戦闘―――2
ガキィン
火花を散らしてグラトリアン司教の爪は私の首のすぐ横で止まっていた。
何が起こったのかは分からないが、もう少しで死んでいた、そう思うと冷や汗が流れていく。
だが、それとは対照的に脳内に響くアイリスの声には余裕がある。
――――まぁ、こんなものかしら?グラトリアン司教って案外弱かったのね。
もっと強者だと思ってた……。心配損だわという声が聞こえた。
――――なら、私に死ぬか死なないかのギリギリを味あわせないでくれる……?
そんな私の様子を見てアイリスは意地悪そうに笑った。
――――そうね、やっぱり訂正しようかしら?今のままならグラトリアン司教に勝てたらラッキーぐらいね。
その言葉通りグラトリアン司教も相当強く、アイリスが張ったであろう結界にヒビが入っている。
「からかっているのかガチなのか分かんないんだけど!?」
――――………あなた、ほんとに面白いわね。でも安心しなさい、5割冗談よ。
アイリスがそう言った瞬間、破砕音を立てて結界が粉々に砕けた。
――――それにさっき言ったじゃない。《《今のままなら》》グラトリアン司教に勝てたらラッキーぐらいって。
今度こそ私を殺そうとグラトリアン司教が爪を突き立ててくる。
慌てて逃げようとするが、恐怖で足がもつれて後ろに倒れていく。
――――もう一人忘れてないかしら?
ザンッという金属が空気を裂く音が響いた。
グラトリアン司教の手が宙に舞っていくのがやけにスローモーションに見える。
剣を習ったことがない私でも見惚れるような――まるで花畑を蝶が舞っている―――そう錯覚させるような綺麗な剣だった。
その剣の主がこちらを振り返る。
何よりも澄んだアクアマリンの瞳と目が合った。
「すみません。遅くなりました」
傷だらけで、痛々しい傷を残しているのにその目には誰にも折ることが出来ない意志の強い静かな焔が宿っていた。
それを断ち切る様にグラトリアン司教の叫び声が空気を引き裂いた。
「クソがあぁぁぁぁぁぁ!!よくもこの私の手を切ったなァァア!」
さっきまでの余裕そうな表情とは裏腹に礼儀もかなぐり捨てて暴言を吐いていた。
「こんな事をしたらあの御方が黙ってはいないぞ!!それこそ教団の《七王》もなァ!」
―――グラトリアン司教ってあんな性格だったのねぇ……見ていて滑稽だわ……こちらまで嫌な気分になるじゃない…。
「……それはそちらが無事に帰れたらの話ですよね?何故帰れると思っているのかが分かりませんが……ヴォルテール公爵にかかれば死亡の偽装など容易いですからね」
二人とも同じ事を思っていたのかどちらも嫌そうな感情を隠そうともしない。
突然、グラトリアン司教は急に両手を大きく広げて天を仰ぎだした。
「《先読みの御子》よ!どうかこの者たちに裁きの鉄槌をもたらしてください!そうすればこの者たちも、貴方の素晴らしさが分かるはずです!」
グラトリアン司教がそう呟くとボコボコというなにかが沸騰するような音と同時にグラトリアン司教の筋肉が膨張していき最後にはバァンと大爆発して肉と血の雨になって砕け散った。
「消された……のでしょうか」
何とも言えない後味と不安を残してグラトリアン司教は―――死んだ。




