第58話 帝国の終焉
まるで、私と初めて会った時のような全裸の姿の先生が私達の前に立つ。
その背中は、とても大きく……。
まるでお父さんのようだった。
「てめえ、俺のお気に入りの着物をお釈迦にしやがって。なんでフル●ン状態で、俺の神や弟子にイキリ倒してんだよ……ぶち殺すぞクズ野郎おおおおお!」
やっぱり先生だ、その口汚さ間違いない。
ていうか……先生も全裸なんですけど……。
女神ヤミーも顔真っ赤にし、目を手で塞いでるし。
「あ、アースラ! ま、まさか、そんな筈はない! 貴様の体は私が切り裂いて……」
「なんだこの野郎? 勇者である俺様がそんなもんで死ぬわけねえだろ? ファミコンのマ●オでミスって穴に落ちたくれえなもんだ。ていうかよ、てめえ態度がでけえんだよコラァ! でけえのはてめえのチ●ポだけにしとけよ、クソボケ」
いや、確かにおかしい。
普通は絶対に死ぬって、体細切れにされたら。
まさか先生に発動中だった、竜の祝福ってスキルが作用した?
そして先生は、フレイの毒で瀕死状態の亜人達や、剣で突き刺されたロバートさんや、デリンジャーとジローを見ると、全身に入れ墨が入った状態になる。
「てめえ、この野郎てめえ……。俺の兄弟分や舎弟や子分共をよくも……ケジメとってやるぜ」
先生が右手を上げると刀が手に戻り、長ドスに変わると刃が光り輝く光の刀となり、時代劇の侍のような、野球選手がバッドを構えるような体制になる。
「来いよ、男と男が刀を手にしたなら……やる事は一つだろ?」
フレイは先生の言葉に応じて黄金の剣を、大上段に構えた瞬間だった。
「!?」
「正義乃剣」
まるで先生の体自体が、瞬間移動したかのように、フレイの前まで現れて彼の左手首を斬り落とすと、返す刀でフレイの右腕を斬り落とし、刀を握ったままの両手がその場に落ちた。
「オラァ!」
先生は、両手を失ったフレイの体を思いっきりヤクザキックして吹っ飛ばす。
「き、貴様、転移魔法を……神々でさえ使い手が限られる、最上位魔法を……」
「切り札ってのは最後の最後まで取っておくもんだぜ?」
フレイの体が異空間とあの世界を繋ぐ扉の外まで飛ばされ、私も後を追いかける。
すると、そこには……なんでコイツが!?
いつのまにか皇居の皇帝の間に、ロキが玉座に座って、ニヤニヤしながら私達を見つめていた。
「はは、凄いなあ驚いたよ? アースラ。これが、人間を極めた力なのかな? 僕がこいつ殺そうと思ったけど、僕の得物を君に譲ろう。そしてなるほど、オーディンのもくろみも読めた。ふふ、感謝するよアースラ」
「見せ物じゃねえ、失せろ! 大物垂れやがって、てめえの相手は後だクソ野郎」
ロキは鼻歌混じりで先生から視線を逸らし、今度はフレイを指さした。
「ざまあ、フレイざまあ! 君が作った眷属達に絶縁された時の顔……最っ高に傑作だったよ! アーハッハッハ、ざまあ、バアアアアカ! ハッハッハア!」
「貴様……ロキめ!」
「あー面白かった。腹筋ヤバイんだけど? お前たち兄妹、そろって馬鹿面晒して、最高に面白かったよ、うん。じゃあねアースラ、こいつ殺したらまた僕と遊ぼう! 待ってるから」
空間に砂嵐のようなノイズが入った後、ロキは姿を消してしまった。
この破滅神の考えることが、まるで読めない。
オーディンの企みは、この世界の戦乱の人の持つエネルギーだけど、一体こいつは、この世界で何を企んでいるんだろうか……。
「アースラよ! かつての大魔王め、貴様はロキとも通じて……」
「アースラじゃねえ! 俺は勇者マサヨシだ! さあ、てめえの罪を裁いてやるぜ。R15のケジメの続きだ」
先生は、皇帝の間に横たわるフレイを、思いっきり天井まで蹴り上げると同時に宙を飛び、背後の魔王のオーラの6本の手ががっしり握り合うと、まるでハンマーのようにして床に打ち降ろす。
両手を失ったフレイは床に叩きつけられると、水晶で出来たような皇帝の間にクレーターが出来た。
フレイは血を吐きながら体を起こし、先生を睨みつけるが、それ以上に先生が気迫を込めた目で睨み返すと、フレイの宝石のような目が怯えた感じになり、目を一瞬伏せた。
「どうした? 立てよ? まだ両手が無くなっただけだろ?」
「ば……化物め!」
先生は舌打ちすると、魔王のオーラの手がフレイの髪の毛を掴んで持ち上げる。
「化物じゃねえ、俺は人間だ。なあ、元人間のユングヴィ!」
先生は助走をつけて、フレイの顔面を右ストレートで打ち抜いた。
「ぐうううううううおおおおおおおお」
オーラの手がフレイの美しい緑髪を掴んだままで、フレイに至っては美しく整った頭髪がさっきの一撃でむしり取られ、頭皮から出血して一部禿げ上がった無残な姿になる。
「へっ、いい男台無しだなあ? まあ逆に俺様のイケメンっぷりが際立つんだがな」
自分で自分をイケメンとか、あんまり言わない方がいいと思う。
なんか、人間的に小さく見えるし。
「まあいいや、ユングヴィちゃんよお、さっきまでのイキがりはどうしたよ? 俺の女神と、俺の可愛い弟子にイキがりやがった威勢はどうしたんだぁ? オラァ!!」
先生はフレイに馬乗りになった後、魔王のオーラが具現化して連続で拳を叩き込んだ。
フレイの整った顔面が次第に陥没していき、思わず私は目を背ける。
「なあ? どうしたんだって聞いてんだよ! てめえ自分より下のもんや、女子供にしかイキがれねえのかって聞いてんだ!!」
フレイは打撃をガードしようとするが、もはやガードする腕も無くなっていたため、先生に殴られるままとなっており、鬼気迫る表情になった先生のがなり立てる声と、無慈悲に響く打撃音しか皇帝の間でしなくなった。
「何とか言えよイキリ野郎が! てめえ元人間のくせに、よくもあんな真似ができたもんだぜ!? 魂に傷を負った奴らの運命を弄び、おめえが生み出した奴らと喧嘩させて、大勢死んだ!! ヤクザな俺でさえ吐き気を催す邪悪がてめえだ! ゴラァ、何か言えこの野郎! それでも人間時代は英雄と呼ばれた男か!」
「……かった……」
「あ゛?」
フレイが何かを呟き、先生が攻撃の手をピタリと止める。
「仕方なかったんだ……。私は、オーディン様から命令されたのだ……。全ては理想の神の世界を作るため、我々の力を高める必要があると……。私だって……我が子を争わせたくて……作り出したんじゃないんだ……。私だって……」
フレイもまた、巨悪に利用される駒に過ぎなかった。
まだ見ぬ巨悪、最上級神にして戦神オーディンの。
すると先生はフレイの頭を抱えて引き起こす。
「そうかい、親分の命令は絶対というわけか? まあヤクザも神も同じようなもんみてえだ。だがなあ、それで、てめえの子に何やってもいいなんて道理は通らねえぞ? ましてや、そんなクソみてえな親に従って、てめえ自身が破門になって、邪神にされてまで親に義理通す奴がどこにいる!? てめえは……そうやって言い訳しながら、イモ引いて逃げ回り、可哀そうな子供ら助けなかった根性無しだ!」
先生は体をエビのように仰け反って、思いっきり頭突きをくらわす。
もはや、フレイには抵抗する力も残されてないようだった。
「おら、根性無し! そんなに神が偉いのかよ? ああ!? 何が神だ偉そうにしやがってボケ! あいつらを救ったのは俺だ! 俺があいつらの親方で、あいつらは俺の可愛い子分だ! てめえ、この俺を神でも魔でも人でも無くなった化物呼ばわりしやがっただろ!?」
もう一度先生が頭突きすると、フレイの整った鼻がねじ曲がり、目の辺りがボコボコに腫れて出血し、前歯も全部叩き折られ、無残な顔つきになって、涙を流している。
「俺は人間だ! 何度も何度も人間に転生して、その度に間違いを犯しながら、それでも前に進んできた人間だ! 神なんぞになって、人の心を無くして人間を理解できなくなったチンケなてめえが……俺と、俺の周りの身内や、この世界の可哀そうな奴らを下に見る資格もかかしもねえ!」
三度目の頭突きで、フレイの体は完全に動かなくなり、私達は、精霊神にして邪神フレイに勝利した。
すると、扉の向こうから女神ヤミーに体力を回復された面々が私達に駆け付ける。
「始末したのか? 兄弟マサヨシ。あと服を着たまえ」
「いや、まだ生きてやがる兄弟。あとは親分にこいつの身柄渡して、創造神さん交えてユグドラシルとかいう神域に、まとめて落とし前つけりゃいいだろ?」
すると、冥界の偉いワンコがこっちに駆け寄ってきた。
「お嬢様、そして勇者たちよ、大変な事態が起きた! 冥界にて魂管理システムが何者かによって破壊され、大王様も対応に追われておる! お嬢様についてはシステム復旧のため、大至急冥界に戻れと大王様の命令です」
すると先生は舌打ちする。
「チッ、オーディンの野郎手が早いぜ。冥界の神にスパイがいやがるだろ?」
「間違いないな、兄弟マサヨシ。おそらく神界でも戦争が起きるぞ?」
この世界だけじゃなく、神の世界でも戦争……。
どんどん事態が悪化していく……。
事態を打開するにはどうすればいいのだろうか?
「俺は……神の世界で戦争になろうがそんな事はどーでもいい。だがな、一部の神の奴らがこの世界を、俺が転生したフランソワの人々の、民衆達の運命を弄ろうってなら断固として戦うぞ! 神がなんだ!」
「我もそうさー。うちのロマーノの人々んは、長年続いてた都市国家間の戦世で疲弊しきってぃる。そして心根が優しき人々が多い。どんなことしても、親である我が守ってぃやる!」
デリンジャーと、ジローは自分達の国を守ろうと決意してる。
たとえ相手が神であっても。
「なるほど、じゃあこっちとしてはそのための絵図描かねえとな。よう、ロバートの兄弟。兄弟とカルーゾファミリーはそこのちんちくりんのサポートをしてやってほしい。それとあっちで何が起きてるかの情報が知りてえ。あと、兄貴はこっちに残っていただきてえです。それとこの馬鹿の身柄を無間地獄へ」
「わかった」
「うむ了解した」
「ワン!」
「ブロンド! おめえら極悪組はサタナキアと共に、このノルド帝国を縄張りにしちまえ。そろそろ二代目が、ホランドって国と手打ちにするはずだ。これでロキとエリザベスの小娘のいるヴィクトリー王国に、味方する国はなくなる筈だ。あと服持って来い」
「どうぞ」
ブロンドさんがいつの間にか全裸になって、先生に自分の長着を手渡した。
すっごい奇麗な体してて、程よく筋肉がついてて……。
やばっ鼻血が出てきそう。
ノルド帝国の皇帝ヨハンとか、ブロンドさんの全裸を見て頬っぺた真っ赤になってて、超ガン見してるし、なんか最近イケメンの全裸見すぎてる気がする。
「あとマリー、すまねえがヴィクトリー王国をおめえさんの手に取り戻すのはもう少し先だ。多分、ロキの巨人軍とかいうふざけた名前の奴らが、ガチガチに防御を固めてるはずだ。時間があれば、威力偵察ってやつをしてえが……まあいいか、それは俺がやる。俺達の目標は、先にこの世界の人間同士の戦争を終わらす」
そうか、先生達には今夜までしか時間がない。
そして次の戦場の場所はおそらく……。
「じゃあ、サタナキアの軍艦でロレーヌとバブイールの戦場に行こうか。つっても俺は、野暮用があるからよお……。そうだ金城! まずはおめえに任せるぜ、ガイを補佐につける。アヴドゥルとバブイールをなんとかしちまえば、この戦争は終わりだ。俺も野暮用終わらせて、そっちに行く。ついでにアヴドゥルの奴の正体も見極めて、仲間にしちまおうか」
「わかったん! 兄貴ぃ」
「叔父貴、よろしくお願いします」
先生は、本当にこの世界の大戦を一夜にして終わらせる気だ。
けど、ヴィクトリー王国を放置して大丈夫なのだろうか?
「先生、ヴィクトリー王国は……」
するとジローは悪そうな顔になってニヤリと笑う。
「へへ、兄貴ぬ考えーが読めたんさ。兄貴はいずれやってくるオーディンの一派、戦乙女とかと、ヴィクトリーのロキと潰し合わせん気やんばー?」
「さすが俺の舎弟、そういう事よ。まあ、絵図はそれだけじゃねえがな。あいつら敵同士で間違いねえだろ? ヤミーやマリーにオーディンの一派に警戒するよう警告しに来た点や、過去に起こしたそのラグナロクって奴でオーディンの一派を殺して回った点。あいつ多分、オーディン連中らヤル気だ。じゃあ潰し合わせちまえばいい」
ああ、先生がまた悪い顔してる。
そうか、そういう陰謀を企てる補助が欲しくて、ジローをこっちに呼んだんだ。
「そんでデリンジャー、おめえはホランドに向かってくれ。手打ちの準備はできてると思うから、半世紀以上続いたホランドとフランソワの戦争を、さっさと終わらせろ。終わったら、水晶玉で連絡寄こせ。アヴドゥルを味方にするならば、おめえの力がいる」
「わかった、戦争を終わらせてくる。そしてあいつの本当の魂を解き放ってやる」
すごい、状況に応じて‶絵図"という陰謀を次々と浮かべる先生はやはりすごい。
きっと転生前も、こんな感じで陰謀を企てて、日本全国で暴力団抗争とかしてたんだろう。
そして転生後は、世界を救うために様々な陰謀を企ててきたんだ。
「じゃあこのノルド帝国は、精霊界からも承認されてる通り、今から担当神はヤミーで極悪組の縄張りだからよお。ブロンド、おめえ適当にこの国の宰相になって、この国の改革しとけ」
「はい、わかりました。それでは皇帝陛下、私はこれからこの国の宰相になりますので……」
「いえ! 我々の始祖たる由緒正しき皇統のグルゴン様こそが、全てのエルフを統べるのに相応しいお方です! この国をあなたにお渡しいたします」
あ、顔真っ赤にしながらブロンドさんの両手を握ってるこの皇帝。
完全に恋する乙女の顔になってしまってるし、心なしかなんか可愛くなった?
ブロンドさんも何か困ってるし。
こうしてニュートピアの有史以来、北方を支配していた大帝国は終焉を迎えた。
帝都領域のノルドは先生の組織のものになり、スーデン領域もフィン領域も先生の組織や、ロバートさんの組織の人達の手によって改革されるという。
そして、奴隷身分にされてた他の亜人達はと言うと、先生は水晶玉で通信する。
「おう、ライガー。おめえらあの世界の東の大陸の開拓や、都市国家建築の人手が足りねえとか言ってただろ? アスモデウスに話を通して、こいつらに仕事と住まい用意してやって住まわせとけ」
「は!」
先生は言う。
差別と従属の関係はそう簡単になくならず、いずれ世界の大きな火種になると。
それにただ解放されただけの奴隷は、自分達が何をしていいかわからず、結局は必然的に元所有者との間に保護されねば生きていけず、ノルド国家間で奴隷の引き抜き合戦のようなことが行われ、これが戦争に発展する可能性があると先生は言う。
「他に見たところ、この国の奴隷は知識奴隷なんかいねえようで、肉体奴隷にされてて、ひどい扱いを受けてきた野郎らも多い。恨みつらみってのは簡単には消せねえってやつよ。ならば旧魔王軍連中の監督の下、新天地で生活させてやった方がいい」
なるほど、イジメたほうはすぐそういうのって忘れるけど、イジメられた方が忘れないか。
なんかわかる気がする。
「親父さん、帝国については了解しましたが、問題はフランソワのカリー市街地にいる、ヴィクトリー軍です。これを排除しないと、脅威は消えないと思います」
確かに、ブロンドさんの言う通りだ。
カリー市は元々、ヴィクトリー王国との交易で栄えてきた軍港で、あそこを奪取しないとヴィクトリー王国からどんどん兵士が送り込める状態になっちゃう。
「それじゃあ、私が行きます! ヴィクトリー王国は私の国です。私が何とかします」
意を決して私は宣言した。
そう、攻め込んでるのは私の国民。
私はもう、王女としての運命から逃げない!
「そうかい。だが、俺の想定だとかなり危険だぞ? そこには俺が出張ろうと思ってたところだ。イケるか?」
「行けます! 私の力は、神にも通用しました。大きな自信になりましたから」
先生は頷いた後、陰謀を企てる悪そうな笑みではなく、鼻をかきながら、はにかんだ笑みを浮かべた。
こっちの、笑い方が先生の本当の笑い方なんだろう。
「ようし、じゃあ日が落ちてきたし、ちょっと早いが夕食だ! 食休みをして気を練った後、各々の戦場に向かう! いいな!」
「おう!」
こうして私達は、夕食後にそれぞれの戦場へと赴く用意をする。
けど、私達はどこかでこの世界の陰謀を甘く見てた。
一つは、そう簡単に戦争が終わるほど甘くなく、オーディンの使者である黒騎士エドワード……いや、アレクセイの陰謀が、私達の想定の範疇を越えていた事。
一つは、追い詰められた元女神フレイア……いや、後でわかった事だけど、私の侍女として活動していたルイーダと呼んでいた存在の陰謀により、予想外の事態に陥った事。
魔女になったエリザベス……彼女の存在と、この世界で再会した、もう一人因縁のある彼女との再会により、この世界がさらに混沌として行くことに、私達はまだ気が付いてなかった。
本当の魂を取り戻した彼によって、次なる戦乱が巻き起こる事も……。
そして自分自身を取り戻したことにより、この世界の希望となる存在。
転生前に龍と呼ばれた、伝説の海賊の転生体、アヴドゥルの正体と、極東で己の魂のあり方と正義に目覚めた、転生前は史上最悪のアウトローと言われてた、転生後の彼の生き方も、まだ私達は知らなかった。
ロキの陰謀によって、私がこの世界の英雄と呼ばれる存在に、祭り上げられた事態も。
次回は世界情勢の、三人称視点に切り替わります。




