第56話 精霊神フレイ 後編
巨大な黄金の猪のような下半身に、背中には8本の黄金に煌めく剣が羽のように生えて、真っ白い肌の上半身は、彫刻のような肉体美。
下半身入れると全長20メートルとか30メートルくらいで、両手には光の宝玉のようなものを手にしてて……これが本気になった精霊神フレイの、本当の姿。
ゲームで言うと第二形態って奴なのかな?
なんか見た目ラスボスっぽいし、すっごいヤバいオーラとか出してて、強そうとかそんなレベルじゃないし、そんな第二形態とかいらないんですけど!
すると、光り輝く大きな球が次々と、この空間に具現化する。
「元精霊神にしてかつての元老フレイよ。あなたは……今まで精霊界に多大な貢献をしてました。しかし、我々は聞いてしまった」
「あんたは、神界の最上級神と通じて、多くの精霊種を争わせ、自分達の利益のためだけに利用してきた! そこの冥界神ヤミーが教えてくれた」
私は女神ヤミーを見ると、通信用の水晶玉を持ってドヤ顔してる。
そうか、女神ヤミーはさっきの先生やブロンドさん達とフレイのやりとりを、精霊界に全部報告したんだ。
「だからどうした! 私が精霊界のために、どれだけ貢献して、精霊種や精霊人を生み出したと思ってる! 我々ユグドラシルのために、我が子を使って何が悪い! 私こそが精霊を統べる神だ! そんな私に貴様ら今更……」
すると、美しい水色の光の球がフレイの前で飛び回る。
「元はと言えば、あんたがあたしをあの世界に送ったくせに! あたしがあの世界でどんな振る舞いをしても、咎めなかったのはそういう事? お互い争わせて悲しい世界にしたなんて……あんた最低よ! さっさとアホ勇者にやられて死んじゃえバーーーカ!」
ああ、これはフューリーだ。
そうか、今フレイに現れたのは、大精霊と呼ばれる魂達で、フレイの呼びかけで力を貸すどころか、糾弾しに現れたんだ。
「あなたはもう精霊界から破門です、邪神と化したフレイ。創造神様も、承知済み。間もなくユグドラシルに対する、天界の大天使の査察が始まるでしょう」
「貴様らああああああ、この私は元老にして神だぞ! 精霊界の元老たる私を見捨てるなんて……」
狼狽するフレイを尻目に、大精霊達の魂が皇帝ヨハンの周りを飛び交う。
「エルフよ、この世界の担当神は女神ヤミーだ」
「めんどくさいからチビ女神に任せとくから!」
「彼女の言葉に従いなさい、エルフ達よ。もはやフレイはお前達の神ではありません」
そうか、この世界を担当してたフレイアという元女神は、もう神ではないし、フレイも神界や精霊界を破門だっけ?
だから、ここ世界の担当神は先生が仕える女神ヤミーになるんだ。
「ウェッホン! そういうわけじゃ、控えよ下郎共! 我が神じゃ!」
腰に両手を当てて、女神ヤミーが踏ん反り返りながら神宣言した。
なんていうか、その……全然神っぽく見えない……。
「エルフの女帝よ、女神ヤミーが命ずる。お主達は等しく我の世界の人間じゃ。民族差別や多種族間の戦争は許さん! お主達は、いままでの生き方を改めよ! さもなくば死後の魂は、我が冥界の裁きにて、地獄に堕ち永遠に苦しむことになるであろう! わかったのう?」
冥界の魔法が作用したのだろうか、一瞬私達にもおぞましい地獄の光景が見えた。
「ははー、女神様! 我らが精霊が認めた新しき神よ」
ちょっとなんか今、神っぽかったかも。
「ただの童かと思ったが、ちゃんとぅ神様らしいくとぅしたなー?」
「ああ、初めて神っぽい感じの事をした」
デリンジャーとジローが呟くと、ロバートさんは苦笑いして、先生がフレイを見据えたまま優しそうな顔して微笑んだ。
「ゴラァ! クズ野郎!!」
女神に向けた優しい笑みとは一転し、先生は、鬼のような形相になり、長ドスをフレイに向ける。
「そういうわけだからよ、てめえは精霊界からも神界からも破門だ馬鹿野郎。で、破門されたカスが、なんで俺の神の縄張りでイキり散らしてんだい? 縄張り荒らしだろコラ?」
ロバートさんが、含み笑いしてる。
先生はフレイをやっつけれるように、大義名分を得たんだ。
「我らが神の世界への縄張り荒らしは、許せんな。殺されても文句は言えまい? なあファック野郎が」
そうか、ヤクザでマフィアな勇者の二人は、たとえ元は偉い神だったフレイでも、縄張り荒らしと認識してしまえば、滅ぼす大義名分ができるってことか。
「ロバートの兄弟、この異次元空間なら俺が周りに気を使う事もねえからよお、存分に喧嘩が出来るぜ。おめーさんマリー達を守ってくれよ」
へ? あの戦い全然本気じゃなかったの!?
「さあて、精霊界とやらの正式な承認も取り付けたわけだし、ケジメの時間だぜ? ヤミー、親分は!?」
「今、爺やが冥界に戻り、連絡を取りつけとる」
「そうかい、そうかい、さすが兄貴だ。よう、元精霊神にして邪神フレイ! この勇者マサヨシ様の名にかけて、てめえを閻魔大王様に代わり、裁いてやる!」
先生から、真っ白いオーラが吹き出して、顔以外、身体中に具現化した入れ墨が、より色鮮やかに発色する。
もう、私のスキルのステータスじゃ、先生のレベルも能力値も判別できず、規格外過ぎて、想像を超えた力が発揮されてるとしか言えない。
「行くぜ、叫喚地獄」
先生が、どす黒いオーラの魔法を唱えると、フレイが頭を抱え出して絶叫した。
「ぎゃあああああああああああああ! やめろ……やめてくれ、アースラ! 私の子供達がこんなに苦しんでいたなんて、あの世界の映像を私に……私が離れた後に起きた、地獄のような光景を見せないでくれええええええ」
何をしたの先生?
あのフレイがあんなにも苦しがって。
「へっ、てめえが仕向けたくせに何が我が子だ。てめえに、親を語る資格はねえ! そして隙が出来たぜ」
先生が、苦しんでるフレイに向けて大型魔力拳銃、パイソンを取り出して左手で銃口を向けると、空間に時間操作のノイズが入る。
「時間操作」
私が時空を操作できる天界魔法を唱えたら、緩やかな時間の中で、先生は目で追うのもやっとな速度で、漆黒の何かを銃から撃ち出して、背後から無数の剣を具現化した。
「吹き飛べこの野郎!」
無数の剣と銃撃が、異形と化したフレイに降り注ぎ、周囲の空間が歪んで縦に引き伸ばされたような空間がフレイを包む。
「こんな高重力など私には無意味……」
「そうかい! 動きが止まったようだがな!」
動きが封じられたフレイを、先生の背中から羽根のように生えた6本腕のオーラが、フレイの猪と化した全身を連続で殴り始めて、次々と無数の剣が、フレイの体を突き刺し、または切り裂いていく。
「なめるなああああ、レーヴァーテイン!」
フレイの背中にある8本の黄金剣が、まるで意思を帯びてるかのように分離していき、先生の剣を迎撃しながら、フレイは魔法を唱える。
「大地豊穣」
フレイの周りに植物が生い茂り、なんか東南アジアに咲くって言われてる、ラフレシアのような巨大で赤い花が周りに咲き始める。
すると甘いお香のような、お線香のような香りがすると、フレイの傷が癒えていき、逆に先生の動きが止まった。
「おめえら離れろ! 毒ガスだ!」
ロバートさんや女神が、魔法のバリアを張り巡らせるが、私と女神以外の全員が膝をついて、その場で嘔吐する。
先生も膝をつき始め、顔面が蒼白状態になり、吐血し始めた。
「私をなめるなよ。神でない貴様には、この毒は死の毒! 貴様を倒して神界に申し立てを行い、愚かな神々を説得して、私は神として復権する!」
今度は薔薇の棘が具現化して、先生に絡みつき、動きを止めた。
「神でも魔でも人でもないような貴様なんぞに、神である私が負け……」
「うるせえよ、ユングヴィ・フロージー」
へ? ユングヴィ……何?
先生がその名でフレイを呼ぶと、ピタリと絡み付いた荊の蔦の動きが止まった。
「冥界魔法で読んだ、てめえの古い名だ。英雄ユングヴィ。双子の妹フリッグ、今はフレイアだっけか? 地球世界で英雄となり、神になった元人間がおめえだろ?」
フレイが、元人間?
「てめえも、元は人間だったくせに。世の不条理を理解してたくせして、人助けの功績で神になったくせに……」
「黙れ……」
「人と宇宙と自然の調和って言って、エルフやドワーフ、ホビットとかの妖精人を数多の世界で作り出し、理想を掲げてた野郎のくせに! てめえは神にしてもらったオーディンの命令で、自分の生み出した奴らに非道しやがって!」
「黙れええええええ」
荊で拘束された黄金の神剣を、次々と先生にフレイは突き刺して……うわ、カンストしてた先生のHPが一気に低下して、残り5910になった。
するとスキル根性と、意地の輝きが発動して、7色の光り輝くオーラを先生が身に纏う。
「そんなもんか? 元人間のユングヴィ……。英雄として神になったくせに、思い上がって神名乗りしてるクソ野郎……てめえの意地はそんなもんか!」
先生のオーラが、荊のツタを燃やし尽くし、見渡す限り、無数の剣や巨大な槍が具現化した。
「てめえみてえな野郎を、色んな世界でごまんと見てきた! 神や英雄気取りで、転生先でワルさする野郎や、元神や英雄なのに、邪神や大魔王に堕ちた野郎も! そんなチンケなハンパ野郎に、俺は負けねえ! 弱きを助けて強きを挫くと決意した、極道なめんなクソ野郎!」
無数の剣が雨のようになって、フレイの体に降り注ぐが、逆にフレイは背中の剣を二刀流にして、先生の剣の魔法を弾きながら突進し、先生を吹っ飛ばす。
「約束された勝利の剣」
先生の体が、フレイによって細切れにされ、砂のように崩れ去って……刀だけが残された。
「いやああああ! 先生!」
「マサヨシイイイイイイイ」
「兄貴いいいいいい」
「親父さあああああああん」
負けた……あの先生が。
無敵の勇者のはずの先生が、こんな事って。
どうしよう、動揺して……。
心臓の動悸が、呼吸が苦しい!
頭が真っ白になってパニック状態なのか!?
「クソ! シミーズ……野郎俺が!」
デリンジャーがバリアから出ようとするが、毒の影響で顔面蒼白になり、苦しそうなロバートさんが、銃を懐から取り出した。
「ミスター、俺がやる! よくも俺の兄弟を! ファック野郎が!」
「いや、我が行く!」
周りもイキリたって半分恐慌状態になってて、ああどうしよう、私と女神ヤミー以外、毒の影響で弱体化してしまって……だから先生はあのフレイに勝てなかったんだ。
ダメだ、思考がうまくできない!
頭の中が真っ白くなって、何も思いつかなくて、どうすればいいのおおおおおお!
「いいか? どんなやべえ状況でも、上に立つ者は冷静になれ。喧嘩はビビったり、テンパって考えなしに熱くなった方が負けだ。そういう時こそ、自分を信じて、周りを見渡せ。そんで突破口を見つけたら、一気に行動よ」
その時、先生の声が聞こえた気がして教えをふと思い出し、周りの状況を確認する。
……なんで私に毒の影響があまりないの?
確かに息苦しいし、HPも少しずつ下がっているが、体が動けなくなるほど、毒の影響を受けてない。
女には効果がない?
いや、皇帝も一緒に同行したメリアさんも、脂汗かいてて、満足に動けないような状態になってる。
女神ヤミーも、他の女性程ではないけど苦しそうだ。
考えろ、何かこの状況を打破出来る可能性があるはず。
先生がいない今、戦うのは私達だ。
そう、あの人は言ってた。
喧嘩はビビって焦った奴が負ける。
劣勢な時ほど周りを見渡し、相手の取る手法や兆候から、逆転の隙を突くため考えろと。
「さあ女神ヤミーよ、貴様の勇者は死んだ。一刻も早く神界に、創造神に取り次ぐのだ。申し開きの後、私は神としてこの世界を取り戻す」
「嫌じゃ! ふざけるな! 我はそんな事は認めぬぞ!」
フレイがこちらに歩み寄ると、エルフのブロンドさんや、皇帝ヨハンが呼吸困難状態になり、男達は立ってるのもままならない状態になる。
ドワーフのガイさんもメリアさんも、ダークドワーフ達も、フレイの毒と神のオーラに当てられて気を失ってしまってる。
「ふ……私とした事が、フェタリティの効果を発揮したままだったか。ヒトよりも我が子のエルフには負担が大きいからな。女神ヤミーよ、貴様が私の申し出に応じれば、効果を解除してやってもいいぞ?」
なんて卑劣!
最初に見たイケメンっぷりが影も形もない。
こいつのスキルはエルフに特に効果がある?
けど、女神ヤミーと私以外、みんなかなり苦しそうだが……。
あ、待って、そういえば。
「ふいー、魔力と気力が漲ってシャキッとしやがるぜ。おめえらも打っとけ!」
「あ、これ一応は内服でも大丈夫なんですが、親父さんが直接血管に入れたほうが効果が発揮しやすいって言って……ただし凄く苦いです」
「じゃあ飲みます。注射嫌いだし」
「オエップ、うげええええええ、やめときゃよかったよおおおおお」
「まったくアホの子じゃのう、我は注射とか飲み薬とか嫌いじゃから、例え兄様やマサヨシからも勧められても絶対拒否じゃ」
あ……。
あの時のステータスアップの効果がある、エルフの妙薬、確か女神ヤミーも注射嫌いだって打たなかったし、私も飲んだけど吐き出して……。
どうしよう、あのポーションの効果が作用して、みんな毒が体にまわりやすくなってるんだ。
「さあ、どうする? 上級神ヤミーよ」
この場で戦えるのは私と女神ヤミーだけだ。
ならば!
「邪神フレイ、私が相手だ!」
私は杖を構えてフレイの前に立つ。
もしかしたら、勝てないかもしれないけども、このまま負けるよりも、私は戦う!
続きます




