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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第57話 女は度胸

「その黄金鎧は……なぜ戦乙女の鎧を? それに懐かしいこの感じ……ヒトの娘よ、お前は何者か?」


 奥の手を使わせてもらう。


 先生達とあの大精霊サラマンダーを倒した事で、女神ヤミーが精霊との再契約で授けてくれた、私の切り札を!


 左手に魔力を込めて、胸のペンダントに想いを念じる。


「出でよサラマンダー! 力を貸して!」


 すると、黄金の鎧がサラマンダーの力で変質していき、真っ赤に燃え上がるような炎を象った鎧に姿を変えていき、私のヘッドギアが朱色に変わる。


 大精霊が私に宿ったことで、魔力が……気力がみなぎってくる。


「お前に俺の力を貸そう。あの魔王にナニカをされる前に助けてくれた礼もある。それに、俺はフレイ様には恩義があるとはいえ……こんな事……俺は力を貸したくなかったんだ!」


 そう、先生の魔の手から救い出した女神ヤミーと、お洋服を貸してあげた私に、サラマンダーは快く協力を願い出て、色々と私達に教えてくれた。


 そして、女神ヤミーの名の下に私達に手助けするという契約も結んだ。


「な!? なぜサラマンダーがヒトの鎧に変化したんだ!? そしてこの光の色は!?」


状態確認(ステータス)!」


 レベル60 職業クラス、戦乙女(ヴァルキリー) 


 HP300000 MP6980 ちから90 魔力280 すばやさ100 体力300 精神155 運100 


 スキル ステータス確認、天界魔法、属性魔法熟練、絶対防御、召喚魔術、魅了、炎精霊魔法、精霊眼、炎精霊化、ステータス倍化、女は度胸、光神の祝福、毒耐性(アルコール 神経毒)


 えーと、女は度胸ってスキル何?

 愛嬌とかじゃないの?

 ふざけてるのかしらこれ。


 まあいいや、ヘイムダルの鎧の効果でスタータスは2倍で、サラマンダー自体が強力な大精霊だから、推定レベルは100オーバー。


「先生ほどじゃないけど、私だって戦える!」


 サラマンダーほどの大精霊ならば、本来使えなかった、あの魔法だって使えるはず!

 

 魔王軍の船に損害を与えた、あのレーザービームのような熱線をくらえ!


極炎放射(ギガフレイム)!」


 摂氏何千、何万度なのか知らないが、私はサラマンダーの熱線を繰り出し、フレイもろとも目の前の花や荊の類を焼き尽くす。


 接近戦は先生と互角に戦えるこの神の場合、圧倒的に私が不利。


 だから遠距離戦で戦い相手の隙を突く。


「この程度の炎で私がダメージを受けるとでも? 正体不明の戦乙女よ」


「まだだあ!」


 私は何個も空間の遥か彼方から、燃え盛る巨岩を具現化して、フレイ目掛けてぶつけようとした。


烈火流星群(シューティングスター)


「ハンッ」


 降り注ぐ隕石群を、フレイは鼻で笑いながら、逆に剣を片手に振りかぶると、私が放った隕石群を打ち返してきて、物凄い速さで私の元まで燃え盛る炎の岩が迫ってくる。


時間操作(クイックタイム)!」


 咄嗟に時間操作の魔法をかけて、打ち返された隕石群を私はかわしながら、次の魔法をイメージする。


「ふん、この程度の力で神に挑むなど、なめられたもの……」


 その時、フレイに向けて銃撃が加えられた。


「なめんじゃねえぞ! 俺達を!」


 離れたところから、長大な銃身の魔力ライフルをその場で伏せながらデリンジャーが銃撃し、フレイの下半身の猪が出血する。


「俺の全魔力をこめてぶち込んでやる! 俺はデリンジャーだ! 弱き人びとの銃であり……どんな強い相手にも立ち向かう弾丸よ! 転生前は合衆国政府相手だったが、今度の敵は神だって? 神がなんだ! 人々を苦しめる存在なんて、俺にとって1ドル札の紙より値打ちがねえ!」


「小癪な、人間め!」


 フレイが、伏せ撃ちしてるデリンジャーに、攻撃魔法を向けようとすると、今度はフレイの頭に何かがぶつかったように、衝撃で頭が傾く。


「な、人間め! どこから」


 すると連続でフレイの頭を攻撃する、何者かの攻撃が連続して行われるが、私が見回しても誰が攻撃してるのかわからない。


 すると、私の肩にポンと手を置かれた。

 振り返っても姿が見えない。


「マリーちゃん、(わん)が隙作るさ。兄貴はあんなゲレンの攻撃で死んでぃねえさー。それを証拠に、あのやなわらばーな女神、全然動揺してねえ。今のうち時間稼ぐさ」


 そうか、ジローは透明化魔法を使ってて、ピストルにはおそらく消音器(サイレンサー)ってやつを使ってるんだろう。


 発射音も発射光も全然感じさせないし、気配も完全に消してる。


 それに先生が生きてる? 


状態確認(ステータス)


 私が召喚した存在ならば、ステータス画面を開けるはず。


「HP0,0000000001 スキル 意地の輝き、閻魔王の加護、根性、竜の祝福 発動中」


「ちょ!? 小数点以下のHPとか何これ!? しかも、細切れ状態の肉片が動いてて、グロ!」


 あ、女神ヤミーが風呂敷みたいなの持ってきて、細切れになった先生の肉片を回収し始めた。


 多分先生は時間が経てば復活するはず。


 すると、フレイは剣を構えて斬撃を何もないだろう空間に繰り出した。


 いや、何もいないというのは私の間違い。

 

 フレイが斬撃を放った空間で、物凄い勢いで血が噴き出し始める。


「姿を隠してる気だろうが、攻撃の位置と場所と気配は隠せん!」


 透明化が解けて首のあたりを斬られたジローが、傷口に手を押し当ててフレイを睨みつけていた。


「なんだばー? お前(やー)、なかなかに強いやあらんがー……お前(やー)、わじわじーするん……ムカつちゅんやさああああ! ぬー! 何で力弱き人々んためんかい使わんばあああああ!! 何で弱い者いじめすんどおおおお!」


 ジローが拳を握り締めて、アダマンタイト製のメリケンサックでフレイを殴打し始めた。


「人間なめんなやあああああ! (くる)さんどおおおおおおおおおお!」


 ジローはフレイの剣をかわしながら、ワンツーパンチをして、緩急がついたような華麗なフットワークを見せたと思ったら、今度は空中で魔力が籠った回し蹴りを放ち、フレイを翻弄している。


「何だこの人間の動き! 私の時代には……徒手空拳で向かってくるような人間など見たことない! だが、弱い! 私の顔を撫でてる気か貴様!」


 ジローは振り払うようなフレイの手で吹き飛ばされるが、宙を舞いながら、彼はにやりと笑って異空間の上空に親指でサムズアップする。


 同時にフレイへ、ピアノ線のような糸が絡み合い、動きを止める。


「人間の美しさと、魂を無くしたマザーファッカーが、何をぬかしやがる。人間は、神や親から祝福され、何かを成すために生れてきて、その中で名誉を挙げたものが尊敬される。それが我々名誉ある男(マフィオーソ)達が目指す、理想の名誉ある社会だ……。人々の美しい祈りにも、悲しくもはかない願いにも、耳を傾けなかった、人間の生み出す光に背くファック野郎……そんなもの俺は神と認めねえ!」


 ロバートさんだ!

 私達には、まだ勇者の彼が残ってる!


 ロバートさんは、糸を操りながら右手に聖母マリアが、左手に十字架の入れ墨が具現化し、祈りの言葉を唱える。


「創造の神よ、父たる我らが神よ、私をあなたの平和の道具にしてください。憎しみのあるところに、愛をいさかいのあるところに、許しを分裂のあるところに、一致を迷いのあるところに、信仰を誤りのあるところに、真理を絶望のあるところに、希望を悲しみのあるところに、喜びを闇のあるところに、光をもたらすことができますように……」


 ロバートさんが両手を組んだ後、手を前に突き出すと、彼の体が垂直に浮遊して、凶悪かつ巨大な銃にも見える鉄塊が具現化したが、なんだろうかあれは……この人は何をする気だろう。


「人の美しさを否定する、マザーファッカーは、反粒子の暴力を以って対消滅しやがれ! くらえええええええ! 反物質砲(アンチマター)!」


 ん? へ? 反物質って何?


「いかん! 全員我が魔力の防壁に入るのじゃ! ヒトの身でアレを受ければ消滅するぞ!」


 何が何だかわからないまま、女神ヤミーが作った7色に輝く光のシェルターに、全員が避難した。


 ロバートさんがフレイに向けて、暗黒の何かを放つと、時空が歪んだような感じで空間が捻じれていき、ピカっと光った後フレイの体が光り輝いて……なにこれ?


「皆の者、伏せるのじゃ! あの爆発を肉眼で見続けるでない! 目が焼けるぞ!」


 一瞬周囲の音が何もしなくなったと思ったら、大音響と共にフレイが大爆発を起こし、異空間がまるで太陽が落ちたかのように光り輝いた後、キノコ雲がこの異空間に立ち上ってた。


「すげえ、やったか!?」

「何だばー! 今の爆発」

「何これ……原爆?」


 私達が口々に呟くと、女神ヤミーは首を横に振る。


「ロバートが冥界魔法で反物質を生み出した。地球で言う、核兵器以上のこの世ならざる物質で、フレイの体を対消滅させようとしたのじゃ」


 女神が解説するが、何それ怖い……。

 でも今の攻撃なら、流石に神であっても。


 すると凶悪な魔力の光が一瞬光って、ロバートさんのお腹に黄金の剣が突き刺さる。


「……ファァック……ジーザスクライスト……」


 そして光に粒子や電磁波が乱反射してチカチカするが、ロバートさんは体に剣が刺さった状態で、戦闘不能にされてこちらに落ちてきた。


「人間めえええええ、このフレイによもやこれほどの手傷を負わせるとは! 神猪グリンブルスティの生命力が無ければ即死だった。しかし……もう終わりだ!」


「うそ……あいつ生きてる」


 上半身以外ズタボロ状態だったが、あの超爆発でもフレイは生きていた。


 そして下半身の猪を切り離し、こちらに憎悪の眼差しを向けて、今度は下半身を馬の形に変える。


 こんな攻撃でも死なないとか、次元が違いすぎて恐ろしさが込み上げてくる。


 けどまだだ、まだ私達は負けてない!


 勇者二人が戦闘不能にされても、まだ私達は生きてこいつと戦ってる。


 それに、ロバートさんの爆発が生み出した、この光の粒子が飛び交ってる状態……。


 何かに利用できないだろうか?


「天界魔法は、用心棒さんも言ってた通り、時空や空気中の電子を容易に操れる魔法で、グーチョキパーの形をしたような、ローレンツ力とか言ってたっけ?」


 もしもこれを天界魔法の電磁バリアーじゃなくて、敵に向けて放つ一点集中の攻撃に転じた場合、どうなるのだろうか?


 ここは異次元空間とはいえ、私達が呼吸で来てる以上は酸素も水素とかも絶対あるはずだから、高振動の電磁波も作り出せるはずだし、この空間の水分や電子を振動させて熱を生み出すことも可能。

 

「賭けて見よう、今思いついたこの技で……あの思い上がった神に目にものを見せる!」


 私は決意して杖に魔力を込めた。


 私はフレイに勝てそうな魔法をイメージしながら、杖の魔力を高めると、フレイは私に視線を向ける。


「正体不明の戦乙女よ、魔力を集中させても無駄な事だ。私の力は、人間などには……」


「私の全ての魔力よ、どうかあの神に届く力を、弱き人びとを助け、強き悪を挫く力を私に……」


 ロバートさんが起こした爆発の電子達が、この空間の電磁力が私の杖に集中するのがわかる。


 私は楽がしたいという理由で転生した。

 だけど、それは違う。


 私だけが楽に生きるのではなく、私も含めてみんなが笑って楽しく生きる世界を作る。


 それが今の私の願い、生き方!


 自分が生み出した人たちに、元は人間だったのに人間を苦しめる神なんかに、私は……絶対に負けない! 


「絶対に負けない! 元々人間だったのに、人間を否定してイジメるような神に、私は、私達は負けない!」


 杖を構えた私の前に、光の魔法陣が次々と浮かび上がり、最後に電子の光で出来た、巨大な魔法陣が具現化した。


「この力は……戦乙女! お前は一体!?」


「いっけえええええええ、超荷電粒子砲(ライトニングバースト)!」


 杖に一体化した魔法銃ルガーの引き金を引くと、眩い電子の光が収束していき懐中電灯を照射したように、光の速さで電子の光がフレイに向けて撃ち出された。


「なああああああめえええええるなああああ! 女あああああああ!」


 フレイは、自分の前方に光のカーテンを張って私の魔法をガードする。


 だけどまだだ!


 まだ私の魔力には魔力銃に、あらかじめチャージしていた分の余裕がある!


 魔法銃ルガーに込めてた魔力を、一気に解放してやる! 


「あんたなんかに、絶対に負けない! フルバーストだああああああああああ!」


 私は銃に込められた、残り4発分の引き金を連続で引き、杖の弾倉がガチンガチンと音を立て回転する。


「な、体内が電子熱と電磁波で沸騰して、押され……うおおおおおおおおおおお!」


 光のカーテンを突き破り、電子の光がフレイを包み込んでいった。


 そして無数の電光は空間の奥まで消えていき、フレイは跡形もなく消滅した。


 勝った……のだろうか?


「ホーリィシッ! なんだあの呪文は!」

「テージやばいやんアレ!? あの子怒らせると怖いさぁ……沖縄の女みたいだぁ」


 なんか男どもがドン引きしてるし……。


 そして私の魔力もゼロになり、元のドレス姿に戻る。


 もうしばらくすれば先生も復活するだろう。

 すると、上空から何かが光って……。


「危ねえ!」


 デリンジャーとジローがいきなり私の前方に飛び出すと、彼らの背中に黄金の剣が突き刺さり、二人とも呻き声をあげてその場に倒れる。


「え……」


 すると前方で光が再構築していき、人型になって、全裸状態で剣を持つフレイが現れた。


「そんな……み、みんなが! あいつ、今ので生きて……」


「さすがの私も死ぬかと思ったぞ! 全魔力を消費しなければ、人間如きに消滅させられていた。クソ、アースラめ! 私の魔力をあらかじめ吸い取ってた事で、神猪グリンブルスティ、神馬スキーズブラズニルも守れず消滅させられた! そしてヒトの女よ、貴様なぜヘイムダル様の力を!? 彼はもう死んでるはずだ!」


 右手に剣を持ったフレイが近づくと、女神ヤミーが盾になるように、両手を広げて私を庇った。


「どけ! 冥界の女神よ! 我が全ての魔力を失ったとて、貴様らを我が剣技で葬り去る事など、造作もない」


 女神ヤミーは、拳を握り締めてフレイの顔面を殴ったが、逆にフレイの左手で掴まれる。


「お前は……人間であったのに……なぜこやつらを下に見下すのじゃ! お前だってかつて世界を担当してた神であるのに……なぜこやつら人の思いを、尊き意思を理解できんのじゃ!」


「言いたい事はそれだけか? 私は主神オーディンに逆らう事などできぬ。私と我が主神オーディンに刃向かうのであれば、もはや是非も無し」


 私は、女神ヤミーに剣を向けるフレイの前に立つ。


 たとえ勝てなくても、このまま黙ってるなんて、今の私にはできない!


「あなたは、どうかしてる! 先生の言った通りだ……あなたは元は人間だったのに思い上がってる! どうして……どうしてあなたは人々を操って悲しい世界を生み出すんですか! オーディンからやれって言われたからですか!?」


「黙れ……人の子よ」


「いいえ、黙りません! あんただって人間の親から生まれたくせに! オーディンと言う神の命令がそんなに大事なんですか!? 自分が生み出した我が子とおっしゃる存在よりも……そんなの……あんたは親なんかじゃない!」


「だまれえええええええええええええ!」


 フレイが剣で、女神ヤミーと私を突き刺そうとした瞬間、何者かが突っ込んできて、フレイが弾き飛ばされた。


「まさか……先生?」


 私達を庇うように現れた、勇者の背中がそこにあった。

次回決着です

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