神社だっけと私は思った。
「えっと、八幡って私の時代でも有名な神社がある、神様でした。お参りしたことあります」
「そうか、君も八幡様を信仰していたか。八幡様は航海の安全を祈る神として、我ら倭寇や倭のサムライ達が最も信仰していた神なのだよ。元は倭の国のミカドの高祖神だったとされる神だ。本当かどうか知らないが、遥か大昔の倭の国で、高麗を征伐した女帝と、ヤマトタケル神の血を引くミカドとの間にできた皇太子、後に応神と呼ばれるミカドを指すというが、本当のところはわからぬ。私は倭の国と武芸を尊敬していたが、倭人ではなかったからな」
そう、倭寇は八幡信仰だなんて全然知らなかったし、日本の神様が海外で信仰されてる話なんかも初耳だった。
その辺の神様の話は、先生とかが詳しそう。
まあ鶴岡八幡宮には、家族で初詣したことがあるくらいで、別に信仰とかしてないけども。
「そして私は、南蛮船で航海士を志していたが海賊被害に遭う。しかし、偉大なる一官党の頭領、李旦に見いだされ、私は頭領と共に倭の国の平戸藩を拠点に活動した。そこで前世の妻のマツに出会い、一目見て惚れ、婚姻を結んだのだ」
私はこの人をすごいなと思った。
縁もゆかりもない外国に商売しに来て、お侍の娘さんと恋愛結婚とかしちゃったんだし。
「私の船員の大半は漢人の同胞たちで、倭人もかなりの数がいた。当時の倭人は戦国期を終えたことで、戦を求めて傭兵になるものも多くてな、彼らは勇敢だった。琉球人も、ポルトガル人もいたよ。琅と言う名で、目の色が宝石のように美しかったから、私が名付けたのを覚えている。元は海難で死んだポルトガル船の遺児だった親から生まれ、晋江出身だったな。私が最も可愛がった部下の一人だが、その後どうしたのだろうか」
もはや倭寇と言うよりも、国際ギャング団みたいな話だった。
そして息子さんが、確か英雄だったという。
「その、前世の息子さんが英雄だったって聞きましたが、どんな人だったんですか?」
「うむ、幼名は福松。成人して成功と名乗ったが、とても頭が良い子だった。そして、私以上に人を惹きつけるような人間的な魅力があった子だ。後の世でフォルモサ、ジローや君達の時代によると台湾か? ネーデルランドを追い出して大清、女真の蛮族共と敵対したと聞いている。しかし、ネーデルランドとは、商い相手だったのだがなあ。Verenigde Oost-Indische-Compagnie、聞いたことあるかね?」
「いえ、ないです」
「うむ、株式会社と言うものだ。こちらの世界では、ジューとロマーノでやっている制度だな。元はイギリスが発祥だが、ネーデルランドはこの株式会社を天竺より東の、東インドと呼ばれた島々で商いするために作ったのだ。設立に携わったのは、カトリックから迫害されたピューリタンやユダヤと呼ばれる富豪だったらしい。私はそこと組んで、囘敎……イスラームと呼ばれた異教徒を駆逐して巨万の富を得た」
えーと、東インド会社だっけ?
なんかこの人の話、めちゃくちゃスケールが大きいし、日本で宮本武蔵から剣術を習ったとか、ハンパないしすごい行動力だ。
「当時の私は明の大将軍となり、息子を明の官僚にさせて皇室に取り入り、ある野望を叶えようとしていたのだ」
ああ、やはり前世からこの人は野心家だったんだなあと思った。
転生前の記憶を思い出す前も、大陸全土を支配するって、厨ニ臭いこと言ってたし。
「えーと、野望とは一体……」
「明朝に海禁などというくだらぬ政策をやめさせ、倭の幕府とネーデルランドと手を組み、自由な商いができる海にしようと考えたのだよ。人種や宗教、身分などを越えた男と男が信頼し合い、互いに富を得るという壮大な構想だ。当時は私の考えに賛同した者も多く、倭の幕府、徳川将軍も賛同してくれた。清と名乗る、後金の女真の野蛮人共が中華を侵略せねば、その構想は実現した筈だった」
確か日本は徳川政権で長崎の出島に貿易制限した、鎖国政策をとってたけど、中国が先に鎖国制度みたいのをやっていたという話も初耳だった。
「確か、大清帝国でしたっけ。それで前世の龍さんはその後は……」
「私は慣れない陸戦で女真に敗北し、清に下り、息子も引き入れようとした。だが息子は明に忠誠を誓うと私の申し出を断り、見せしめだろうな、私は処刑された」
そう、彼はそれで死んでこの世界に転生したんだ。
「君の未来の話も聞きたいな。400年後の中華と日本はどうなったのだ?」
私は、自身が習った歴史の授業の話をした。
「はっはっは、これは痛快だ! 大清の蛮族共めは倭が滅ぼしたか! だが、そのアメリカと言う国、確か当時の私が伝え聞くところによると、新大陸と呼ばれていたな。なるほど、イスパニアからネーデルランドが独立したように、イギリスから独立したのか。そして自由な海の商いをしていた……羨ましいな」
「ええ、デリンジャーの前世の国です。色んな人種が集まって物凄い活気のある国です。世界中で起きた大きな戦争があった後、日本と同盟国になりました。残念ながら今の中国と私達は、そんなに仲は良くないです」
「なるほどな、中華はその……共産党と言う王朝が支配する国になったのか? 君の話を総合すると、少し複雑な気分だよ。あの勇敢で文化的だった侍も消え、中華も伝統を排して皇帝がいなくなったとはな。だが、あの忌々しく薄汚い宦官共がいなくなったのはいい事だ。うむ、また君の話の続きを聞かせてほしい、では今夜はこれで失礼する」
本来の魂を呼び起こした龍さんの話はとても魅力的で、勉強とかにトラウマがある私の心の隅に追いやっていた知識欲を、再び思い起こさせてくれる素敵な人になった。
前世での経験値に、大国の皇太子アヴドゥルとしての知恵も合わさってるようで、普段着のダサさに目をつむれば、とても魅力的な人と言う事がよくわかったっけ。
そして、皆は国内の諸問題を話し始める。
「我が国っしー、ゆたしくねえーん薬物が蔓延してるばー。まっしー、どこで作ったんが知らんしがー、ケシから作らっとる煙管で吸う阿片みたいなのさー。それでぃ、マリーちゃん覚えてる? サルヴァトーレ・デ・ネアポリーノのやつー」
サルヴァトーレ・デ・ネアポリーノ……。
あ、確か先生にやられてネアポリの牢屋に入れられた、黒髪の、鼻が高いイケメンの悪徳領主な軍人で伯爵だったっけ。
「覚えてます。彼がとうしたんです?」
「脱獄さんやー。我やマリーちゃんと兄貴にぃ恨み抱ちょーん。あにひゃー脱獄してぃから、やな薬ぬ流行とーん」
うぇ……なんか面倒臭い事になってるっぽい。
それにタイミング的に麻薬密売とかしてるのは、サルバトーレ伯爵の可能性ある。
しかも私のすぐ近く、ロマーノで薬物が蔓延し始めてるとか、すっごい嫌な感じだ。
この世界には麻薬問題なんてなかったのに、多分先生が聞いたら怒り出す案件だろう。
あの人は転生前はヤクザな暴力団だったし、今もヤクザだけど、薬物とか麻薬を心底憎んでいるように感じたし。
きっと転生前にあの人に麻薬絡みで何か悲しい事が起きて、憎んでるんだろう。
「それとぅー、アントニオぬ奴が行方不明さー。俺ぁも船でジッポン行ってぃこい言ってなー。そろそろ着く筈なんやんしが、連絡ぬ取りらんなたん。あいつー心配さー」
「アントニオ男爵が行方不明……」
「いや、あいつー頑張たくとぅ、伯爵にしたさー。何事なければいいんだがやー」
そうか、先生がジローにジッポンのノリナガことイワネツの様子を探りに行って来いって、頼んでた件ね。
確かに、私もあの人にお世話になったし心配だ。
そして、ノリナガと言われるロシアのマフィアの動向も気になる。
「俺の国には、我こそがデリンジャーギャングだって馬鹿が現れた。国立銀行で強盗して、憲兵騎士団もとい、連邦保安局や銀行員、それに強盗の目撃者までぶっ殺し回ってる、正体不明の凶悪な犯罪者だ。軍を投入しようか検討中だが、かなりの手練れで相応の犠牲が予想されるし、厄介な話だぜ」
「うわぁ、デリンジャーギャング団の模倣犯が現れたんだ」
ていうか、なんか気分悪い。
私達が作ったローズデリンジャーギャング団は、殺人をルール違反って言ってたのに。
「バブイールは……私の求心力が急速に失われている。ナーロッパ侵攻作戦の失敗も理由だが、女神フレイアを討伐したと知った父、ハキーム・ビン・カリーフが私を廃太子、廃嫡に宣言したからな。妻達も私に愛想をつかし、もはや私の居場所はバブイールから無くなりつつある」
「そんな……」
「ふ、心配するなマリー君。我がバブイール王国ではよくある話。それに前世でも私は海賊から大将軍に上り詰めたが、一転して大逆人になった過去もある。なあに、慣れたものさ」
良くない予兆が、私達の周りに起きているようだ。
なんだろう、この暗雲めいたもやもや感は。
「それとマリーちゃん、いや、ちょっちゅなー」
「ああ、ジローおまえも気が付いたか?」
「うむ、お前達もマリー君に思う事があるようだな」
へ? 何?
3人そろって、なんか言いよどんでるような。
これもなんか嫌な予兆なの?
しかも私にまつわる何か、嫌な予感をこの3人は感じ取った?
そうだ、この人達は前世でアウトローしてて、百戦錬磨の猛者たち。
もしかしたら、私に死相めいたものが見えたりして……。
「しょうがない、私から話を切り出そう。マリー君、怒らないで聞いてほしい」
「えっと、何でしょう」
龍さんが神妙な顔するが、何だろう。
凄いドキドキする、やはり私に何か良くないことが?
「君、ちょっと肥えたか?」
はあ?
「あいっ、うり言ちゃうがー」
「おいドストレート過ぎるだろ! 変化球使えよ馬鹿」
え? ちょ? 何なの一体。
「うん、すまないマリー君。顔の形がなんか少し丸くなってるぞ?」
いやいやいや、龍さんが今更オブラートに包んで変化球使ってるけど。
「大丈夫だ、問題ねえ! イケてるぜマリー」
「うん、そうねー。ちょっちゅ肉付きがあったほうが、ゆたさる感じやん……なあ?」
全然フォローになってねえし!
そうよ、太ったわよ!
この3週間ろくに運動してなかったし、この島の食べ物とっても美味しいし、何かあっても女中や亡命貴族が何でもしてくれるし。
お腹の辺りがちょっとポヨンってなって、お風呂上がりの体重計にも、ここ1週間怖くて乗れてないし……やっぱり、私ちょっと太ったんだ。
頭の中では認めないようにしてたのに。
「うん、みんなありがとう……私頑張るわ……」
「お、おう……」
「あ、うん、ちばりよー」
「健闘を祈る!」
こうして、私は様々な予兆を感じたまま会議を終えて夕方を迎える。
そろそろ例の時間だが……しょうがない。
私は覚悟を決めて、村娘用の簡素なブラウスと男用ズボンを履いた。
そう、私は二度目の人生でどんな困難からも逃げないと決めた!
「娘よ、日課の散歩の時間だ。島の散歩に出掛けるのだ……それとその格好はなんだ?」
「ええと、ダイエットです……」
「……?」
こうして私は冥界から来たワンコと一緒に、散歩もといジョギングを開始した。
運動不足と食べ過ぎは良くないですよね。
コロナ禍で私も少し太りました。




