第21話。都市国家建設計画。
名前…烏魯克
生年…145年
性別…男性
属性…工匠
統率…C
知性…B
行政…B
軍事…C
北緑洲の名主。
夕食後。
伐来に焚を呼んで来てもらって、応竜から言われた「庇護領域建設計画」を話す。
「……という訳で、伐来や焚達に、私が作る都市国家の住人になって欲しいんだよ。無理にとは言わないけれど、如何かな?」
私は、伐来と焚に何も隠さずに心中を披歴した。
「率直こそ最高の交渉術」って、誰かが言っていたからね。
「もちろん、喜んで何処へなりとも志織様に御供致します。実は、私も焚も兵達800人も、志織様に御仕え申し上げる事を望んでおりました。志織様から請われて御仕え出来る事は、光栄の極みでございます」
伐来は、言った。
「そうです。むしろ『女神様の従僕にしてもらうには、如何すれば良いのか?』と昨日から何度も話し合っていたところなんですよ」
焚も言う。
呆気なく了解をもらってしまった。
余りにもアッサリだったから何だか拍子抜けする。
私の交渉系最上位能力の「啓示(天位)」の効果かもしれない。
私の「啓示(天位)」は、「ある程度の合理性があり、相手が絶対に受け入れられない要求以外は、基本的に了解してもらえる」というチート能力だ。
「本当に良いの?まだ、どんな都市国家が出来るのかも分からないのに?」
「全く問題ありません。今この瞬間から私達の主君は、志織様です。如何ぞ、私達の微力を存分に御使い下さい」
伐来は、言う。
「伐来の言う通りです。主君の志織様に、俺達の命を預けますぜ」
焚は、厚い胸板を「バンッ」と叩いた。
その瞬間。
ステータス画面の「盟約(天位)」にリストが表示される。
リストを開くと、「伐来と焚は、三国志織の家臣となり絶対の忠誠を誓った」と書いてあった。
あ……「盟約(天位)」は、「私と約束した事は守られる」という能力だった筈。
つまり、伐来と焚は、絶対に私を裏切らない忠実な家来になったという事だ。
「啓示(天位)」と「盟約(天位)」のコンボ……恐ろしいチート能力だね。
因みに、伐来が「烏魯克達3人は、信用出来る者達だ」と言うので、彼らにも立ち合ってもらい「私が神だ」という事も含めて「庇護領域建設計画」について話した。
烏魯克達は唖然としていたけれど、応竜の姿を見せたら私が神だという話を信じたらしい。
一応、応竜の姿を見せる前に、妊婦さんの桔梗がショックを受けないように配慮して、「今から巨大な竜が出現するけれど、私の忠実な眷属で絶対に安全だから心配ない」と説明してある。
烏魯克と尹那夫婦には1歳になる赤ちゃんがいるけれど、流石に赤ちゃんには応竜の姿は見せなかった。
引き付けの発作とかを起こすかもしれないからね。
「私達も、その都市に移住したいのですが?」
烏魯克が言った。
「えっ?烏魯克も移住したいの?私の庇護領域は、まだ如何なるか分からないし、何もない砂漠で1から始める開拓事業は大変だと思うよ。烏魯克は、北緑洲に家や家畜や仕事があるし、わざわざ苦労をする必要もなくない?」
「都市国家を1から造るなら私のような鍛冶や大工は必要でしょう?一生懸命に働きますので、是非志織様の庇護する土地に連れて行って下さい」
「尹那さんや桔梗さんの都合を訊かないで勝手に決めちゃって良いの?」
「え?尹那は私の妻ですし、桔梗も妹ですが?」
烏魯克は、意外そうに言う。
あ〜、そういう事か……。
「女は黙って男の言う事に従ってれば良いんだ」的な発想だね。
古代だから、現代(未来)日本と価値観が違うのは致し方ない事だけれど、私も女の端くれとして、それは聞き捨てならない。
「あのさ……一応私も女だから、『女性の意見や希望は汲み取らなくて良い』っていう男の独善的な考えには全く同意出来ないんだけれど?」
「あ、申し訳ありません。そういうつもりはなかったのです」
烏魯克は、取り繕う。
「なら、尹那さんと桔梗さんに、ちゃんと意見を訊きなさいよ」
「あ、はい。尹那、桔梗、私と一緒に志織様が建設する国に移住してもらえるかい?」
「志織様。私も夫に付いて参ります。私は、羊や山羊の毛を紡いで機織が出来ますので、きっと御役に立てると思います」
「わ、私も……。いえ、私は余り大した取り柄もありませんが、家畜の世話は出来ますし、働き者です。如何か一緒に連れて行って下さい」
尹那と桔梗は、何故か必死な様子で言った。
う〜ん。
何だか意外な反応だね。
私は、伐来や焚達のような西羌族は、自分達の国を持たずに外国の王に服属して命の危険がある傭兵を生業にしているくらいなので、「私が誘えば庇護領民になってくれるかもしれない」という目算があったけれど、烏魯克達まで私が建設する予定の都市国家に来たがるとは思わなかった。
于闐や鄯善で異民族として差別的な扱いを受ける事もある伐来や焚達西羌族とは違い、烏魯克達は元々于闐の国民なのだから。
そして、小さなオアシス集落とはいえ北緑洲の名主という役割の烏魯克は、それなりの暮らしをしている筈だ。
烏魯克達一家が住む家は、家畜小屋や庭付きで、北緑洲の他の民家より大きくて立派だからね。
そういう地位とか財産とかを捨ててまで、素性が良く分からない「自称神」の私に付いて来たがるか?
ちょっと理解に苦しむ判断なんだよね。
私が烏魯克の立場なら、そんなリスクは取らないと思う。
ま、良いけれど。
「大変さを覚悟の上で来てくれるって言うなら歓迎するよ。ありがとう」
こうして伐来と焚達、そして烏魯克達が、私が建設する都市国家に移住してくれる事になった。
・・・
翌朝未明。
烏魯克と尹那と桔梗に見送られて、私達は北緑洲を出発した。
800人もの騎兵隊が長い間滞在すると、北緑洲の井戸が枯れてしまうらしい。
馬ってのは、戦闘では圧倒的な機動力と打撃力を持つけれど、人間の10倍も水や食糧を消費するから、燃費が悪いんだよ。
烏魯克達は、当面北緑洲に留まるけれど、私が自分の庇護領域を造る際には、合流してくれる事になった。
私の庇護領域建設は、いつになるか未定だけれど、烏魯克達は「いつまででも待つ」と言ってくれるので有難い。
出掛けに、ストレージから石英ガラス・ハウスを3軒取り出して北緑洲にプレゼントした。
私がストレージ内生成で造った石英ガラス・ハウスは、建材の隙間が全くなくて気密が高いから、入口を密閉して食料倉庫にすれば虫やネズミの食害を防げるだろうし、石英ガラスの耐熱性は摂氏1000度だから低品質の煉瓦や素焼きの陶器なんかを焼く窯としてなら使える筈だ。
磁器や耐熱煉瓦は1200度以上の焼成温度が必要だし、溶鉄高炉の温度は2000度だから、高品質の焼き物や鍛冶には使えないけれどね。
石英ガラス・ハウスの用途は、色々と工夫して欲しい。
「今日は、ホータン川を50km遡上して北関という砦まで行きます。北関を越えて于闐側に入れば、もう盗賊に遭う心配もありませんし、明後日には于闐に着きます」
伐来が説明した。
「やっぱり盗賊が出るんだ?」
「出ますね。但し、連中も馬鹿ではないので、800騎の大軍を擁する私達に攻撃して来る事はありませんよ」
「隊商とかは狙われるんでしょう?」
「はい。それでも、于闐や鄯善があるタリム盆地の南側は、まだマシです。盗賊の大半は、鮮卑や匈奴なのですが、連中の本拠は北方なのでタリム盆地の北側のオアシスの盗賊被害は南側の比ではありません」
平時であれば、伐来軍500騎と焚軍300騎が合わさった800騎規模の騎兵隊は、ほぼタリム盆地の最強戦力と見做して良いらしい。
しかし、北方の鮮卑や匈奴が本格的な軍事侵攻を仕掛けて来れば話は別だ。
彼らが全面侵攻を仕掛けて来れば、数十万単位の騎兵を動員して来る。
そうなると、開けた土地の野戦で勝てる勢力は、東アジア(世界)には存在しない。
平原で戦う数十万の騎馬民族は、巨大な漢や、おそらく西方の超大国ローマ帝国ですらお手上げだろう。
平原での騎馬民族は、最強。
10万単位の騎馬民族による襲撃に遭ったら、彼らが略奪に満足して立ち去るまで城に籠もるか、山岳に逃げ込むなどして待つしか打つ手がないのだとか。
但し、鮮卑や匈奴の側も決して一枚岩ではなく、普通は各氏族同士が争っているので全軍を動員するのは難しいらしい。
時々、騎馬民族全体を従える強力なカリスマを持ったリーダーが生まれたりしなければね。
冒頓単于とか、チンギス・ハンとか、ティムールとかだ。
私達は、干上がったホータン川の川縁を南進する。
・・・
何度か休憩を挟んで行軍していると、見た事がない生き物(?)を発見した。
チョロチョロと素敏捷く走る謎生物(?)。
解析を掛けながらマップを見ると、「下位魔獣・牙鼠」と表示される。
魔獣発見!
如何やら人口密集地の于闐が近付いて来たので、魔獣がボチボチ出没する範囲に入って来たらしい。
「応竜。あの牙鼠を倒せば神力を得られるよね?」
私は、訊ねる。
『ええ。但し、下位の魔獣の狩りは効率が良くないので御勧めはしませんよ。牙鼠程度なら放置しても大した害はありませんので、このまま通り過ぎるのも賢明な選択です』
応竜が答えた。
「何がよ?神力は、遠隔地への転移や、致命傷を治せる回復にも使えるし、応竜の他にも神獣を召喚するのにだって必要でしょう?」
『なら、あの牙鼠を狩りますか?』
「もちろん狩るよ。神力が必要なんだから」
『では、試してみて下さい。下位の魔獣の狩が効率的でない理由が分かると思います』
「いやいや、応竜も手伝ってよ」
『我は遠慮致します』
「何でさ?あんたもやりなよ。牙鼠は、沢山居るんだから手分けした方が早いでしょう?これは命令だよ」
『はぁ……御命令とあらば致し方ありませんね。不本意ですが、これも主上に経験を御積み頂く為の必要な苦労だと思って御付き合い致しましょう』
私と応竜は、伐来達に休憩を取ってもらって牙鼠狩りを始める。
牙鼠は、6匹居るから、神力6単位ゲットだぜ!
・・・
1時間後。
「牙鼠ら、チョコマカと逃げ回りやがって……」
私は、1時間牙鼠を追い掛け回して、1匹も倒せていない。
『だから、効率が悪いと申し上げましたよね』
応竜も成果はなかった。
魔獣は、私や応竜が直接触れなければ影響を及ぼせない。
つまり、弓矢を射るとか石を投げてぶつけるとか、遠隔攻撃では倒せないのだ。
もちろん罠なんかも使えない。
スピード自体は、私や応竜の方が圧倒的に速いから、身体能力を全開にして追い掛ければ追い付くのは簡単なんだけれど、いざ殴るとか蹴るとか、応竜が噛み付いたり尻尾を振って一撃を加えようとすると、牙鼠は体を翻してギリギリ紙一重で回避してしまう。
私と応竜で2手に分かれて挟撃しても、牙鼠は同じように攻撃を擦り抜けて、私と応竜は激突した。
神の私はノー・ダメージだけれど、応竜の方は馬鹿硬い私に体当たりされて、結構なダメージを食らったらしい。
顔面を負傷した応竜は、「もう嫌です」と不貞腐れて牙鼠ハンティングからリタイヤしてしまった。
「クッソ〜ッ!」
如何しても倒せない。
あ〜、苛々する。
『主上。牙鼠のような下位の魔獣や妖魔は、脆弱で害も少ないのですが概して機敏で捕まえたり討伐するのは面倒なのです。放置が賢い選択と申しましたのは、そういう意味です。ですから、もう諦めて移動しましょう』
「ここまで来て止められるか!せめて、1匹倒すまでは、何としても……。それに、応竜は『混沌の勢力を駆逐するのが、私の役目』って言ったよね?下位の魔獣を倒すのですら難しいんじゃ、混沌の勢力を駆逐する事なんか出来ないでしょう?」
『下位の魔獣を容易に倒す方法はございます。小さくて機敏な下位の魔獣を倒す際には、雷霆という遠隔攻撃が極めて有効です。何らかの避雷措置を講じない限り、光速で走る電磁波は回避出来ませんからね』
「雷霆?それ如何やるの?」
『雷霆は、神力を纏った雷撃で、ほぼ全ての魔獣を1撃の元に倒す威力がある強力な神技ですが、1発撃つのに1神力を消費します。なので、神力がない今の我々には雷霆は使えません』
「ちっ……」
『仮に雷霆で牙鼠を倒しても、下位の魔獣を倒して得られる神力は、1単位。つまり、神力を1単位消費して1単位の神力を得るので、見返りがなく効率が悪いのです。単に駆除の目的ならば雷霆で牙鼠を殲滅するのも一案ですが、神力を稼ぐ目的ならば中位以上の魔獣でなければ、労力的に報われません』
「ぐぬぬぬ……」
『主上。もう、止めましょう。伐来達も困惑しておりますよ』
見ると、伐来達は呆然と立ち尽くして、心配そうに私の方を見つめていた。
彼らには、牙鼠の姿が見えない。
つまり、彼らには、私が1人で駆けずり回り転げ回っているようにしか見えていないのだ。
1時間も全力疾走を繰り返して、何もない虚空を殴ろうとしたり蹴ろうとして暴れ回り、「あ〜、もうっ!」とか「こんにゃろ〜っ!」とか叫んでいる者を端から見れば、間違いなく頭がおかしい人だと思われるだろう。
くっ、そんな可哀想な目で私を見るんじゃないよ!
「……いや〜、最近運動不足だったから、丁度良い肩慣らしになったよ。あははは……」
私は、自分の判断の誤りを誤魔化しながら伐来達の元に戻った。
「あ、なるほど、そうでしたか!」
伐来は、言う。
「……んな訳あるかっ!」
「も、申し訳ありません」
『主上。八つ当たりは、みっともないですよ』
応竜が思念で伝えて来る。
『喧しいわっ!』
私達は、牙鼠を放置して出発した。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




