第22話。盗賊案件。
本日2話目の投稿です。
名前…尹那
生年…149年
性別…女性
属性…管家
統率…C
知性…B
行政…C
軍事…C
北緑洲の住民。
烏魯克の妻。
夕刻。
もう陽が傾いていた。
伐来の見込みでは、今頃北関という于闐の砦に到着している予定だったけれど、私が牙鼠を追い掛け回して1時間を浪費した所為で行程が遅延している。
私だって反省してるよ。
「おや?」
私はマップを見ながら呟いた。
「如何なさいましたか?」
伐来が訊ねる。
「この先に誰かいるね……。ん?30人ばかりの集団の周りを、50騎ばかりの騎馬の集団が取り囲んでグルグル回っているんだけれど?」
「それは……盗賊が隊商を襲っているのかもしれません」
マジで?
マップを拡大すると、本当だ。
荷駄を引いた集団を、騎乗した集団が周囲から射掛けている。
隊商の方にも武装した人間がいるようだけれど、多勢に無勢だ。
それに護衛対象の非戦闘員を守りながらの戦闘では不利を強いられる。
これは、異世界転移物では初期イベントとして定番の盗賊案件だね。
「伐来。私は、ちょっくら走って隊商に加勢して来るよ」
「畏まりました。私達も直ぐ追い付きます」
伐来は、言った。
「志織様。御武運を……」
焚が声を掛ける。
「応竜。行くよっ!」
私は、ダッシュした。
『致し方ありませんね……』
応竜が追従する。
・・・
私は、マップ上の目算で10km程の距離を30秒で走破した。
時速1200km……マッハ1だね。
神様の身体能力は、マジでヤバい。
踏み込んだ最初の2歩で、デッキ・シューズは壊れて何処かに吹き飛んでしまった。
実は、牙鼠との戦闘の時も、私の出力に耐えられずにデッキ・シューズが壊れたんだよ。
応竜には、『全力で走ると靴が壊れる事は分かっていたのですから、一度で学習しましょう』と嫌味を言われた。
『デッキ・シューズのストックは、ストレージに大量にあるから良いんだよ』
『主上。負け惜しみという言葉の意味を御存知ですか?』
『喧しいっ!』
デッキ・シューズがボロなんだっ!
私は、悪くないっ!
それに、ぶっちゃけ私は軽く流して走っていた。
本気で加速しようとすると砂漠は足が埋まってしまうし、空気抵抗で体が空中に浮いてしまって、トルクが利かなくなっちゃうんだよ。
だから私は、工夫して「ピョーーン、ピョーーン」と飛び跳ねるように移動した。
ほら、牙鼠との戦闘の経験で、ちゃんと学習しているじゃん。
私は、学習出来るタイプのウッカリさんだ。
これは、空力を利用して体を地面に押し付けるウイングとかがあれば、もっと速く走れるだろうね。
脚の回転数を限界まで上げたら、どのくらい加速出来るんだろう?
衝撃波とかで被害が出そうだから、街中ではやらない方が良さそうだけれど……。
応竜が言うには、「転送(天位)」の下位能力の「迅歩(下位)」を使えば、音もなく衝撃波を生む事もなく「シュタタタタ……」とエレガントに疾走出来るそうだ。
能力なしでも楽勝で音速を突破する神様チートの身体能力を持つ私が、「迅歩(下位)」を行使すると、とんでもないスピードで走れるだろうね。
ま、任意能力を使用するには神力が必要で、今は神力が0だから出来ないんだけれど……。
「そーーいっ!」
ドカーーンッ!
爆発的な振動を起こして大量の砂塵が舞う。
私は、隊商が盗賊に襲撃されている場所から、少しだけ離れた場所でブレーキを掛けた。
そうじゃないと今の爆発が隊商に被害を与えただろうからね。
隊商も盗賊も凄まじい振動と爆音に驚いて、こちらを注視している。
「おいっ、盗賊達っ!武器を捨てて降伏するなら、命までは取らない。抵抗するなら、容赦しないよっ!」
私は、盗賊に声を掛けた。
盗賊達は、「ポカ〜ン」としている。
良し、今がチャ〜ンス!
「そりゃっ!」
私は、一番近くにいた盗賊から素早く弓と矢筒を奪い取った。
そして、高速射撃で盗賊達に矢を浴びせる。
「ぐあっ……」
「うぁ〜っ!」
「痛ぇ〜っ!」
「ぎゃっ……」
私は、盗賊達の手を次々と矢で射抜いて行った。
降伏勧告の答えを聞く前に攻撃するのは、如何なものか?
私が降伏勧告をした後で、尚も盗賊は武器を捨てなかったんだから、勧告無視で制圧行動に移っただけだよ。
降伏勧告から制圧までが、たった1秒しかなかったとしても、私はキチンと手続きを踏んだんだから文句を言われる筋合いはない。
そもそも、私の勧告の内容は「命までは取らない」であって、「攻撃しない」とは言っていないしね。
むしろ私は、盗賊をヘッド・ショット出来るところを、わざわざ手を狙ってあげているんだから良心的だよ。
「自分や身内に危害が加えられない限り、先制攻撃をしない」という元自衛隊の矜持は?
これは、軍事行動ではなく、1市民としての緊急避難行動だから全く問題ない。
法科学には「緊急避難の違法性阻却事由」という概念がある。
例えば、目の前で通り魔が罪なき市民を刃物で刺そうとしているような場合に、善意の第三者が実力行使で通り魔を制圧して、その結果通り魔が怪我などをしても、緊急避難上止むを得ない措置として善意の第三者が傷害罪などに問われる事はない。
これは、国際法でも日本の刑法でも一般的な法解釈だ。
ま、善意の第三者が通り魔を刃物で刺しちゃったりすれば過剰防衛として罪に問われる場合もあるけれどね。
弓で射るのは、過剰防衛ではないのか?
こっちの世界では、盗賊の側も盗賊を防ぐ側も弓矢を日常的に使用して戦闘が行われているんだから、通常の防衛措置の範疇だよ。
因みに、日本の法規では銃や刃物は「鉄砲刀剣類所持等取締法」(所謂銃刀法)で規制されているけれど、弓矢には規制がないんだよね。
だから、アーチェリー部とか弓道部は、未成年者でも無免許・無許可で堂々と弓矢を持ち歩ける。
ブチッ!
あ……弓の弦が切れた。
馬鹿力で引き過ぎたか?
「ぐへへへ……弓が壊れたようだな……」
私の弓が壊れたのを見て、盗賊達が「ニヤリ」と笑う。
「ふんっ!私は別に弓とかいらね〜んだよ。そいっ!ほれっ!どっこいっ!」
私は、盗賊達に矢を投げ付けた。
「あっ!」
「手がっ!」
「痛いっ!」
私が投げた矢で、盗賊達は次々に手を貫かれる。
「ちっ!相手は、女1人だっ!一斉に射掛けて殺せっ!」
盗賊の1人が号令を掛けた。
盗賊達が一斉に私に向かって矢を放つ。
号令を掛けたという事は、あいつが盗賊達の頭目なんだろうね。
パシッ、ヒュンッ!
パシパシ、ヒュンッ、ヒュンッ!
「はい、どうも。そりゃっ!はいはい、ほいほいっ!」
私は、盗賊達が射た矢をキャッチして投げ返した。
「ぐあっ!」
「あだっ!」
「ぎゃぁっ!」
「ば、バケモノか!?くそっ……。おいっ!これを見ろっ!大人しくしね〜と、この女を殺すぞっ!」
盗賊の頭目っぽい男が、隊商の女性を人質に取った。
女性は漢服を着ているから、もしかしたら漢人なのかもしれない。
「ちっ、卑怯な……」
矢を投げて倒そうとしても、盗賊の頭目っぽい男は、人質の女性を盾にして身を隠している。
「あら〜、そちらから間合いに入って来て下さるなんて、好都合だわ〜」
人質の女性が言った。
スッ……ボトッ……。
女性を人質に取った盗賊の頭目っぽい男の頭がズレて、地面に落ちる。
へっ?
気付くと、いつの間にか人質の女性の手に刀が握られていた。
如何やら衣の中に刀を隠し持っていたらしい。
そんな事より、今の動きは何?
私は、神様チートで動体視力が強化されているから見えたけれど……女性は、目にも止まらぬ速さで刀を一閃したと思ったら、一瞬にして盗賊の頭目っぽい男の首が胴体から離れていた。
尋常な速さじゃなかったよね?
「ひっ!頭がやられた?何でっ?……あっ……」
ヒュンッ、スパーーッ!
人質だった女性は、残像が見えるような速さで動き、また1人盗賊を斬り伏せてしまった。
ヒュンッ、ズバッ!
ヒュンッ、バスッ!
ヒュンッ、ズシャッ!
は、はい?
何なの一体?
人質だった女性が、とんでもなく強いっ!
「ひ、ひえっ……く、来るなっ!」
盗賊が、人質だった女性に向かって馬上から弓を射る。
危ないっ!
キンッ!
女性は、刀で矢を弾いてしまった。
ズッバーーッ!
女性は、自分に弓を射た盗賊を横薙ぎに斬り伏せる。
馬ごとだ……。
えっ!
マジか!?
すると盗賊達は、馬を駆って一斉に逃げ出した。
「……って、逃すかーーっ!」
私は、地面を蹴ってダッシュする。
私は、壊走する盗賊達を追撃した。
もちろん、1人も逃さず盗賊を全員制圧したよ。
マッハで走れる私から馬なんかで逃げられる訳がない。
・・・
私は盗賊達の馬を引いて戻って来た。
馬の背には、気絶した盗賊達がいる。
隊商の所まで戻ると、隊商側の護衛が私に手を射抜かれた盗賊達を制圧していた。
そして、8人の盗賊は死亡している。
私がやった訳じゃないよ。
盗賊を斬り殺したのは、人質にされた隊商側の、あの女性だ。
「え〜っと、私は通りすがりの者ですが……盗賊に襲われているのが見えたので、助けに来ました」
私は、女性剣士に挨拶する。
ヒュンッ、クルクル、スチャッ。
「助けて頂き、ありがとうございます。私は、徐晶華と申します。遠く漢の豫州より旅をして参りました」
女性剣士の徐晶華さんは、刀の血糊を払って鞘に納めて言った。
「あの……もしかして助太刀は必要なかったですか?」
あの様子なら、この女性1人で盗賊を撃退出来たんじゃなかろうか?
だって、至近距離から射られた矢を、刀で弾けるんだよ。
「いいえ。貴方様が賊の注意を引いて下さり、また数を相当減らして下さったおかげで、私も戦えました。そうでなければ、夫や子供が居たので、私も行動が制限され危なかったかもしれません。ありがとうございました」
「お怪我などは?」
「大丈夫です。賊は、私達の護衛を降伏させる為に威嚇として矢を放って来ましたが、わざと狙いを外していました。こちらが抵抗しなければ殺す気はなかったようです。賊にとっては、奪った荷物と同様に人も奴隷として売れる商品なので、なるべく傷付けないようにしたのでしょう」
「なるほど。怪我がないなら良かったです」
「ところで、貴方様は?突然あの爆発と共に現れて、凄まじい弓矢の技と体術で賊を無力化しておられましたが、もしや貴方様は、姮月娘様なのではありませんか?」
ん?
誰?
「申し遅れました……私は三国志織と言います。姮某ではありません。その人は、私に似ているんですか?」
「失礼致しました。残念ながら、私は姮月娘様のお顔を存じ上げません」
「ん?なら、何故私が、その姮月娘だと?」
「私の実家は、代々『撃剣』と云う暗殺剣を相伝しております。当家伝来の撃剣の開祖は曽祖父ですが、曽祖父に剣を教えて下さった師が、天女の姮月娘様という御方なのです。私は、一族最強で、今まで私より強い御方には出会った事がございません。しかし、父や祖父は、いつも私に言いました。『人の中で多少強いからといって傲ってはならぬ。天女の姮月娘様は、お前など歯牙にも掛けぬ絶対的な強者だ。だから、上には上が居ると弁え、常に研鑽を怠ってはならぬぞ』と。父や祖父によると、『天女とは不老』なのだとか。であれば、きっと志織様が、姮月娘様なのではないかと?」
暗殺剣?
何それ、怖っ!
……ってか、天女って、応竜が言っていた仙っていうのの1つだよね?
確か、女性の仙は、巫女、仙姑、天女、神仙という格があって、天女は上から2番目だ。
「違いますが、天女とは仙と呼ばれる者ですよね?漢には、仙が結構沢山いるんですか?」
「いいえ。私は仙に会った事はありません。仙に会ったという人物も直接は知りません。亡くなった曽祖父が生前に『仙はいる。自分は天女の姮月娘様に剣を教示して頂いたのだ』と言っていたそうです。今の今まで、曽祖父の話は眉唾物だと疑っていたのですが、志織様を見て考えを改めました。志織様は、到底人とは思えない動きでございました。志織様は姮月娘様でないとしても、仙なのではありませんか?」
「え〜っと……」
初対面の人に「私は神様です」なんて名乗るのは、不味いよね。
でも、徐晶華さんには、明らかに「人ではない」ってバレているし……。
ここは取り敢えず、徐晶華さんの誤解に全乗っかりしとくか。
「実は、そうなんですよ。バレちゃいましたか?あははは……」
私の芝居は、相変わらず致命的に下手だった。
「やはり、そうでしたか。仙なので、あれ程お強い訳ですね。お見それ致しました」
「いえいえ、徐晶華さんも人としては、とても強いですよ」
「ありがとうございます。志織様、私の事は、晶華とお呼び下さい。仙は、不老長命。志織様は、お若く見えても悠久の年月を生きておられるのでしょう?」
「あ〜、まあ、そうですね。では、晶華さん、宜しくお願いします」
私は、現代(未来)日本から西暦170年にタイム・スリップしたから「悠久の年月を生きている」と言えなくもない。
「こちらこそ、宜しくお願い致します」
晶華さんは、微笑む。
「晶華。無事だったかい?」
漢服姿の男性が小さな赤ちゃんを抱いて歩いて来た。
つまり、この人が晶華さんの旦那さんかもしれないね。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




