第126話 仲間だろうが。頼れ頼れ
人型になった。けれども先ほどまでとは一味違う。
全身真っ白な皮膚で、頭髪はなく、青く血管が浮かんでいて、目は大きく猫を思わせ、服は上も下も着ていない。女か男かそれさえ分からない新しい人の形だ。
そ もそも性を持っていないのだろうか。
バリエンスが礼をするように腰を曲げた。背中が大きく盛り上がって肩甲骨が皮膚を破って伸びてくる。薄く伸びて、異様な翼になった。
足が、バリエンスの脚が数ミリ浮く。瞬間、奴はオレの背後に立っていた。
「!」
血が噴き出た。誰から? オレから。どこから? 首からだ。
倒れ込む、オレ。
即座に治療に入り、
「この!」
同時に刀剣を作りだして背中を見せるバリエンスに向かっていく。
見られていない。完璧な死角だった。だったのに翼を伸ばし曲げてオレを弾き飛ばす。ビルの壁に叩きつけられるオレ。しかしすぐにバリエンスに向かっていく。何度も何度も伸び曲がる翼で弾かれ、その度に立ち上がっていく。自身の治療が不完全であるにもかかわらず向かっていく理由はキュアがオレを見ているからだ。ウェディンたちが優勢になった頃から“今からでかいの行くぜ、ちょい囮になってくれ”、こんな目で見ているからだ。
ぽつりぽつりと雨が降ってきた。ザイの生み出した恵みの雨水はオレの体に沁み込んで体内を循環し内側から体力を回復させていく。
ただちょっと……。
「いくらなんでも!」
弾き飛ばされながらオレは下唇を噛んだ。翼だけで弾かれ続けているのだ。奥の手である星霊体ではないにしてもいくらなんでもオレの力が通じなさすぎる。
「人間の“冷”の心が供給され続けているからさ! 現状増えても減るこたねえぞ!」
とその時、バリエンスが手も足も動かす事なく倒れ込んだ。
「?」
「都市に電気を流しています!
キュアさま、今のうち――が!」
伸びる道路にザイの顎が打たれた。舌は噛まなかったようだが歯ぐきから血が出ている。
「くそ!」
オレは刀剣をガラスの都市に突き刺そうと試みる。だが、倒れていたはずのバリエンスがいつの間にか起き上がっていて、やはり翼で弾かれる。
オレを見ていなかった。このガラスの都市が、本体がオレを見ているからだ。
「言わばてめえらは身共の体を這う羽虫同然! どうやって身共を倒すってんだ!」
首から上をオレたちに向けて叫ぶ。
「いっそ化け物の如く首を百八十度回してくれれば遠慮なくいけるのに」
「遠慮だ? そいつは余裕を持っている奴のセリフだぜ涙覇――いや、そう言やてめえもう一段階変われるんだったな。
星霊体、つったか?
使わねえのはなんだ?
溜めの時間の問題か? それとも身共らの事情に同情でも入ったか?」
「……」
オレは応えない。両方、が答えだったがわざわざ教えてやる義理も義務もない。
ってかこいつへの同情じゃなくてトゥルーフォルスへの同情だし。あいつは良い奴だったから。
ただオレはともかくキュアなら遠慮なくやってしまえるだろう。自分の持つ日本刀に集中したまま動かないが。まだかいキュアよ。
「悪いな」
キュアに聞こえるように呟くオレ。
「悪かねえよ。なんでも自分でやる必要はない。
やれる相手に任せるのは信頼って奴だ。
仲間だろうが。頼れ頼れ」
「……おう」
「因みにそれの破壊力は?」
よろけながら、ザイがキュアの横に並ぶ。
「……この都市の防御力攻撃力が全て使われたとしても一キロメートルは削れる」
ふむ、と顎に手を当てるザイ。
「これよりも上と考えてよさそうだ」
「え?」
反応はろくにできなかった。ザイは単四電池程度の金の筒を取り出すと、ポイっとバリエンスに向けて放って。
バリエンスの足元で一度だけはねた筒は閃光を発して、柱状に雷撃が放たれた。
「ぐ――――――――――――――――――――――――――――――――――――ぅ!」
これまでザイが見せていた攻撃のどれよりも強烈な一撃だ。
まだこんな余力を残していたのか。
「余力と言うか」
オレたちと共に爆風に飛ばされそうになるのを屈んでこらえながら、ザイ。
「普段より雷撃を溜めていたものです。
ですが……」
目の前に広がる光景に目を細める。うまくいかない結果にも舌を打たないのはザイらしい。
そう、バリエンスはなおも佇んでいた。ただ。
ガラスの都市にヒビが入っている。
「わずか二メートル範囲のヒビ。申しわけないが自分にこれ以上の攻撃はありません」
「……まだ使い慣れてない技でな、時間がいる」
バリエンスが手を叩いた。すると空間がブロック状に分かれて彼の手に集まり、長い光の杖となった。
「少しだが痛かったぜ。人間風に表現するなら髪の毛を一本抜いたくらいか」
ほとんど効いていないなそれ。が、イラつきはしているようで。
「キュアさま、時間は稼ぎます。
ご準備を」
「了解」




