16 調査
薄影豹の名が記録から見つかった翌朝、東の森への立ち入りが禁じられた。
街道そのものを閉ざしたわけではない。東門と、森へ向かう二つの分岐にギルド職員が立ち、通行人へ事情を伝えている。行商人や近隣の農民は街道を通れるが、薪や薬草を採るために森へ入ることは禁止された。
夜のあいだに、新しい被害が二件増えていた。
一件は、牧場から北へ半刻ほど離れた羊飼いの小屋だった。羊は襲われていない。だが、囲いの外側を大きな獣が歩き、番犬が吠えもせず寝床の奥へ潜り込んだという。
もう一件は、東の森に仕掛けられた猟師の罠だった。
罠にかかっていた角兎が、金具と前脚だけを残して消えていた。血はほとんど落ちておらず、罠を引きずった跡もない。報告へ来た猟師は、二度と一人では確かめに行かないと言った。
東の森へ入るための調査隊を組むことが決まったのは、その報告が届いてすぐだった。
◇
冒険者ギルドの会議室では、調査責任者のローデンを囲んで四人の冒険者が待っていた。
護衛を指揮するのは、B級冒険者のグレン。その両側に、同じくB級のマルタとネスがいる。
マルタは幅広の剣を使う女剣士で、四十に近い。東街道の護衛を長く請け負い、大型魔物を相手にした経験も多い。猟師上がりのネスは長弓と短剣を持ち、未踏域での追跡を何度も経験していた。
A級指定の魔物を調べる以上、遭遇しないことを前提にはできない。ギルドはB級を三人そろえられるまで、調査隊を森へ入れないと決めていた。
C級から選ばれたのはルークだけだった。卓の端に立ち、広げられた地図を見ている。
五人目の冒険者が入ってきたのは、ローデンが地図の向きを直したときだった。
灰色の外套。飾りのない剣。歩く音は、扉が閉じる音に紛れてほとんど聞こえない。
「遅れた」
ラウルはそれだけ言い、空いていた席へ腰を下ろした。
竜の素材回収遠征で、S級隊長から経路判断を任されていたC級冒険者だった。
ラウルはルークの視線に気づいたようだったが、何も言わなかった。
「全員そろったな」
ローデンが卓を指先で叩く。
「先に確認しておく。これは薄影豹の討伐ではない。存在の確認と、行動範囲の特定が目的だ」
地図には、昨日までに見つかった痕跡が黒い印で記されていた。
牛を奪われた牧場。羊飼いの小屋。角兎の罠。さらに、森から逃げ出した鹿やラッシュボアが見つかった場所が、別の印で加えられている。
「調べるのは三つだ。薄影豹で間違いないか。何頭いるのか。そして、どこまで人里へ近づいているか。姿を確認しても追跡はしない。日が傾く前に森を出る」
グレンがその言葉を引き取った。
「俺が退けと言ったら、調査の途中でも退く。獲物が傷ついていようが、手の届く場所にいようが関係ない。森の中では誰も一人になるな。前の者が見える距離を保て」
「薄影豹が出た場合は?」
マルタが尋ねる。
「追い払えるなら追い払う。襲われた者がいれば助ける。ただし、倒すために隊列を崩すな」
「B級を三人集めたのは、戦えば勝てると考えたからじゃない」
グレンは全員の顔を順に見た。
「一人が襲われても、残る二人で調査員と退路を守るためだ。指定等級は、何も知らずに単独で遭遇したときの危険度にすぎない。だが、性質を知って隊列を組んでも、A級指定が危険であることは変わらない」
「先頭はネス。ルークはその後ろで痕跡を見る。ローデンを中央へ置き、私が右を守る。グレンは全体を見ながら後方。これでどうだ」
マルタの案に、グレンがうなずいた。
「左は?」
「俺が見る」
ラウルが言った。
ローデンが眼鏡の位置を直した。
「君には、東の森の地形について意見をもらうだけの予定だったが」
「中へ入る。昔の炭焼き小屋へ続く道と、涸れ沢の位置を知っている」
「最近も入ったのか」
ルークが尋ねた。
ラウルは視線だけをこちらへ向けた。
「地図へ線を引くには、歩いた方が早い場所もある」
「森へ入る依頼は止まっていたはずだ」
「仕事で入ったとは言っていない」
それ以上は答えず、ラウルは地図の東側を指した。
「ここに古い水場がある。今も枯れていなければ、獣は寄るはずだ。南の入口から入り、水場の手前で二手に分かれず、そのまま北へ回った方がいい」
指が示した場所は、昨日ローデンと見た記録の追跡線にも近かった。
「君の案で行こう」
ローデンは地図へ新しい経路を書き込んだ。
S級隊長が都市を離れる前、東の森について何かあればラウルの判断を聞くよう、ギルドへ伝えていたらしい。その一言がなければ、C級冒険者の提案だけで調査経路が決まることはなかっただろう。
ルークは、竜の素材回収遠征を思い出した。
隊長は進路を決める前に、何度もラウルを見ていた。長い説明はなく、短い返事だけで判断が通じていた。
ただ地形に詳しいというだけではない。
そう思ったところで、会議室の扉が勢いよく開いた。
「待ってください!」
息を切らして入ってきたのは、ユアンだった。
短槍を背負い、革鎧まで着込んでいる。呼ばれてから準備したのではない。最初から参加するつもりで来た格好だった。
その後ろからセラが入ってくる。
「会議中に申し訳ありません。止めたんですが、話だけでも聞いてほしいと」
「俺も連れていってください」
ユアンは部屋にいる全員へ向かって頭を下げた。
「足手まといにはなりません。昨日だって、牧場から都市まで誰より早く戻れました」
「D級を連れていくのか?」
マルタがグレンを見た。
「悪いが、A級指定の縄張りで足手まといを守りながら歩けるほど、こちらにも余裕はないぞ」
「昨日、こいつが任されたのは伝令だ」
グレンが言う。
「森の中で戦う役じゃない」
「今回も伝令で構いません。後ろにいます。何かあれば走ります」
「薄影豹は、隊列の後ろにいる者を見逃してくれるのか?」
ユアンの口が止まった。
グレンは追い返すような声を出してはいない。ただ、昨日より危険が近いことを理解しているか確かめていた。
「……見逃さないと思います」
「なら、お前も襲われる。走るだけでは済まない」
「それでも行きたいです」
「理由は」
ユアンは一度、ルークを見た。
「このままずっと、危険だからって後ろにいたくないんです」
誰も口を挟まなかった。
「俺は、この世界へ来たばかりの頃より強くなりました。反応だけなら、C級にだって負けないことがあります。外の世界から来たS級隊長も、最初からS級だったわけじゃないんでしょう」
「隊長と同じ出自なら、同じところまで行けると思ってるのか」
マルタが少し厳しい声で尋ねた。
「そうじゃありません」
ユアンは首を振った。
「同じだから強いんじゃないのは分かってます。別の世界から来た人が、大勢死んだことも聞きました。でも、出身だけで無理だと決まるわけでもない。だったら、俺がどこまで行けるかは、俺がやらないと分からないです」
言葉の最後はわずかに震えていた。
勇敢だから怖くないのではない。怖さを隠すために、前へ出ようとしているようにも聞こえた。
セラは何も言わず、ローデンとグレンの返事を待っている。
グレンがルークを見た。
「お前はどう思う」
「反応は速い」
ルークは答えた。
赤牙狼が荷車の陰から飛び出したとき、ユアンは誰より早く動いた。仲間を助けるために迷わず割り込める。それは教えただけで身につくものではない。
「近づかれてから避けるだけなら、D級の動きじゃない」
褒められたと思ったのか、ユアンの顔が明るくなる。
「ただ、避けたあとの場所を見ていない」
その表情が止まった。
「どういう意味ですか」
「言葉で聞くより、見た方が早い」
グレンが言った。
◇
ギルドの裏庭には、朝の訓練を終えた木人が並んでいた。
会議室にいた者たちは、円形の訓練場の外へ移動した。グレンは武器棚から木剣を一本取り、ユアンには穂先を布で巻いた短槍を持たせる。
「一度だけ、好きなように攻めてこい。その動きを見てから決める」
ユアンは槍を握り直し、足幅を開いた。
向かいに立つグレンは、木剣の切っ先を低く下げ、左肩を不用意に見えるほど前へ出していた。
ルークには、その姿勢が不自然に見えた。
左肩へ槍を誘っている。
「始め」
ローデンの声と同時に、ユアンが踏み込んだ。
速い。
短槍は開いていた左肩へ、迷いなく伸びた。
届く寸前、グレンが半歩だけ右へずれた。大きく避けたわけではない。槍の穂先を肩の外へ滑らせ、身体を入れ替える。
ユアンはすぐに槍を引こうとした。
間に合わなかった。
木剣の先が、革鎧の脇腹へ軽く触れている。
「終わりだ」
「今の、最初から……」
「肩が空いていたから、狙ったんだろ」
「はい」
「空けてたんだ」
グレンが木剣を下ろす。
ユアンは悔しそうに自分の足元を見た。深く踏み込みすぎたせいで、身体が前へ伸びきっている。避けられてから槍を引き戻すより、グレンが懐へ入る方が早かった。
「もう一度お願いします」
「一度だけと言った」
「でも、今のが分かれば次は――」
「次も同じ隙を見せる相手ならな」
グレンの返事に、ユアンは黙った。
ルークは訓練場へ入り、さっきユアンが立っていた位置を靴先で示した。
「攻撃が見えたときの反応は速い。だが、見えた隙が本当の隙とは限らない」
「分かってます。今ので」
「今までも似た動きをしている」
赤牙狼が逃げたときもそうだった。
倒せると見て追おうとした。しかし、追った先に別の敵がいるか、仲間からどれだけ離れるかは確かめていなかった。
「敵が見せた好機と、自分たちにとって安全な好機は別だ。速く動けても、動いた先で囲まれたら戻れない」
「ルークさんなら、今の肩を狙わなかったんですか」
「狙う」
ユアンが目を丸くした。
「ただし、突く前に三つ見る。グレンが右へ避けるか、内側へ踏み込むか、剣で穂先を払うか。そのあと自分がどこへ立つことになるかも見る」
「実戦なら、後ろにいる仲間の位置まで見る。避けられたときに自分が退路を塞がないか。反撃をかわした先へ、敵を導いてしまわないか。負傷者がいれば、その者を運び出す道も残す。どれを選ばれても次に動ける場所から突く」
「そんなことを、槍を出す前に全部考えるんですか」
「考える。間に合わなければ、可能性の低いものから捨てる」
「それじゃ、届かないかもしれない」
「届かなければ、次を待つ」
ユアンは納得しきれない顔をした。
「待っているうちに、相手が誰かを襲ったら?」
「そのときは止める。ただ倒すためではなく、守るために動く。目的が違えば、選ぶ危険も変わる」
その答えを聞いていたラウルが、わずかに目を細めた。
「突く前に、そこまで先の動きを分けて考えるのか。ずいぶん面倒な戦い方だな」
「考えずに勝てるほど強くない」
「考えているうちに、間に合わないこともある」
「だから見ている」
「全部をか」
「見える限りは」
ラウルは何も返さなかった。
グレンが木剣を武器棚へ戻す。
「ユアンは連れていく」
「いいんですか?」
「戦闘要員としてじゃない。マルタの前から離れず、伝令と退路の確認に徹しろ。誰かを助けたいなら、まず自分が勝手に消えるな」
「はい!」
「返事ほど簡単な話じゃないぞ」
「分かってます」
「なら、準備に戻れ」
ユアンは短槍を抱え直し、深く頭を下げた。
◇
出発は、その日の昼前になった。
東門を通った調査隊は、ギルド職員が立つ分岐を越えて街道を進み、昨日調べた牧場を拠点にした。
森へ入るのは翌朝からである。
日が高いうちに周囲を確かめ、戻ったときの目印と退路を作る。グレンは牧場主から土地の起伏を聞き、撤退時に集まる場所を決めた。ネスは納屋の屋根へ上がり、森の外縁を長弓の届く範囲まで見渡している。マルタとユアンは、牧場から森の入口へ目印をつけて回った。
ルークはローデンとともに、森の外側に残った痕跡を調べた。
羊飼いの小屋の近くには、大きな足跡が一つだけ残っていた。
昨日の牧場で見つけたものと幅は近い。ただし、こちらは右前脚の外側がわずかに深い。
「同じ個体だと思うかね」
ローデンが尋ねる。
「まだ分からない。歩く速さや地面の傾きでも変わる」
「毛はないか」
「見つかっていない」
足跡は小屋の裏で途切れていた。
そこから先は、背の低い岩が続いている。土を踏まずに森へ向かうことができた。
偶然、岩の上を通ったのではない。
追われたときに何が残るかを知り、残らない道を選んでいる。
ルークは足跡の位置と深さを手帳へ記した。
少し離れたところでは、マルタとユアンが森の入口へ目印の布を結んでいた。
白い布は、人の胸ほどの高さにそろえる。木の幹へ直接巻けば遠くから見つけやすいが、帰りに外すのに手間がかかる。二人は短い紐で枝から下げ、引けば簡単に外れるようにしていた。
灌木の陰で音がした。
ユアンの手がすぐに短槍へ伸びる。
飛び出したのは、耳の長い野兎だった。草の間を二度跳ね、そのまま森とは反対の畑へ逃げていく。
ユアンは追わなかった。槍から手を離し、何事もなかったように次の布を受け取る。
「いま、追いたかっただろ」
マルタが枝を選びながら言った。
「思っただけです」
「動かなかったなら十分」
「子ども扱いしてません?」
「森では、動かなかったことも仕事になる」
マルタは布を結び終えると、その位置を振り返って確かめた。
「帰りに目印が一つなくなっていたら、どうする?」
「次の目印を探します」
「見つからなかったら?」
「来た道を覚えてる人に聞く」
「全員、離れていたら?」
ユアンはしばらく考えた。
「その場から動かず、鳥笛を二度鳴らす」
「合格」
マルタが次の白布を渡す。
ユアンは少し嬉しそうに受け取った。目立つ敵を倒すことだけが役に立つ方法ではないと、頭では分かり始めている。
それでも、目の前に誰かを助けられる機会が現れたとき、同じように止まれるかは別の話だった。
ルーク自身にも、その自信はなかった。
「見ている相手が違うな」
隣に立ったラウルが言った。
「何がだ」
「お前は獣を探しながら、あの少年も見ている」
「連れてきた以上、見るだろ」
「全員をか?」
問い返そうとしたとき、ラウルはすでに別のものへ視線を移していた。
見ているのは岩の先ではなく、森の上だった。
「何かあるのか」
「鳥が戻っていない」
ルークも耳を澄ませた。
森の奥から鳴き声は聞こえる。だが、木立の外側には鳥の姿が少ない。昨日、人が大勢出入りしたせいとも考えられる距離だった。
「薄影豹のせいか」
「明日、分かるかもしれない」
ラウルはそう言って、牧場へ戻った。
断定しない言い方は、ルークと似ていた。
それなのに、何も知らない者の言葉には聞こえなかった。
◇
夕方、七人は牧場の納屋で最後の確認をした。
入口から、昔の炭焼き小屋へ続く道を北へ進み、涸れ沢を越えたところで引き返す。水場まで届かなくても、正午を過ぎたら調査を打ち切る。目印には白い布を使い、最後尾のマルタが回収する。
「森の中で声が届かない場合は、鳥笛を使う」
グレンが小さな木笛を掲げた。
「短く一度で停止、二度で集合。長く一度で撤退だ。誰が鳴らしても同じ意味になる。聞いた者は、勝手に意味を変えるな」
全員が順に笛を鳴らし、音の違いがないことを確かめた。
ユアンは最後だった。
短く一度吹き、少し間を置いて二度吹く。長い音を出す前に、グレンが手を上げた。
「お前が長く吹くときは、何が起きたときだ」
「撤退が必要なときです」
「何を見たら必要だと判断する」
ユアンは答えに詰まった。
「薄影豹が出たら」
「見ただけなら、近くの者へ知らせて隊列を整える。すでにこちらへ向かっているなら?」
「長く一度」
「仲間が一人、見えなくなったら?」
「……長く一度」
「それでいい。敵の強さを当ててから知らせる必要はない。お前が決めるのは、勝てるかどうかじゃない。決められた形が崩れたかどうかだ」
ユアンは真剣な顔でうなずいた。
確認が終わると、それぞれが寝床を整え始めた。
牧場主が貸してくれた納屋には乾いた藁が積まれていた。七人は壁際へ荷物を寄せ、入口と裏口へ一人ずつ見張りを立てることにした。
ルークが剣の刃を布で拭いていると、ユアンが隣へ座った。
「聞いてもいいですか」
「何を」
「俺がC級になったら、一緒に組んでくれませんか」
ルークの手が止まった。
ユアンは、冗談を言っている顔ではなかった。
「今日の訓練で、まだ足りないのは分かりました。でも、ずっと足りないままじゃないです。槍も覚えるし、戻る判断もできるようになります」
「C級になれば、それで十分とは限らない」
「ルークさんだってC級でしょう」
「だから分かる。昇級しただけで、急にできることが増えるわけじゃない」
「じゃあ、何ができたらいいんですか」
ルークは剣を鞘へ収めた。
「一人で任された仕事を増やせ。敵を倒した数じゃない。自分で危険を見つけて、戻ると決めて、報告まで終わらせる仕事だ」
「それができたら?」
「そのときに考える」
「約束ですか」
「考えると言った」
「それ、逃げてません?」
「まだ組めるとも組めないとも分からない」
ユアンは口を尖らせたが、やがて笑った。
「じゃあ、考えさせます。組んだ方がいいって」
「明日は、そういうことを考えずにマルタの前にいろ」
「分かってますよ」
返事は軽かった。
だが、短槍を置いた場所は、横になってもすぐ手が届くところだった。鳥笛の結び目も二度確かめている。
少なくとも、何も考えずに来たわけではない。
納屋の灯りが消えたあとも、ルークはしばらく眠れなかった。
薄影豹の足跡。
右前脚へ偏った重さ。
鳥の戻らない森の外縁。
同じ個体なのか、複数いるのか。それとも、記録にない別の魔物なのか。
考えているうちに、さっきのユアンの言葉が混じった。
――一緒に組んでくれませんか。
ルークは身体を起こし、荷物から手帳を取り出した。
明日の隊列をもう一度書く。
先頭はネス。その後ろでルークが痕跡を見る。中央にローデンとグレン。左をラウルが守り、ユアンの後ろにマルタがつく。
その中へ、ユアンの名を置いた。
後方の伝令。
前へ出た者が戻れないときの連絡。
負傷者から荷を受け取り、退路を空ける役。
速さは、敵へ近づくためだけに使うものではない。
もし経験を積み、周囲を見て動けるようになれば、ユアンの初動は仲間を救う力になる。
そこまで書いて、ルークは手を止めた。
明日の調査でユアンへ任せるのは、後方の伝令だけだ。負傷者を助ける役も、仲間の死角を埋める役も、いま考える必要はない。
それでも手帳には、ユアンが経験を積んだ先の役割まで書かれていた。
ルークはしばらくその名を見つめた。
自分はもう、ユアンと組んだあとのことを考え始めている。
書いた名を消さずに、手帳を閉じた。




